131項
「ソラ……!!」
ソラに迫る凶刃。
彼女を助けようと、ロゼは即座に手を翳した。
だが力が発動する寸前、灰燼の怪物の横槍が入る。
鋭い刃が閃いた。
危うく切り裂かれそうになるが、ロゼは咄嗟に身を翻してそれを避けた。
「さっき『任せた』ゆーたばっかやん」
意地の悪い笑みを浮かべる灰燼の怪物。
ロゼはそんな彼を眼光鋭く睨む。
「貴方こそ妨害なんて無粋なことするのね」
「えらい早い加勢やな~思うて手出しただけやろ。仲間やったらもうちょい見守ったらどうやねん?」
灰燼の怪物は休むことなく投擲を繰り返す。
その間にもソラへグリートの仲間の魔の手が迫る。
「あたしは大丈夫だから!」
ロゼに心配かけまいとソラは声を張り上げる。
だが、彼女の気丈さに反し、刃が今まさに振り下されようとしていた。
――そのときだった。
「――ソラッ!!」
勢いよくソラへと駆けつけた人影。
彼は彼女を急いで引っ張り上げる。
お蔭で、寸でのところで一撃は免れた。
「まったく……暴走に付き添う側の尻拭いする気持ち、一回考えてほしいわよっ!」
「あ……みんなッ……!」
ソラたちの前に現れたのは、呆れ顔で――けれどどこか安堵を滲ませたカムフだった。
「よかった。やっぱ王城まで追いかけてきてくれたんだね!」
喜びに思わず顔がほころぶソラ。
と、そんな彼女の前に、レイラが大きな足音を立てて近付く。
「え?」
レイラは道すがら拾った槍を握っているが――かと思えば、次の瞬間。
それを投げ捨て、勢いよくソラの頬を叩いた。
「いったぁ――!!」
ソラの頬がみるみる赤く腫れ上がる。
怒鳴り返すより早く、レイラはソラの胸倉を掴んだ。
「ちゃんと話は聞きなさいよ!」
彼女の双眸に宿るのは怒りだけじゃない。
「言っとくけど、これはセイランさんとダスクに頼まれた一発! でもって、わたしが言いたいのはね――いっつも一人で勝手に飛び込んで、結局ピンチになって! 少しは冷静に考えてから動きなさいってこと! ……アンタが怪我してからじゃ遅いのよ!?」
ソラを心から案ずるからこその、明確な不安。
心配させた自覚が胸を刺し、ソラはレイラの手をそっと払う。
「ごめん。でも勝手な行動は……多分またする」
「それ謝罪になってないわよ」
「じゃあ、突っ込みそうになったらビンタで止めていいよ」
「それはそれで……私が暴力女みたいじゃない」
「あ、じゃああたしもビンタし返す。それでおあいこ」
「アンタのバカ力がおあいこなわけないでしょ! 奥歯持ってかれるわ!」
気づけばいつもの調子で言い合いを始める二人。
頭を抱えながらカムフが慌てて割って入る。
「ストップ! それより今は早く戦ってくれ! まともに戦えるのソラだけなんだから!」
「えーっ!? カムフだって兄さんから剣の稽古受けてたじゃん!」
「何年も前の話だろ。剣の構え方ももう覚えてないって! まあモップの磨き方なら勝てるけどな!」
「それ今自慢するとこじゃないし!」
すると、ソラの側へとキースが駆け付ける。
彼の手にはソラの剣が握られていた。
「ありがとうキース」
満面の笑みを浮かべるソラに、キースは静かに頷いた。
体力が回復したわけじゃない。
だが――。
さっきよりも、身体が軽い。
ソラは迫るグリートの仲間へ剣を向けた。
彼女たちの騒がしいやり取りは、当然ロゼたちの目にも入っていた。
まるで緊張感のない会話。
子供じみた言い争い。
だが、紛れもない本気のやり取り。
その光景に、灰燼の怪物でさえ思わず手を止めてしまっている。
呆気に取られている彼へ、ロゼは、自然といつものような苦笑を浮かべて言った。
「フフフ。本当……ムカつくくらい調子狂うでしょ、彼女たち……」
その表情を見た灰燼の怪物は、ニット帽を目深に被り直し、低く呟いた。
「ホンマやな……そんな幸せそうな同士の顔、見せつけられんのは……めちゃくちゃムカついたわ……」




