【消えた妖刀】第6話 辻斬り犯の正体~【消えた妖刀】エピローグ
「元の木阿弥」
私はそんな言葉を思い浮かべた。
ホタルちゃんの証言により“波平”の行方がわからなくなったため、辻斬り事件の真相解明が遠のいた形だ。
「あなた。本当に無くしたの? 辻斬り事件のことは知ってるわよね」
私が苛立って強めに詰めたのが効いたようだ。ホタルちゃんが漏した。
「あの……もしかしたらお姉ちゃんかも……」
「え?何言ってんの!私は今日初めてここに来たのに。とんだ濡れ衣だわ」
松尾さんの言葉に続き、ホタルちゃんの言葉まで勘違いしたアンナちゃんが全否定した。
私だってさすがにアンナちゃんを疑ってはいない。
「違います違います!オオデンタのお姉ちゃんじゃなくて、私の姉の望です」
ホタルちゃんにしてみれば、姉を疑うのは辛いだろう。
しかし今となってはその確信めいた口調に賭けるしかない。
「お姉さんの家は?」
「近くです。歩いて5分ぐらい」
「急ぎましょう」
私は有無を言わさず、彼女に案内させた。
やがてそのエリアでは目立つ分譲マンションに着いた。豪華な外観から姉の暮らしぶりが想像できる。
インターホンで呼び出すが返事がない。
「合鍵があるから」
ホタルちゃんが姉のことを心配して覚悟を決めたようである。
合鍵を使って部屋に入ったがやはり留守だった。
「“波平”があるかもしれないわ」
3人で手分けして捜したところ、アンナちゃんが何かを見つけたらしい。
「これってそうじゃない?」
「あっ、“波平”を入れていた刀袋です。間違いありません」
「ということは……大変よ!」
私が声を上げると2人も顔色を失った。
時計を見ると夜10時になろうとしていた。次の事件が起きる前にお姉さんを見つけなければ。
外に飛び出そうとしたら、テニスラケットとボールがが目に入ったので拝借した。
□鬼面の下の素顔
マンションを飛び出て辺りの気配を感じるために集中した。
「キィヤァアアアアーーー」
「キキキキーーッ」「ゴズッッ」」
叫び声に続き、車が急ブレーキをかけて衝突する音が響いた。
「あっちから聞こえたわ!」
一目散に向かった私はその光景に我が目を疑った。
電柱に左側面をぶつけて動けなくなった車の前で鬼の面を被った女性が日本刀を振り上げているではないか。
「キィエエエエーーーィ」
「ギャアア!許してくれっ」
車から逃げ出した男は、鬼から斬りつけられそうになり命乞いをするも届かない。
「危ない!」
私は咄嗟にラケットでテニスボールを打ちち込んだ。
「顔面をとらえたわ」
バシュッ
渾身のサーブは一撃で決まるはずが、刀で受けられた。
手持ちのボールはあと2球しかない。一か八かロブショットで緩いボールを山なりに上げた。
相手がタイミングを外されて戸惑ったところにスピードボールを叩き込む。
バキッ
ヒットする音とともに鬼の面が宙に舞った。
「まさか……」
私は鬼の面の下に隠れていた素顔を見て言葉を失った。
「しまった」
敵が一瞬の隙をついて間合いを詰め、斬りかか牢死したその時…。
「てぇーーー」
ガシャン
かけ声とともに刀が地面に落ちる音がした。ホタルちゃんが竹刀で小手をキメたのだ。
「お姉ちゃん!もう止めて!」
「織絵……」
妹に気づいた姉は正気に戻って呆然と立ち尽くした。
鬼の面をつけていたのは売れっ子キャスターの光延望だった。
「警察に連絡しといたわ」
アンナちゃんが姉妹を見守りながら私に知らせてくれた。
その空間だけ時が止まったように感じたのも束の間。やがてサイレンの音が近づいてくるのがわかった。
光延望は妹を前に膝から崩れ落ちると、地面を拳で叩きながら泣き叫んだ。
「なんで!なんでなのよ!あの人はもう帰ってこない!でも飲酒運転する連中は平気な顔で生きている!私は絶対に許さない…ウワアア---」
□エピローグ
アンナちゃんが“ホタルちゃん”こと光延織絵を慰めながら聞いたところによると、姉の光延望は数年前に婚約者を交通事故で亡くしたそうだ。
仕事を終えて夜遅く、駅から歩いて帰っていたところをひき逃げされたという。犯人は数十分後に自損事故を起こして飲酒運転で捕まった。
ローカル局のキャスターである光延望はそれ以来、飲酒運転撲滅運動を率先して訴えていた。そんな彼女だが、もし“妖刀”に遭遇しなければあのような凶行に及ぶことはなかっただろう。
アンナちゃん曰く、光延望が刀を振りかざし「キィヤァアー」と叫び声を上げて斬りつけていたのは、薩摩示現流の“猿叫”に酷似しているらしい。
だがホタルちゃんによると、姉はスポーツと言えばテニス一筋で剣道の経験はないという。やはり“妖刀”の不思議な力によって操られていたのではないか。
私とアンナちゃんはパトカーが到着してから事情を聞かれたのでざっと経緯を話した。警察はそれを受けて凶器の刀を捜したのだが、どこにもなかった。
“妖刀波平”はまた誰かに取り憑くため姿を消したのかもしれない。
【消えた妖刀】ー了ー
次章【猫塚にて・・・虐待の事情】をお楽しみに




