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18『クッキング!』

 振り返ると、そこに悠弥の姿はなかった。いつの間に、部屋に戻ったのだろうか。しっかりと掘った場所も隠されているし、逃げ足の早いやつだ。

 それにしても、僕が邪魔だと思って猫ヶ谷に報告するという考えもあったはずなのに、良くあんな尋問じみた行為ができるものだ。僕が報告しないとタカを括っているのか、またあの根拠のない信頼感のせいなのか。


 まあ、もうあいつのことは、今はどうでもいい。

 目の前にいる彼女、佐倉美鈴さんだ。


「どうしてここに?」


 声が上ずってしまう。なずなのせいで、妙に意識している。まともに目を合わせられないし、このままでは女性経験のなさが露呈する。


「なずながね」


「な、なずな?」


 なぜ彼女の名前が?


「今から行くところに、朝桐君を一緒に連れて行けって」


 ……どういう、こと?

 まずもって、なずなが佐倉さんのことを僕に頼むはずがない。だって彼女は、ついさっき、僕に「美鈴は渡さない」と宣戦布告したばかりじゃないか。


 にも関わらず、僕を連れて行け?

 まさか、これで貸し借りなしとか思ってる?


「なずなも、良くわからなくて、一人で大丈夫だよっていくら言っても聞く耳持たないの。なんか、貸し借りなしだ、とか良くわからないこと言ってるし」


 ああ、わかりやすい!

 単純過ぎるだろ……


「いや、ぜんぜん僕は構わないのだけど、えっと、どこに?」


「厨房」


「厨房? でも僕、料理できないよ?」


 佐倉さんは頬をぷうっと膨らませた。長くない赤毛なのに、後ろをちょっとだけお団子みたいにまとめている。仕草をする度にそれが揺れて、とってもかわいい。


「じゃあ余計意味がわからないよー。なずなは、私より朝桐君の方が絶対に料理がうまいって言ってて、そうじゃなかったら、どういうことなの?」


「あー……」


 それはたぶん、なずなの画策です。

 巻き込んでしまって、ごめんなさい。


「とりあえず、行こう?」


 佐倉さんは僕を連れて、厨房まで向かった。

 そう、思いはしなかったのだ。

 まさかこの同行に、なずなには別に意図があったなんてことを。



「な、なにこれ~~~!?」


 佐倉さんの悲鳴が厨房にこだまする。

 彼女の前で燃え盛るフランベ。


「おにぎり作ってたんじゃないの!?」


「焼きおにぎりにしようと思って……」


 そう言っている間も、炎は消えない。


「てかこれフランベじゃないよね!? なに入れたの!?」


「あ、油……見よう見真似で」


「危なすぎる!」


 バケツに入っていた洗い物に使った水をとりあえずぶちまける。なんとか消化されたものの、厨房には惨状が広がっていた。


「ご、ごめんなさい! 私、昔っから料理だけは苦手で……」


「あ、う、うん」


 苦手っていうレベルなんだろうか。


「ちなみに、さっきの奴、やるなら、お酒だからね。アルコールを飛ばすためにやるわけで、決して、油じゃないから」


「わかった」


 そう言って再びフライパンをコンロに置く佐倉さん。

 フライパンを奪う僕。


「だからなんでおにぎりなのにフライパンがいるんだよ!」


「ごめんなさい……」


 何回繰り返せば気が済むんだろうか。

 しかし、意外だった。まさか、佐倉さんが料理を苦手とするとは。一見、なんでもできるお嬢さまみたいなキャラなのに。


「……あっ、髪、焦げてる」


 手を伸ばして、佐倉さんの赤毛をそっと触れる。指先で縮れ毛を掴むと、ぱらぱらと落ちていった。


「ひゃっ!?」

 

 と、佐倉さん。


「ひゃい!?」


 これは僕。

 なにしてんだ。

 なにしてんだ!?


「あ、ご、ごめん」ごめんごめんほんとうにすみません別に他意とかそういうのじゃなくてただ髪の毛が焦げていたのを見て気になったっていうかあのその自然と無意識に手が伸びてしまったというかマジセクハラで訴えられても僕は甘んじて受け入れるので嫌いにならないでくださいあの一瞬でちょっと佐倉さんが近しい存在に思えちゃってそういう気の迷いっていうかやっぱり通報しないでください警察なんていないのは理解してますけれど!


「あ、朝桐君?」


「……ごめん」


 途中、声が出ていなかった。


「い、いきなり触るから、びっくりしちゃったよ」


「そりゃ、そうだよね……な、なんかさ、佐倉さん、料理下手って」


「へ、下手かな?」


「……苦手っていうのをね、知って、なんだかほら、佐倉さんってどことなく深窓の令嬢っぽいっていうか、高嶺の花っぽいイメージだったんだけど、一気にその、言い方は悪いけど、庶民っぽさが、見え隠れして」


「しょ、庶民~!?」


 佐倉さんはショックを受けたのか、大げさによろめいた。


「褒め言葉!」


「どんな褒め言葉……」


「~~~~~~っ! だから」


「……だから?」


 僕は唾を飲み込んだ。


「距離が、近づいた感じがして、つい、手が伸びちゃったんだ」


 ああ、言ってしまった。

 我ながらクッソキモい決め台詞だったと思う。ほら見ろ、佐倉さんだって、僕のあんまりな台詞にドン引きで――


「…………」


 ドン引きで――あれ?


「あっ、う」


 佐倉さんの顔が、さっきの(油式オリジナル)フランベにも負けないくらいに、赤く染まっていて。


「佐倉、さん?」


(そういうこと、面と向かって言うかな、普通……)


 なんだか、聞こえるような聞こえないような声で呟いた。


「面と向かって?」


「もう! なんでもない! 朝桐君は恥ずかしいなあ」


「うぐっ」


 さすがの僕も、言葉の傷は癒えない。


「さっ、料理しよう!」


「そうだね」


 まあ、くよくよしてても仕方ないか。しっかし、今日ほど料理が下手なことを後悔した日もないな。仮に上手だったら、あらゆるラノベ主人公のように僕も彼女に料理を振る舞ってやれたというのに……


「きゃー! なにこのタラコ! 爆発した!」


「お前はもう火を使うな!」


 まあ、これなら腕がある必要もない、かな?

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