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そして、アドレーヌは眠る。  作者: 緋島礼桜
第四篇  蘇芳に染まらない情熱の空

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134項

   



 まさに国王らしい悠然とした佇まい。

 そして、誰よりも高圧的な視線。

 その両方でソラたちを圧倒する、マスナート国王。


 それまで暴走しかけていたソラですら、思わず狼狽えるほどだ。


 ――だが。


 その場において、彼以上に静かな闘志を燃やしている者がいた。


「ああ、そういえば……久しぶりだな——レイヤード」


 不敵な笑みを浮かべ、マスナート国王がロゼを見据える。


「レイヤード……?」


 不安をそのまま書いたような顔で、ソラはロゼを見つめた。


 一方で、カムフ、レイラ、キースの三人は違った。

 あらかじめその仮説()を立てていた彼らは、ただ静かに「やはり」とロゼを見る。


「おや……事実を話していなかったのか。これは失敬。だが――それでは彼女たちが、あまりにも場違いで哀れだな」


 その言葉が終わるよりも早く。

 ロゼが、踏み込んだ。


 誰よりも速く。

 風の力で拾い上げた剣を手に、一気に間合いを詰める。


「マスナートォォォッ!!」


 咆哮とともに振り下ろされた一撃。


 だがマスナート国王は、眉一つ動かさない。

 静かに剣を抜き、その斬撃を受け止めた。


「醜い顔だな……ここへ来るまで、随分と苦労したようだ」

「当然だ! 私はこの瞬間のためだけに……貴様を、この手で葬るためだけに……こうして醜くも生きてきた!」


 これまで見せたことのない、ロゼの激しい怒り。

 その剥き出しの感情に、ソラだけでなくカムフたちも息を呑む。


 絶え間なく、剣を振るい続けるロゼ。

 だが、マスナート国王はまるで焦らない。

 冷静なまま、すべてを受け止め、払い、いなしていく。


 剣戟による火花が激しく散り、金属音がホールに響き続ける。


「すまないが……私が従弟(お前)に、何かしたか? まるで身に覚えがないのだが」


「白々しい……! 貴様の浅はかな野望のせいで、どれだけの人の血が……大切な人たちの血が流れたことかッ!!」


 怒りに任せた剣は、ソラですら判りやすいほど、単調な動きだった。

 だからこそマスナート国王は、まるで戯れに付き合っているかのように、ロゼの攻撃を受け流せる。


「醜い……本当に醜いな、レイヤード。生きていてくれたことは喜ばしいが、そんなつまらない復讐のために生きていたとは」


 マスナート国王は鍔迫り合う剣でロゼを押し退け、同時に回し蹴りも叩き込む。

 体勢を崩したロゼは、床へ転がった。


 「復讐劇——王位のために実父や伯父たちを手に掛けることなど……よくある話だというのにな」


 悠然と、だがどこか歪にマスナート国王は笑みを浮かべる。


 本来なら対処できたはずの一撃。

 だが今の彼は――怒りに呑まれ、力の使い方すら見失っていた。


 灰燼の怪物(グリート)との戦いでも見せなかった、ロゼの憤怒の顔。

 それは、ソラが知る“ロゼ”とはあまりにもかけ離れていた。


「……っ!」


 ソラはカムフたちから抜け出そうと、再度暴れ始める。


「放してカムフ、レイラ!」


「待てよソラ! 今のうちに今度こそ逃げよう!」

「ヤダ! だってこのままじゃロゼが……!!」


 そう叫びながらソラはロゼを見つめ続ける。

 もがく彼女を必死に押さえつつ、カムフは叫んだ。


「確かにこのままじゃあロゼは間違いなくマスナート国王様に負ける! そして国家反逆罪者として捕まる!」


 それは現状からして自分たちにも言えることなのだが。

 今はそこまでは語らず。


 カムフは話を続ける。 


「だからこそ! 今すぐセイランさんを呼びに行こう! この状態を止められるのはもう彼しかいない!!」


 よりいっそうと力を込めてソラの両肩を掴むカムフ。


 強さのあまりに、ソラは思わず眉を顰める。

 だがその必死さ(いたみ)のおかげで、ソラは少しばかり冷静さを取り戻した。


「確かに……兄さんなら、兄さんじゃなきゃ、どうにもならない状況かもしれない」


 俯きながら、ソラはポツリと呟く。

 落ち着いた様子の彼女を見て、レイラとカムフが拘束の手を緩める。


「でも、そうだとしても……あんなに苦しそうな顔したロゼを、あのままになんかしたくないよ!!」


 ソラは真っ直ぐにカムフたちを見つめながら言った。


 彼女の気持ちはカムフも痛いほどわかっていた。

 わかっているからこそ、彼女の身を案じていることに、彼女自身は気付いていない。伝わらない。


 その歯がゆさに、カムフは口を開いた。


「……でも、おれは!」


 一瞬、言葉が詰まる。

 それでも、カムフは吐き出した。


「ソラをこれ以上危険な目には遭わせるなんて……耐えられないんだ…!」


 まるで告白するような勢いで、カムフは叫んだ。




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