第二十三話 一匹の怒り
森の広場は血の匂いに包まれていた。
サーシャの肩から流れる赤い血が衣を染め、彼女は必死に子どもたちを庇いながら膝をついていた。
魔物の咆哮が響き渡り、木々が震え、空気は重く冷たく沈んでいた。
その瞬間――もふもふが吠えた。
普段は子どもたちに撫でられて尻尾を揺らすだけの小さな獣が、怒りに満ちた声を上げたのだ。
瞳は鋭く光り、毛並みは逆立ち、体から淡い光が溢れ出した。
「あぶない……!」
サーシャは驚き、震える声で叫んだ。
だが、もふもふは振り返らず、魔物に向かって突き進んだ。
魔物は赤い目を光らせ、再び爪を振り上げた。
だが、もふもふはその爪を避け、鋭い牙で魔物の足に噛みついた。
小さな体からは信じられない力が放たれ、魔物は苦しげに咆哮を上げた。
「グォォォォ!」
森が震え、子どもたちは耳を塞いだ。
だが、もふもふは怯まなかった。怒りに燃える瞳は魔物を睨みつけ、尻尾から光が迸った。
その光はサーシャの祈りと共鳴し、浄化の力を帯びていた。
もふもふの体から放たれる光は、魔物の黒い影を削り取った。
赤い目が揺らぎ、牙が震えた。
魔物は後退しようとしたが、もふもふは追い詰めるように吠え続けた。
「もふもふ……頑張って!」
子どもたちの声が広場に響き、祈りとなって光に力を与えた。
サーシャは傷を押さえながらも両手を組み、祈りを捧げた。
「神よ……どうか、この小さな勇者に力を」
光はさらに強まり、魔物の体を包んだ。
黒い影が揺らぎ、赤い目が苦しげに瞬いた。
魔物は最後の力を振り絞り、咆哮を上げてもふもふに爪を振り下ろした。
だが、もふもふは跳び上がり、光を纏った体で魔物の胸に突き刺さるようにぶつかった。
「――ッ!」
衝撃が広場を揺らし、魔物は後退した。黒い影が裂け、赤い目が消え、体は霧のように崩れていった。
「グォォォ……」
最後の咆哮を残し、魔物は森の奥へと消えていった。
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