第二十七話 使者再び
夜空に星が瞬き、村全体を包んだ「光の祭り」は、村人たちの心に深い余韻を残していた。
サーシャの祈りと人々の歌が共鳴し、もふもふの体から溢れた光は泉を澄ませ、畑を潤し、村の家々を柔らかく照らした。
人々はその奇跡を目の当たりにし、涙を流しながら「本物の聖女だ」と声を上げた。
翌朝、村は祭りの余韻に包まれていた。
子どもたちは花冠を頭に載せ、広場で走り回り、老人たちは泉の水を汲みながら「清らかだ」と微笑ん
だ。
若者たちは畑に立ち、土の柔らかさを確かめながら「これなら豊かな収穫が望める」と声を上げた。
村全体が希望に満ち、恐怖は薄れていた。
サーシャは小屋の前に立ち、朝の祈りを捧げていた。
肩の傷はまだ痛んでいたが、心は静かだった。
もふもふは足元に寄り添い、尻尾を揺らしていた。
「私は……偽物ではない。この村に光を届ける者だ」
その言葉は風に乗り、村の空へと広がった。
だが、平穏は長く続かなかった。
昼下がり、村の入り口に重い蹄の音が響いた。
乾いた地面を打ち鳴らす音は、祭りの余韻を破るように重苦しく響いた。
「誰だ……?」
「旅人か?」
村人たちは顔を曇らせ、広場に集まった。
やがて姿を現したのは、王国の紋章を掲げた馬車だった。
前回よりも兵士の数は多く、鎧は重く、威圧感に満ちていた。
馬車から降り立ったのは、黒い外套を纏った男――王国の使者だった。
「また来た……」
「今度は兵士が多い……」
村人たちは息を呑み、恐怖に包まれた。
子どもたちは母親の裾に隠れ、老人たちは杖を握りしめた。
サーシャは胸に手を当て、静かに立ち上がった。逃げることはできない。
使者は冷たい声で告げた。
「王国は聖女を必要としている。今度こそ従ってもらう」
その言葉は広場に重く響き、村人たちはざわめいた。
「従う……?」
「王国は彼女を偽物と呼んだはずだ」
「なぜ今になって……」
使者は村人たちを見渡し、冷笑を浮かべた。
「王国は聖女を偽物と定めた。だが、光の祭りの噂は王国にも届いた。もし本物ならば、王国に仕えさせ
るべきだ。王国の威光を乱すことは許されない」
その言葉に村人たちは動揺した。
だが、子どもたちが声を上げた。
「違う! 聖女様は本物だ!」
「魔物から守ってくれたんだ!」
村人たちも次第に声を重ねた。
「彼女は祈りを捧げ、泉を浄化した」
「血を流してまで子どもたちを守った。偽物にそんなことができるものか!」
使者は眉をひそめ、冷たい視線をサーシャに向けた。
「……証言など意味はない。王国が偽物と定めた以上、それが真実だ。逆に混乱を生んでいるといえよ
う。やはり、連れ戻さねば」
サーシャは唇を噛みしめ、静かに答えた。
「私は偽物ではありません。村の人々が証人です」
その言葉は広場に響き、村人たちは頷いた。
使者はしばし沈黙し、やがて低い声で告げた。
「王国に逆らうつもりか。ここまできたのは優しさだぞ。無下にするのか。命知らずめ」
その脅しに村人たちは一瞬怯えた。だが、老人が杖を突きながら前に出た。
「王国が何と言おうと、この村では本物の聖女だ。彼女を渡すことはできぬ」
若者たちも声を上げた。
「俺たちは守ってもらった。命を懸けて戦った姿を見たんだ」
「偽物なんかじゃない!」
広場は抵抗の声で満ちた。
使者は冷笑を浮かべ、兵士たちに視線を送った。
だが、村人たちの決意に圧され、すぐには動けなかった。
広場に緊張が張り詰めていた。
王国の使者が再び現れ、兵士たちが冷たい鎧を鳴らしながら村人たちを睨みつけている。
前回よりも数は多く、剣の光は焚き火の炎を反射して不気味に輝いていた。
「最後の忠告だ。この村ごと裁かれることになるぞ」
使者の声は低く、重く、広場に響いた。
村人たちは息を呑み、子どもたちは母親の裾に隠れた。
老人たちは杖を握りしめ、若者たちは拳を固めた。
恐怖と怒りが入り混じり、空気は張り詰めていた。
サーシャは胸に手を当て、静かに立っていた。肩の傷はまだ癒えていない。
痛みは鋭く、血の痕は衣に残っていた。
だが、彼女の心を揺らしていたのは痛みではなく、選択だった。
――もし王国に従えば、村は守られるかもしれない。
だが、私は再び「偽物」と呼ばれ、孤独に沈むだろう。
――もし村に残れば、王国の怒りは村を襲うかもしれない。人々を危険にさらすことになる。
心は揺れ、唇は震えた。王国で過ごした日々が蘇る。
嘲笑、冷たい視線、偽物と呼ばれた声。
あの孤独に戻ることは耐えられない。
だが、村を危険にさらすこともできない。
「私は……どうすればいいの?」
その声は小さく、誰にも届かない。
だが、もふもふが足元に寄り添い、尻尾を揺らした。
小さな温もりが答えとなり、彼女の心に光が灯った。
「私は何を言われてもここに残ります。この村を守るために」
その言葉は静かだったが、確かな決意を帯びていた。
サーシャの言葉に、村人たちは息を呑んだ。だが、すぐに声を上げた。老人も、若者も、子どもも。
「王国が何と言おうと、この村では本物の聖女だ!」
「彼女を渡すことはできない!」
「血を流してまで守ってくれた。偽物にそんなことができるものか!」
広場は抵抗の声で満ちた。
使者は苛立ち、兵士に命じようとした。
だが、村人たちの決意に圧され、すぐには動けなかった。
老人が杖を突きながら前に出た。
「我らは見た。祈りの光、泉の浄化、魔物を退けた勇気――これらは偽物にはできぬことだ。王国が何と
言おうと、我らは信じる」
若者たちは剣を持たずとも立ち上がり、使者を睨んだ。
「俺たちは守ってもらった。命を懸けて戦った姿を見たんだ」
「偽物なんかじゃない!」
子どもたちも声を上げた。
「聖女様は本物だ!」
「もふもふも戦ったんだ!」
その声は純粋で、飾り気のない真実だった。
村人たちの心は一つになり、広場は抵抗の声で満ちた。
サーシャは涙を流しながらも微笑んだ。
村人たちの声は彼女の心を支え、もふもふの温もりは確かな答えだった。
「偽物だと言われても……私は祈りを続ける。人々を守り、光を届けるために」
その言葉は広場に響き、村人たちは深く頷いた。
使者は冷笑を浮かべ、兵士たちに視線を送った。
だが、村人たちの決意に圧され、すぐには動けなかった。
広場は静かに燃えていた。
恐怖と怒り、希望と決意。サーシャの心は揺れていたが、村人たちの声が彼女を支えた。




