135項
まさに愛の告白とも言える言葉を叫んだカムフ。
(しまった……!!)
言った直後、彼は耳が真っ赤になるほど後悔した。
と、そんな青臭い空気をぶった切るように、レイラが割って入った。
「だったら!」
二人の間に立ち、言い放つ。
「こうなったら、ソラだけじゃなくてわたしたちで危険な目に遭うしかないわよ!」
「レイラまで……何言ってんだ!」
「こんな状況じゃあ何が正しいかどうかなんて、わかんないわよ。だったら、わたしだって自分で後悔しない方を選びたいじゃない」
「レイラのくせにカッコイイこと言う」
ボソリとソラが呟く。
するとレイラは鬼のような形相で彼女を睨んだ。
「くせにって何よ! わたしはアンタよりめちゃくちゃカッコイイこと言ってきてるわよ!」
次の瞬間。
通常運転かの如く、いがみ合いを始めてしまうソラとレイラ。
なぜか取っ組み合いにまで発展し、二人を宥めようとキースが慌てふためく。
そんな光景を見せられたカムフは、しばらくぽかんと口を開けたままであった。
が、やがて深く息を吐き――思わず、笑いを零した。
突然笑い出すカムフを見つけたソラとレイラ。
二人は全く同じ膨れっ面をして彼を睨む。
「今度はカムフが笑い出すし……可笑しいこと言ってた!?」
「わたしたち真面目にやり合ってるだけなんだけどー!!」
「いや、ごめん……」
迫力に負け、カムフは小さな声で謝る。
それから咳払いを一つ零し、言った。
「二人が可笑しいんじゃなくってさ。こんなときでも二人がいつも通りで、それでついつい笑っちゃったんだよ。ホントにごめん」
カムフはもう一度謝罪する。
そして直後、自身の頬を思いっきり引っ叩いた。
「ど、どうしたのよ!?」
突然の行動に目を丸くするソラたち。
「レイラが笑わせ過ぎたせいで、カムフが可笑しくなったんじゃないの?」
「わ、わたしのせいだって言うの!!?」
「いやいや、違うから二人とも落ち着いて……」
頬を真っ赤に腫れさせながら、カムフはソラとレイラを見つめた。
「“ソラが暴走したときは引っ叩いてでも連れ戻す”なんて言ってたのにさ、おれ、冷静じゃなかったなって思って」
「むしろアンタは十二分に冷静だったわよ」
「いや……“こうなったソラは、おれたちじゃ止められるわけがない”という、肝心なことを忘れてたんだ」
真剣な顔で答えるカムフに、ソラが口を尖らせて反論する。
「あたしそこまで頑固な人間じゃないし!」
全くもって自覚のないソラ。
レイラは呆れ顔で肩をすくめた。
「もうこうなったらしょうがない。おれたちはおれたちが出来る範囲の――いつも通りでロゼを止めようぜ!」
カムフの言葉にレイラも賛同する。
「そうね。深刻な顔でいるなんて、わたしたちの柄じゃないでしょうし!」
「ガキだとしても足手まといだとしても! 足手まといなりに出来ることだってある!」
拳を頭上高く突き挙げるソラ。
そこには先ほどまでの不満顔は微塵もなく。やる気に満ち溢れていた。
「——それで?」
「ん?」
レイラの視線に気付いたカムフはきょとんとした顔をする。
「こうして気合い入れ直したからには、この状況を打破して万事解決! の算段が浮かんだってことなんでしょ?」
期待を寄せるソラたち。
だが、その熱望に反してカムフの答えは「いいや」であった。
「情けない話だけど……マスナート国王様まで出てきたとなったら、この場を何とかできるのは、やっぱりセイランさんしかいない」
「え、じゃあどうすんの? わたしたちは何すんのよ!?」
興奮するレイラを宥めつつ、カムフは続けて言う。
「でも、セイランさんだってそれを予測して動いているはずだ。あの人はそういう人だろ?」
具体例を挙げればきりがないほど、幼少期から刻み込まれた確信。
ソラたちは大きく頷く。
「だったら……おれたちがやることは“最悪の事態”にならないよう、なんでもいいから時間を稼ぐことだ!」
「“最悪の事態”ってのは……ロゼが国王様に負けて、捕まるってこと?」
ソラの質問にカムフが閉口する。
見兼ねたレイラが代わりに答えた。
「そりゃそうでしょ。下手したらわたしたちだって一緒に捕まるか、“本当の最悪の事態”はみんな揃って口封じされること、かもしれないものね」
冷淡な口振りで話すレイラ。
だが、いつもより表情が硬く、ソラは人知れず口を噤んだ。
「そうならないためにも、おれたちはセイランさんを信じて、やるだけやってみよう。ただし、絶対に無謀なことだけはしないこと。わかったな?」
カムフが付け足した約束に了承すると、ソラたちは再度、力強く頷いた。
「うん!」




