第十六話 優しい光
隣国の村で暮らし始めてから幾日かが過ぎた。
サーシャは毎朝広場で祈りを捧げ、村人たちと共に畑を耕し、井戸で水を汲み、子供たちに歌を教えるよ
うになった。
最初は「偽物」と囁かれていたが、彼女の真摯な姿勢に少しずつ人々の心が和らいでいった。
ある日の午後、村の畑で働いていた若者が突然倒れた。
背中に重い荷を背負い、長時間働いていたために足を痛めてしまったのだ。
周囲の人々が駆け寄り、彼を支えたが、痛みが強く歩けない様子だった。
「どうしよう……このままでは収穫が間に合わない」
「医者を呼ぶにも、街まで遠い」
人々の声は不安に満ちていた。
サーシャはその場に駆け寄り、膝をついて若者の顔を覗き込んだ。
汗が額に滲み、唇は震えていた。
「大丈夫……少しでも楽になるように祈ります」
彼女は静かに手を組み、もふもふが足元に寄り添った。
サーシャの掌から淡い光が広がり、若者の足を包んだ。
光は柔らかく、温かな風のように痛みを和らげていく。
若者は息を呑み、やがて顔を緩めた。
「……痛みが、少し引いた」
周囲の人々は驚き、囁き合った。
「本当に……効いている」
「偽物ではないのかもしれない」
光は傷を完全に癒すことはできなかった。
だが、若者は立ち上がり、杖をついて歩けるようになった。
彼は涙を浮かべ、サーシャに頭を下げた。
「ありがとう……これで収穫を続けられる」
その言葉は彼女の胸を温めた。
その出来事をきっかけに、村人たちは少しずつ彼女を信じ始めた。
老人は腰の痛みを訴え、母親は病気の子供を抱いて祈りを頼んだ。
サーシャは一人ひとりに祈りを捧げ、光を分け与えた。
「完全に治すことはできないけれど……少しでも楽になりますように」
彼女の言葉は優しく、人々の心を癒した。もふもふは子供たちの傍で尻尾を揺らし、笑顔を広げた。
「聖女様……いや、サーシャ様。あなたがいてくれると、心が少し楽になる」
その言葉は彼女の胸に深く刻まれた。
ある夕暮れ、村の広場で祈りを捧げていると、突然空が曇り、雨が降り始めた。
人々は慌てて屋根の下に逃げ込んだが、畑の苗が雨に打たれて倒れそうになった。
サーシャは広場に立ち、もふもふと共に祈りを捧げた。
「どうか、この苗を守ってください」
光が広がり、雨の勢いが和らいだ。苗は倒れず、畑は守られた。人々は驚き、涙を流した。
「……奇跡だ」
「神は彼女を見捨てていない」
その声は村全体に広がり、サーシャは胸に手を当てて涙を拭った。
その夜、サーシャは小屋で焚き火を起こし、もふもふを膝に乗せた。炎の揺らめきが彼女の顔を照らし、
獣は丸くなって眠った。
「偽物だと言われても……私は祈りを続ける。あなたたちがいてくれる限り」
その言葉は夜風に溶け、星々に届いた。
村人たちの心に小さな光が灯り、彼女の旅は新しい希望へと続いていった。




