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もふもふ聖獣はサーシャがだいすき!  作者: 早乙女姫織


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第八話   荒野

王国評議会で「偽物」と断じられ、追放の決定を告げられた翌朝。


鐘の音が冷たく響く中、サーシャは荷を背負い、王宮の廊下を歩いていた。


外套の中には小さなもふもふが隠れている。


人々の視線は冷たく、囁きは鋭く突き刺さった。


「聖女の座を汚した娘だ」


「獣を抱いていたなど、神への冒涜だ」


その声を背に受けながら、サーシャは唇を噛みしめ、足を進めた。


城門を越えると、冷たい風が頬を打った。


王国の街並みが背後に広がり、彼女の居場所はもうそこにはなかった。


町で旅支度を整えた後、彼女は荒野へと歩みを進めた。


袋には干し肉と干し果物、麻布の袋、水袋、火打石、そして母から贈られた小さなペンダント。


重さは決して大きくはないが、心の重さは何倍にも感じられた。


荒野は広く、乾いた大地がどこまでも続いていた。


風は砂を巻き上げ、空は青く澄んでいるのに、どこか冷たさを帯びていた。


王宮の石造りの壁も、町の賑わいも、すべて遠ざかり、ただ広がるのは孤独な世界だった。


「……ここから、始めるしかない」


サーシャは小さく呟き、杖を握りしめた。


もふもふが外套の中から顔を出し、尻尾を揺らした。


その瞳は澄み、彼女を見つめていた。


歩みを進めるたびに、王宮で浴びた嘲笑の記憶が蘇る。


「偽物だ」


「神の加護など受けていない」


「獣と共に消えるがいい」


その言葉は耳に残り、胸を締め付けた。


だが、もふもふの温もりが彼女を支えた。


小さな体が寄り添い、彼女の指先を舐める。


その仕草に、サーシャは涙を拭い、微笑んだ。


「あなたがいてくれるから……私はまだ立てる」


荒野の道は険しかった。


昼は太陽が照りつけ、乾いた風が喉を渇かせる。


水袋の中身は少しずつ減り、食料も限られていた。


サーシャは歩みを止め、岩陰に腰を下ろした。


もふもふは彼女の膝に乗り、尻尾を揺らした。


「ごめんね……食べ物は少ししかないけれど」


彼女は干し果物をちぎり、もふもふに差し出した。


獣は夢中で食べ、彼女はその姿を見て微笑んだ。


わずかな幸せが胸に広がり、孤独の中に小さな光が灯った。


夜になると、荒野は冷え込んだ。


星々が瞬き、風が草を揺らす。


サーシャは火打石で火を起こし、小さな焚き火を囲んだ。


炎の揺らめきが彼女の顔を照らし、もふもふは膝の上で丸くなった。


「……寒いね。でも、星が綺麗」


彼女は空を見上げ、静かに歌を口ずさんだ。


母から教わった子守歌。もふもふは耳を傾け、やがて眠りに落ちた。


サーシャはその寝顔を見つめ、涙を拭った。


「偽物だと言われても……私は祈りを続ける」


翌朝、太陽が昇ると、荒野の広がりが目に映った。


遠くには岩山が連なり、道は果てしなく続いていた。


サーシャは杖を握り、歩みを進めた。


背後には王国の街並みが霞んで見え、前方には未知の旅路が広がっていた。


「ここから……私の物語が始まる」


彼女はそう呟き、もふもふと共に荒野を歩き続けた。孤独と試練の旅が、静かに幕を開けていた。


荒野を歩み始めて一週間が過ぎた。


サーシャの足は重く、靴の底は擦り切れ、砂に沈んでいた。


昼は太陽が容赦なく照りつけ、乾いた風が喉を焼いた。


夜は冷え込み、星々が瞬く中で震えながら眠るしかなかった。


水袋の中身は残りわずか。干し肉も果物も底を尽きかけていた。


サーシャは岩陰に腰を下ろし、唇を噛みしめた。


「……これ以上、歩けるのかな」


もふもふは外套の中から顔を出し、尻尾を揺らした。


彼女の指先を舐め、寄り添う。


小さな温もりが胸に広がり、サーシャは涙を拭った。


「あなたがいてくれるから……私はまだ立てる」


だが、試練は続いた。



二日目の昼、彼女は砂嵐に遭遇した。


風が砂を巻き上げ、視界を奪った。


サーシャは必死に外套で顔を覆い、もふもふを抱きしめた。


砂が肌を刺し、呼吸が苦しくなる。


「……負けない。絶対に」


嵐が過ぎ去った後、彼女は膝をつき、荒野に倒れ込んだ。


だが、もふもふが彼女の頬を舐め、尻尾を揺らした。


その仕草に、彼女は再び立ち上がった。


三日目の夜、遠くで獣の遠吠えが響いた。


闇の中から影が近づき、野犬が牙を剥いた。


サーシャは恐怖に震え、声を失った。


焚き火の炎が揺れ、影が迫る。


その瞬間、もふもふの体が淡く光を放った。


野犬は怯え、吠え声を上げて逃げ去った。


サーシャは驚き、もふもふを見つめた。


「……あなたは、ただの獣じゃないの?」


その瞳は澄み、星のように輝いていた。


サーシャは涙を流し、もふもふを抱きしめた。


四日目の昼、彼女は荒野に倒れた。


足は重く、喉は渇き、視界は霞んでいた。


だが、もふもふが彼女を導くように進み、泉を見つけた。


水は澄み、花が咲き、荒野に小さな楽園が広がっていた。


サーシャは水を飲み、命を繋いだ。


泉の周りには花が咲き、風が優しく吹いた。


彼女は「神は私を見捨てていない」と感じ、涙を流した。


「ありがとう……あなたが導いてくれたのね」


もふもふは尻尾を揺らし、彼女の胸に顔を埋めた。


五日目の夜、焚き火を囲み、パンを分け合った。


炎の揺らめきが彼女の顔を照らし、もふもふは膝の上で眠った。


サーシャは空を見上げ、静かに呟いた。


「偽物だと言われても……私は祈りを続ける」


星々が瞬き、風が草を揺らす。


荒野の孤独と試練の中で、彼女は小さな奇跡を見つけた。


もふもふと共に歩む旅は、まだ始まったばかりだった。

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― 新着の感想 ―
 王国で降り注いだ無茶苦茶な聖女幻想からの無理解と言葉の刃の雨がとぎれ、代わりにサーシャさんやパートナーへ迫るのは孤独や淡々と追い詰める砂嵐という訳ですか。  しかし、口喧嘩に向いてない彼女にとっては…
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