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27『友だち』

「最初の一人……ってことは、じゃあ、君が世界を?」


 ユーリカが、あらゆる世界の、ねずみ算式に増えた世界を遡っていった最終地点、つまり原初の創造者であるということは、神様と言っても差し支えないだろう。彼女が生まれた理由は、誰にもわからない。なぜなら彼女以前に存在している世界がないのだから。


「ずっと、孤独でした。真っ暗な空間で、一人ぼっち、やることがないから日がな一日、妄想ばっかり……海斗さんと、おんなじです」


 さすがにスケールが違うよ。僕は、ラノベやアニメ、小説や漫画などで下地の知識はあった。そもそも自分が生きる世界自体の基本構造を把握した上で、妄想によって世界を生み出してきたんだ。

 それを彼女は、すべて一人でやった。

 世界の知識がない状態で、ちゃんと機能する世界を生み出した。


「私は、最初の一人であると自信を持って言うことはできません。でも、確かに世界が私だけだった頃は、他の世界なんて宇宙に存在しなかったし、他の人間だっていなかった。私のいたところは、本当に真っ暗な、なんにもないただ広いだけの空間で……つまり、その、私は最初の一人でもあって、最初の世界でもあるんです。どうしてか、人間の形を取っていただけ。あなたたちは、私がそれに合わせた世界を最初に作ったから、今の形でいられてるんですよ?」


 つまり、あらゆる歴史は彼女の妄想によって始まったということになる。ユーリカがもともと僕らと同じ形をしていたから……いや、この言い方は語弊があるかもしれない。僕らが、原初であるユーリカと同じ形をしているのは、人間の形だったユーリカが最初の世界を自分の分身を作ることから始めたからなのだろう。なぜなら僕らが今いる世界をベースに妄想を繰り広げているのと同じように、ユーリカにとってのベースとは彼女自身以外にはなにもなかったのだから。


 そうして世界は増えていった。彼女の妄想が、徐々に形をなして、そして拡大していった。結果、僕がもといた世界が生まれ、その世界をベースにした他の世界がこの世界のように誰かの妄想で誕生する。


「ねえ、その、ユーリカっていう名前は、どうして?」


 僕が問うと、彼女は少しばかりはにかんだ。


「私は世界だから、って言うと、なんだかそれこそ超能力染みていますけど、私はあらゆる多世界を観測することができるんです。そういう、能力があるんです」


 ユーリカは取ってつけたように、この世界の《ルール》に則った。


「退屈だった私の日常は、世界が増えていくにつれてとっても充実したものとなりました。もう、妄想をする必要はない。増えていく世界を、眺めていればいい。楽しかった……そんなとき、私が見ていた世界で生まれた一人の女の子がいました。で、どこから始まったのかわからないんですけど、ほとんどの世界の人たちって名づけをするんですよ。その赤ん坊は、ユーリカって呼ばれました。そこから、ちょっと拝借しただけです」


 恥ずかしそうなユーリカだったけれど、少しばかり楽しそうな表情が見え隠れしていた。ずっと、一人だったんだ。それは僕のように精神的な意味じゃなくてもっと物質的な意味で、彼女の周りに人間はいなかった。


「君が僕に会いに来れたのは、僕が妄想でヒビを空けたから?」


「……そうなります。でも、その、確かにこのままじゃ危ないですし、大変だなって思うんですけど、ええっと、これ、言っていいのかな」


「なに?」


 ユーリカは、まるでいたずらをした少女のように舌を出して笑った。


「海斗さんのおかげで、私は願いが叶ったんです」


 そのあどけない表情と、紡がれる感謝の言葉に、不覚にも僕は声を出すことができなくなってしまった。ため息だけが、こぼれていく。


「観ているだけじゃなくて、話すことができた。これ以上の喜びは、たぶん一つの世界が安心して終わりを迎えるとき以外にはありませんよ?」


 僕にはその例えが理解できなかったけれど、ユーリカにとっては極上とも言える喜びを感じられたことだけはわかった。

 僕がやったことは、悪いことだけではなかったんだ。


「すべてが終わったら、ユーリカはどうするの?」


「帰ります。私がいる世界は、私だけですから」


 空を見上げてしまった彼女の表情を、僕は捉えることができなかった。だけど、きっと悲しんでいるんじゃないだろうかって思う。だって、初めて誰かと喋れたんだ。そして初めて――友だちができたんだから。


「ユーリカ、僕は責任を持って、この事件を解決するよ」


 だから、改めて僕は告げる。

 ただし、前提は違う。今までは、ただ美鈴さんのためだとか、僕のためみたいなほぼ利己的な理由が原因だったけど、決めたんだ。


「君の、友だちとして」


「――友、だち?」


 ユーリカは、僕の方を向いて、目を丸くして驚いた。


「うん、友だちだ」


「海斗さんが、私の、友だち?」


「そうだって言ってるだろ」


 何度も聞き返されると、なんていうかこそばゆい。つい、恥ずかしさから目を逸らしてしまいそうになる。でも、さっきまではさんざん、僕が驚かされてきたんだから、今だけは、僕も君の驚く顔を堪能させてくれたっていいだろう?


「友だち、友だち……」


 ユーリカはまるで呪文でも唱えるかのように、友だちという単語を繰り返し呟いた。あれ。まさか僕、滑ったりしてないよな……


「ゆ、ユーリカ――っ」


 心配になって、彼女の肩を叩いて現実に呼び戻してやろうと手を伸ばしたその瞬間、僕の腕は彼女に掴まれ、思いっ切り引っ張られた。


「嬉しいです!」


 つまり、僕らは地面に二人で抱き合いながら倒れている構図になっていて、はたから見たら、完全にバカップルの所業そのものである。


「ちょ、ユーリカ!?」


「嬉しいです、海斗さん、友だち、友だち! うふふ、友だち!」


 まるで甘えてくる猫のように、僕の頬に自分の頬をすり寄せてくる。男のそれとは違う、ふくよかで滑らかなからだの感触と、どっから漂っているのか物凄い良い香りとに挟まれて、今にも僕、昇天しそうです。


「は、離れて、ユーリカ……」


「嬉しい! 海斗さん、大好きです!」


「だから、そういうのは友だちに言う台詞じゃ――」


「なに、やってるの?」


「いやだから、僕だってわかんないっていうか――え」


 そうして、僕は痛恨のミスをしていたことに気づく。

 あんな通信の切り方をしたら、きっと彼女は追いかけて来るだろうって可能性を考慮していなかったこと。外にも関わらず、バカみたいに抱きつかれてまんざらでもなさそうな顔を浮かべていたこと。


 視線の先に、仁王立ちをしているガスマスクガールが二人。


 と、後ろに某海賊団医者トナカイ並に出たり隠れたりを繰り返している、ガスマスクボーイが一人。顔が隠れているのににやけ顔が思い浮かぶとはこれ如何に。


「み、みなさん、勢揃いで……」


 ていうか、ユーリカ、そろそろ離して……


「海斗君、ちょーっと、お話、聞かせてもらってもいいかな?」


「いいな美鈴。こりゃあ、ちぃとばかし手が出ても、許されるよなぁ?」


「不死身の兄ちゃんもついに絶命か」


「……海斗さん、この人たちも、海斗さんの《お友だち》ですよね?」


 こ、こんな。

 異世界に来たばかりの俺が三角関係のみならず四角関係の修羅場に巻き込まれるなんて想像だにしなかった――……発売日、未定。

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