神代梗夜
「おはようございます! ご主人! 朝ですよ!」
「うっるさ…………」
朝早く梗夜君が僕の部屋に飛び込んできて起こしに来た。
眠い……。
「朝食は出来ています。さ、学校に行く準備をしましょう」
「ごめん、今日はなんかちょっとあれだから学校休むね」
「分かりました! 学校に連絡しておきます」
ばたんっ!っと扉を閉めて梗夜君は出ていった。
なんで朝からあんなテンション高いのさ……。
「まだ眠いし、二度寝しよ」
布団をかぶりなおして、再び眠りにつこうとする。
けど……。
「レンタロー、おっきてー!!」
今度はプリムラが起こしに来た。
「だから、僕は今日ちょっとあれ……だか、ら……」
学校を休むと言おうとしたが、プリムラが引きずっている梗夜君の姿を見て、その言葉を飲み込んだ。
「…………支度します」
恐らく僕の言葉を真に受けて学校に休みの連絡をしようとしたところをプリムラに見つかり制裁を受けたのだろう。
だって、梗夜君の顔がパンパンに膨らんでるもん。あれ絶対殴られた後だよ。
ここで学校休むとか言い出したら、僕もああなりかねない。
大人しく制服に着替えて、リビングに向かう。
「あれ……? そう言えば、さっき梗夜君が朝食用意したって言ったよね。……大丈夫かな?」
既に茉奈花と言う料理上手がここには住んでいる。料理が上手いキャラがいる場合、その後にやってくるキャラが料理上手である可能性は低い。だってキャラ被りするもん。
そうなると、ベタに料理下手キャラが来るのがお決まりだ。
梗夜君はお坊ちゃまだ。料理なんてメイドや執事がやっていただろうから、料理下手キャラである可能性は十分高い。いや、むしろそうでなければおかしい。
それでそうなった場合、大食いキャラであるプリムラは実は味覚音痴で梗夜君のクソまずメシを美味しいとか言って食べているに違いない。
あーやっべぇ、漫画やアニメに精通しているせいでこの先の展開読めちゃった。ごめんね、読者。ネタバレしちゃった。
「さぁ、来るといい。ダークマター系か? それとも見た目だけはまとも系か?」
「お兄さま? どうされたのですか?」
「いや~どんな朝食かなって思ってね。で、どんなダークマターなんだい?」
「ダークマター? いいえ、ただのサンドイッチですよ?」
コトっと梗夜君がテーブルの上に置いたのは本当にただのサンドイッチだった。
今のところ見た目はまともだ。
「クロックムッシュです」
「クロ……え? なんだって?」
聞き馴染みのない言葉に僕は戸惑っていた。
「簡単に言うと、ハムとチーズを挟んで軽く焼いたホットサンドですね」
「あ~はいはい。クロロムッシュね。美味しいよね」
どうしよう、思った以上にオシャレな感じの奴が出てきたんだけど。なに? サンドイッチって適当に具材挟むだけじゃないの?
めっちゃいい匂いするし、味も期待できそうな感じなんだけど。
「…………うっ、美味しい」
「ありがとうございます! ご主人!」
あれれ? おっかしいなぁ~。こんなはずじゃなかったのに。料理上手キャラ被っちゃってるけどいいの? 大丈夫? 既にキャラのネタ切れ?
「おいひ~!」
そう言ってプリムラもなんか食べてるけど、多分僕と違うやつだね。だって、なんかタワーみたいになってるもん。プリムラの顔見えないし。
あれどうやって食べるのさ。
「梗夜君って料理出来たんだね」
「はい、テント暮らしの時は自炊していたので」
「梗夜さんのお料理スキルはとても高くて驚きました。ぜひとも私に伝授していただけませんか?」
「もちろん! ご主人の妹さんのためならなんでもお手伝いします!」
そう言えば、食材が送られてきていたって言ってた。あれ出来合いのものだと思ってたけど、本当に食材だけで調理は梗夜君がやってたんだ。
てか、いつの間にか茉奈花と梗夜君の仲が良くなってる。
茉奈花の性格からして人見知りをするようなタイプではないからそこまで以外ではないけれど。
流石に知らない男の人が居候するって話になったときはもう少し違和感を持ってほしかった。
プリムラも梗夜君もうちに住むことになったって聞いたとき、茉奈花は拒否するどころかむしろ嬉しそうにしていた。
その感覚は僕にはないものだ。
「それでは学校に行きましょう」
「あれ? 梗夜君も一緒?」
「はい! 今日から一緒のクラスです」
「え? 転校してくるの?」
てか、同い年だったんだ。知らなかった。
「で、その格好で行く気?」
「制服がなかったので」
完全に私服なんですが。しかも厨二アクセサリーマシマシ。先生に怒られませんかね。
「いいしょ! あーしは怒られたことないしー」
「プリムラを基準にするのはダメだぞ」
とは言え、制服がないものは仕方がない。
私服の梗夜君を連れ僕たちはいつも通り学校へ登校する。
「ねぇねぇ、あの人イケメンじゃない?」「カッコイイ!」「なんで制服着てないんだろう? 芸能人?」「プリムラさんと一緒に歩いてるじゃん! 美男美女カップル!?」「あの真ん中の誰? 浮いてない?」
学校について早々、梗夜君は目立ちに目立っていた。
「流石、ご主人。学校の中でも注目の的ですね」
注目されてるのは君なんだよ。
「それから、美男美女カップルと言うセリフを聞いた瞬間、すっ飛んでこないで。委員長」
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん??????????」
「興奮しすぎて鼻の穴デカくなっちゃってるじゃん。女の子がしちゃいけない顔してるよ」
「ラブコメ探知機に反応があったからな。仕事ほっぽって飛んで来た」
カプ厨としての性能高すぎでしょ。この人。
「で、彼は一体誰なんだい? どんな関係なんだい? どこまでしたんだい? 子供は何人?」
「びっっっっっくりした。急にアクセル踏みつぶすんだもん。事故ったわ」
「ご主人の知り合いか? 俺は梗夜。昨日からご主人と一緒に暮らしている。関係性は……そうだな……ご主人が王で俺が下僕と言ったところだ」
「ごふっ!」
「おい、血吐いて倒れた。このカプ厨。何が刺さった」
「BL……SMプレイ……」
「遺言みたいに恐ろしいこと呟かないで!」
「あーしに任せて。心肺蘇生してみる」
「いや、これ別に心肺停止してるわけじゃないんだけど」
「委員長、これ見て」
プリムラは鞄から一冊の薄い本を取り出し、委員長の目の前に広げる。
「っ!」
それを見た瞬間、委員長は飛び起きてその薄い本をかっさらった。
「推しカプの二次創作!!!!!!!!!」
思った以上に単純な身体構造してたわ。
「ご主人、この人何なんですか?」
その一通りの流れを見て、梗夜君はドン引きしていた。
「あれはね、女の子の皮を被った化け物だよ」
とりあえず、関わっちゃダメと言うことだけ、梗夜君に教えておいた。
「ん、唯野君じゃない」
「あ、夢咲先生」
声をかけてきたのは担任教師の夢咲先生だった。
「最近休んでいたから知らなかったけど、ちゃんと学校に来るようになったんだってね。よかったわ」
「そう言えば、最近夢咲先生を見てなかったですね」
新学期初日に会ったくらいで、それ以降学校を休んでいたみたいだ。
「何かあったんですか?」
「実は……推しVが引退しちゃったの」
「は?」
「不祥事が発覚しちゃってねなんでも会社の内部情報を外部に漏らしちゃったからとかでもねそんなのはどうでもいいのよもうダメメンタルがやられちゃってさ3日間くらい寝込んじゃったのよねだってもうあの人に会うことは出来ないのよ?チャンネルも消されちゃったしツ〇ッターも消すって彼がいた痕跡は切り抜き動画しか残らなくなっちゃったのよこれが休まずにいられますかって話なのよ酒瓶5本くらい開けちゃったわそれに来月あったはずのライブも中止よ?今月の仕事のモチベはそこにあったのにそんなのあんまりじゃない私もう立ち直れないかも病むリスカしよ」
早口すぎて何言ってるか分かんなかったんだけど。これだからオタクは。
「あのー夢咲先生。もういいですか? 愚痴終わりました?」
「あ、ごめんなさい。つい」
つい、で生徒の前でリスカしよとか言わないでください。
「それで転校生なんですけど……」
「転校生?」
「え? あの今日から来る……」
「そうなの?」
「ん?」
「?」
あー、どういうこと?
この反応的に夢咲先生は転校生が来ることを知らないみたいだけど。
「彼が今日からうちのクラスに入るって聞いたんですけど」
僕は梗夜君の方を指さした。
「うはー校則違反ぶっちぎっちゃってんじゃーん。私見なかったことにしーよお」
「いや、見てください。彼が転校生だって言ってるんですよ」
「だから、私、知らないって言ってるじゃーん」
と言い残し、夢咲先生は去っていった。
いや、仕事してくださいよ。
「ねぇ、梗夜君。どういうこと? 先生は君が転校してくること知らないって」
「ん? 当然ですよ。だって、言ってないんですから」
「へ?」
今この人なんて言いました?
「ご主人のクラスに行くって決めたのは俺ですからね。教師なんて関係ないです!」
あー、つまり、この人は学校に来る予定はなく、ただ自分が行きたいから行くって言ってただけってことでok?
そりゃ制服もないわけだ。あっはは。
って
「どう考えてもおかしいじゃん!!!!!!!!」
「どうしたんですか? 急に大声出して」
「ていうか、そうだ。まだ聞いてなかったけど、梗夜君。学校は? 別の高校に行ってるってことだよね!?」
「いや、俺もう二十歳ですよ」
「まさかの高校クリア済み! じゃあ、大学生なの!?」
「いえ、中退です」
「辞めてた! なんで!?」
「ご主人についていくと決めたからです」
「サイコサイコ! 君、サイコだよ!」
「ああ、いいです。すごくいいです。ご主人、もっとお願いします」
「顔赤らめないで、興奮しないで、さらに要求しないで、これ以上はダメ。奴が来る」
「フッー! フッー! フッー!」
「クッソ! 同人誌で気を逸らしたはずなのになんで! 鼻息荒い! カメラこっち向けないで!」
「おい、そこの女。ご主人を勝手に隠し撮りするな!」
「残念、手遅れだ。既に写真は手に入れてある」
「すぐに消しやがれ!」
「まぁ、少し落ち着け。君とのツーショットだ。いるか?」
「QRコードだ。早く友達追加しろ」
「即落ち2行!」
「ご主人、彼女はいい奴でした」
「君はちょっとチョロすぎるよ……」
結局、この後、梗夜君は他の先生たちに連行され学校の外に追い出されたのだった。
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「着きましたわ。ここが川越ですのね」
その女性は周囲から注目を集めていた。
何故なら、日常生活ではまずお目にかかれないメイド服を着ていたから。
「待っていてくださいませ。――――お姉さま」




