第十七話 獣と子ども
声に周囲の子どもたちも集まり、もふもふを囲んだ。
それからというもの、子どもたちは毎日のようにもふもふのもとに集まった。
広場で祈りを終隣国の村で暮らし始めてから、サーシャは少しずつ人々に受け入れられるようになってい
た。
毎朝広場で祈りを捧げ、畑を手伝い、病に苦しむ者には光を分け与えた。
完全な癒しはできなくとも、その真摯な姿勢は村人の心を和らげていた。
だが、彼女を最も早く受け入れたのは子どもたちだった。
理由は単純だ。サーシャの傍らに、ふわふわの白い獣――もふもふがいたからだ。
ある日、広場で祈りを終えたサーシャのもとに、小さな子どもが近づいてきた。
まだ五歳ほどの少女で、母親の裾を握りしめながらも、もふもふをじっと見つめていた。
「……ふわふわ」
少女の声は小さく震えていた。
サーシャは微笑み、もふもふに視線を送った。
獣は尻尾を揺らし、少女の前に歩み寄った。
「怖がらなくていいわ。もふもふは優しいの」
サーシャがそう言うと、少女は恐る恐る手を伸ばした。
もふもふはその手に鼻先を寄せ、柔らかな毛並みを触れさせた。
少女は目を見開き、やがて笑顔を浮かべた。
「ふわふわだ!」
そのえると、彼らは駆け寄り、毛並みを撫でたり、背に乗ろうとしたりした。
もふもふは嫌がることなく、尻尾を揺らして彼らと遊んだ。
「もふもふ、こっちだ!」
「かくれんぼしよう!」
子どもたちの声が広場に響き、笑い声が絶えなかった。
サーシャはその光景を見守り、胸の奥が温かくなるのを感じた。
王国で嘲笑され、孤独に沈んでいた日々とは違う。
ここでは、もふもふが子どもたちの心を開き、彼女を受け入れるきっかけを作っていた。
ある日、村の少年が転んで膝を擦りむいた。
血が滲み、泣き声が広場に響いた。
サーシャは駆け寄り、祈りを捧げた。
光が膝を包み、痛みが和らいだ。少年は涙を拭い、もふもふに抱きついた。
「ありがとう、聖女様……そして、もふもふ!」
その言葉に周囲の子どもたちは笑顔を浮かべ、もふもふを撫でた。
獣は満足そうに鳴き、尻尾を揺らした。
夜になると、子どもたちはサーシャの小屋に集まった。
焚き火の光に照らされながら、彼女は物語を語った。神話や伝承、旅の途中で見た風景――そして、もふ
もふが泉を浄化した奇跡の話。
子どもたちは目を輝かせ、もふもふに寄り添いながら聞き入った。
獣は彼らの膝に顔を埋め、静かに鳴いた。
「もふもふは神様からの贈り物なんだね」
「だから、聖女様と一緒にいるんだ」
その言葉にサーシャは涙を堪え、微笑んだ。
子どもたちの純粋な心が、彼女を支えていた。
村人たちは次第に気づいた。
子どもたちが笑顔を見せ、もふもふと遊ぶ姿は、村全体を明るくしていることに。
母親たちは安心し、父親たちは感謝を口にした。
「聖女様……あなたが来てから、子どもたちが笑うようになった」
その言葉はサーシャの胸に深く刻まれた。
王国では偽物と呼ばれた彼女が、ここでは子どもたちの笑顔を守る存在になっていた。
夜、小屋で眠る前に、サーシャはもふもふを抱きしめた。
「ありがとう……あなたがいてくれるから、私はここで生きられる」
もふもふは静かに鳴き、彼女の胸に顔を埋めた。
小さな温もりが、冷たい言葉の嵐から彼女を守り続けていた。
村の子どもたちと仲良くなることで、もふもふはただの獣ではなく、希望の象徴となった。
サーシャはその姿を見て、心の奥に確かな光を感じた。




