第十四話 隣国の村へ
森での生活は穏やかだった。
泉を浄化し、小動物たちと共に過ごす日々は、サーシャの心を癒してくれた。
だが、彼女は知っていた。
いつまでも森に留まることはできない。
王国で「偽物」と呼ばれた彼女にとって、ここは一時の避難所に過ぎない。
食料もつきかけている。
旅は続けなければならない。
「……隣国へ行こう。そこなら、新しい道が見つかるかもしれない」
もふもふは尻尾を揺らし、鳴いて応えた。
小さな瞳には迷いはなく、ただ彼女を信じる光が宿っていた。
サーシャは荷をまとめ、森を後にした。
森を出る道は、決して平坦ではなかった。
木々の間を抜ける小径は細く、時に獣道のように途切れ、倒木や岩が行く手を阻んだ。
サーシャは杖を頼りに進み、もふもふは先を歩いて道を探した。
朝の光が木漏れ日となって差し込み、鳥の声が響く。
森の奥へ進むほどに空気は重くなり、湿った匂いが漂った。
苔むした岩を越え、泥に足を取られながらも、サーシャは歩みを止めなかった。
「あと少しで……森を抜けられるはず」
彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。
やがて森を抜けると、広がる丘に辿り着いた。
そこは王国と隣国の境界に近い場所で、風が強く吹き抜けていた。
丘の上からは遠くに村の屋根が見え、煙が立ち上っているのが分かった。
「……あれが隣国の村」
サーシャは目を細め、胸の奥に希望を抱いた。
だが同時に、不安も広がった。
王国で「偽物」と呼ばれた彼女を、隣国の人々はどう受け止めるだろうか。
もふもふは彼女の足元に寄り添い、尻尾を揺らした。
まるで「大丈夫」と言っているようだった。
丘を下ると、隣国の村が近づいてきた。
木造の家々が並び、畑が広がり、人々の声が響いていた。
サーシャは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「ここが……隣国の村」
村人たちは彼女を見て驚いた。
白い衣を纏い、杖を持ち、獣を連れた姿は珍しかった。
囁きが広がり、視線が集まった。
「聖女様……?」
「いや、王国から来たただの娘では?」
その声は冷たくもあり、期待を含んでもいた。
サーシャは唇を噛みしめ、もふもふを抱きしめた。
「私は……聖女ではありません。でも祈りを続けます」
その言葉は村人たちの心に届くかどうか分からなかった。
だが、泉を浄化した奇跡を胸に、彼女は歩みを止めなかった。
広場に立つと、老人が杖を突いて近づいてきた。
顔には深い皺が刻まれ、瞳は鋭かった。
「若い女性が一人で、遠くからご苦労だね。村での生活になじめるなら、なじみなさい。」
その言葉は試すようであり、期待を込めたものでもあった。
サーシャは胸に手を当て、深く息を吸った。
「私は……祈りを捧げます。どうか、この村に安らぎを」
もふもふは彼女の足元に寄り添い、尻尾を揺らした。
村人たちの視線は冷たくも温かくもあり、彼女の心を揺らした。
もふもふも尻尾を揺らしたが、彼女の手を舐めた。




