深夜のメイドさん
「って言うことがあったんだよ」
その日の夜、今日あった出来事をゼラに話していた。
『は? なに? 友達いる自慢?』
「い、いや、別にそんなつもりじゃ……」
そして、何故か怒られた。
『あーあ、いいご身分ね。流石、レン様』
「やめて……」
『ついこの前まではほぼ毎日遊んでたのに、最近じゃめっきりだもんね。学校楽しいもんね。お友達いっぱいだもんね。陽キャは忙しいもんね』
「そんな……別に……そんなこと……」
『これはあれだわ。仲いいと思ってた人は実は自分以外にも仲のいい人がいて、自分はその中の大勢の1人だった時の疎外感ね。うちに友達と呼べるのはレンだけなのに。あーショックだわー。もうお友達辞めちゃおっかなー』
ダメだ。完全に拗ねてしまった。こうなったら……。
「実はプリムラの写真が手に入ったんだけど……」
『うちら、ズッ友だよ!』
この人もチョロかったわ。
『くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」…………』
プリムラの画像を送った瞬間、叫び声と共に通話が切れた。
どうやらお気に召したようだ。
「さてそれじゃあ……」
時刻はもうすぐ21時を回る。
「そろそろコンビニにでも行こうかな」
21時を回るとプリムラのお勉強会が始まってしまう。その前に姿を隠さなければ。
財布とスマホだけ持って、僕はプリムラにバレないようにこっそりと家を出た。
夜、コンビニに向かう時、世界が変わったような、そんな気分になる。
朝とは違う、学校に行くときとも違う、制服じゃない、ラフな格好、少し肌寒い夏の風。
何か新しい物語が始まる予感。
って梗夜君が言っていた。
本当に厨二病なんだから。
ま! 僕もそう思ってるけどね! 夜のコンビニ最高! このまま異世界転生したい!
「あなた方、しつこいですわよ」
「なぁなぁ、そう言わずにさぁ。これからねぇ、いいだろう?」
「ん?」
コンビニに向かう道すがらとんでもないものを見つけてしまった。
女性が複数の男性に言い寄られているシーンだ。
漫画でしか見たことない! 実在したんだ!
けど、それよりも驚くべきなのは、その口説かれている女性の方だ。
「ですから、何度も言っていますわよね? わたくしは人を探しているのですわ」
長く艶やかな栗色の髪、身長は僕より高く、プロポーションは完璧。モデルかと見まがうほどの美しい大人の女性だった。
けど、着ている服はメイド服だった。
なんで?
「おいおい、そんな格好しててつれないこと言うなよ。夜のご奉仕、してくれよ~」
お前が言うなよ。そんなベッタベタなセリフ。
漂うモブ感。彼かの行く末が見える。見聞色の覇気極めちゃったかも。
「知らないのなら、あなた方のお相手をしている暇はないですわ」
「そんなこと言わずにさ~」
諦めの悪いモブたちは彼女の手を引っ張って気を引こうとする。
「困りましたわ…………あ」
「え?」
目があってしまった。あのメイド服の女性と目があってしまった。
「やっと見つけましたわ。それではみなさん、ごきげんよう」
メイド服の女性はモブたちに手を振って、僕の方へとかけてきた。
なんで?
「さ、行きましょう」
「さ? え? どこに?」
「………………」
「はい……行きます」
彼女が無言で圧力をかけてきたので、渋々話を合わせた。
それを見たモブたちは「なんだよ。彼氏持ちかよーちぇー」と言って帰ってった。
意外と聞き分けと判断が早い。
多分天狗にビンタされないよ。よかったね。
「失礼しました。話を合わせていただいて」
「いや~……はい」
無言の圧力がすごかったからね。それにそこまで手間ってわけでもなかったし。
「それよりも、人探しをしていたんですよね?」
「そうですわ。もしよろしければ、あなたにもお伺いしたいのですが」
「見たことある人だったら。どんな人ですか?」
「髪は綺麗な金色で、長髪ですわ」
僕の知っている金髪って言えば、プリムラくらいなもんだけど。
「身長はあなたと同じくらいで、スラっとした体形ですわ」
プリムラだなぁ。
「天真爛漫で周りを明るく照らす女性ですわ」
やっぱ、プリムラか。
「それでいて、誰よりも優しく、人を思いやれる素敵なお方ですわ」
ほな、プリムラとちゃうか。
「ごめんなさい。知らない人です」
「そうですの。お手を煩わせてしまいましたね。それではわたくしはこれで失礼させていただきますわ」
「はい、お気をつけて」
そして、その女性はそのまま去っていった。
「なんだったんだ……あの人。コスプレイヤー?」
*
憐太郎と別れた後、その女性は彼に見つからないように後をつけていた。
「…………あれが唯野憐太郎。お姉さまは絶対に取り返して見せますわ」




