第十五話 村での生活
隣国の村に足を踏み入れたサーシャは、最初こそ人々の視線に戸惑った。
王国から来た「偽物の聖女」という噂はすでに広まっていたらしく、村人たちは彼女を遠巻きに見つめ、囁き合った。
だが、彼女は逃げなかった。
泉を浄化した奇跡を胸に、祈りを続ける決意を固めていた。
「私は……祈りを捧げます。どうか、この村に安らぎを」
その言葉に、村人たちは半信半疑ながらも彼女を受け入れた。
村の広場に小さな小屋が与えられ、彼女はそこで暮らすことになった。
最初の数日は、村人たちの態度は冷たかった。
子供たちは彼女を見て囁き、母親たちは距離を置いた。
だが、サーシャは毎朝広場で祈りを捧げ、村の畑や井戸の前で静かに手を合わせた。
ある日、畑で働く農夫が腰を痛めて倒れた。
サーシャは駆け寄り、祈りを捧げた。
光は弱かったが、痛みは少し和らぎ、農夫は立ち上がることができた。
「……ありがとう。完全には治らなかったが、楽になった」
その言葉に周囲の人々は驚き、少しずつ彼女を見る目が変わっていった。
もふもふの存在は、子供たちの心を開く鍵となった。
最初は遠巻きに見ていた子供たちも、もふもふが尻尾を揺らして近づくと、笑顔を見せた。
「ふわふわだ!」
「聖女様の獣だ!」
子供たちはもふもふの背に触れ、毛並みを撫でた。
もふもふは嬉しそうに鳴き、彼らの周りを駆け回った。
サーシャはその光景を見て微笑み、子供たちに野草の見分け方や簡単な祈りの言葉を教えた。
「祈りは心を澄ませるもの。神様は必ず見ていてくださるのよ」
子供たちは真剣に耳を傾け、やがて彼女を「偽物」ではなく「先生」と呼ぶようになった。
サーシャは村人たちと共に生活を始めた。
朝は井戸で水を汲み、畑で草を抜き、昼は子供たちと遊び、夜は広場で祈りを捧げた。
村人たちは次第に彼女を受け入れ、食事を分け与えたり、小屋の修繕を手伝ったりするようになった。
サーシャは感謝を込めて祈りを捧げ、もふもふは村人たちに寄り添った。
「聖女様……いや、サーシャ様。あなたがいてくれると、心が少し楽になる」
その言葉は彼女の胸を温めた。
ある日、村で小さな祭りが開かれた。
収穫を祝うためのものだった。
広場には花が飾られ、音楽が響き、人々が踊った。
サーシャも招かれ、もふもふと共に参加した。
子供たちは彼女の周りに集まり、手を取り合って踊った。
老人たちは彼女に祈りを頼み、若者たちは彼女を守るように見守った。
「偽物だと言われても……私は祈りを続ける」
その言葉は祭りの歌に溶け、村の空へと広がった。
村での生活は、サーシャにとって新しい絆を生むものだった。
王国で嘲笑され、孤独に沈んでいた彼女が、ここでは少しずつ受け入れられていた。
人々は彼女の力を「奇跡」とは呼ばなかったが、「心を癒すもの」として認め始めていた。
夜、小屋で眠る前に、サーシャはもふもふを抱きしめた。
「ありがとう……あなたがいてくれるから、私はここで生きられる」
もふもふは静かに鳴き、彼女の胸に顔を埋めた。
小さな温もりが、冷たい言葉の嵐から彼女を守り続けていた。




