【消えた妖刀】第5話 消えた妖刀を探せ
刀剣イベントで刀鍛冶の松尾さんから「波平」の秘密を聞いて数日後のこと……。
アンナちゃんから私の携帯に連絡があった。
「ホタルちゃんの自宅に行くからつきあってくれる」
むろん断る理由などない。待ち合わせ場所を聞いて行くことにした。
「ごめんなさい!」
先手を取られた。
ホタルちゃんが住んでいるところは、蓮華大から近くにあって歩いて行ける距離だった。
アンナちゃんは事前にLINEで次のようなメッセージを送ったという。
《大牟田の刀剣イベントで松尾のおじさんに会ったよ~
ホタルちゃんの話題が出たので久々に顔を見たくなっちゃった
草木饅頭買ってきたから一緒に食べない》
ほどなくして返信があり、学生マンションの住所と訪問の仕方を教えてくれたそうだ。
約束の日、夜8時には帰宅できるというので私はアンナちゃんに付き添う形でついていった。
するとオートロックを解除して部屋に入れてもらうや、ホタルちゃんが土下座して詫びるではないか。
「ごめんなさい!」
私とアンナちゃんは無言で目を合わせた。お互いに拍子抜けしたような顔をしていたことだろう。
「いったいどうしちゃったの? あなたが刀を盗むなんていまだに信じられない」
アンナちゃんが辛そうに問い詰めたところ、ホタルちゃんは剣道をしていることから松尾さんのお店を訪れた経緯までをとつとつと話した。
□妖刀の行方
実家は筑後市にあり、子どもの頃から剣道を習っていた。中学生になると地元に適がいないほど腕を上げ、福岡市にある剣道の強豪校に進学した。学生マンションでひとり暮らしをしているのはそのためだ。
(ちなみに九州新幹線の主な停車駅で位置関係を説明すると、「博多(福岡市)」から南下して「久留米(久留米市)」さらに「筑後船小屋(筑後市)」、「新大牟田(大牟田市)」、「熊本(熊本市】」と下って鹿児島市にいたる)
今年の1月13日に大牟田市で他校との練習試合があった。彼女は松尾さんのことを思い出して会いたくなり、顧問の先生に実家に寄って帰るとの理由で単独行動の許可をもらったという。
「お店に顔を出したら、松尾のおじさんはすごく喜んでくれたの。刀剣の話で盛り上がるうちに、いわくつきの“波平”が奥に眠っていると教えてくれたんです」
ホタルちゃんが吐露した内容は松尾さんの証言と一致する。まあ、彼女はその後で松尾さんが奥さんから大目玉を食らったことまでは知らないのだが…。
「で、2月2日にまた練習試合があって…」
彼女は続けようとしたが、アンナちゃんが先に推理を披露した。
「どうしても“波平”のことが気になって、また松尾さんのお店に行った。しかし松尾さんは不在だったため、鍵がかかってないお店に侵入して盗んだ。というところかしら」
すると先ほどまで落ち着いていたホタルちゃんが泣き出した。
「違うんです!お店のドアが開いたから中に入ったのは間違いないですが、奥の方から呼ぶ声がしたので松尾さんかと思って覗いたの。そしたら“波平”が飾られていて…」
「神棚に祀られていた“波平”を思わず持って帰ったんでしょ」
今度は私が詰め寄った。
「それが、なんというか、うまく言えないけど…。“波平”に操られるように手が伸びて…ごめんなさい!」
松尾さんに聞いた逸話から“波平”は不思議な力を持っている可能性が考えられる。涙ながらに詫びる彼女の言葉を全面的に否定できないのが悩ましいところだ。
するとアンナちゃんが角度を変えて質問した。
「日本刀を盗んだとして、街中をどうやって持ち帰ったの? 公共交通機関だと目立つし、タクシーに乗ったとしても怪しまれるはずよ」
「それは、その……」
涙ぐんでいたホタルちゃんが動揺したように見えた。
「私は刀剣が好きすぎて、竹刀を持ち運ぶときに皆と違う袋を使うんです。まず一般的な帆布の竹刀袋に入れて、さらにそれを合皮製のキレイな刀袋に入れるんです。だから竹刀は竹刀袋、“波平”は刀袋に入れて二本を肩からかけて運んだんです」
つまり、はじめから日本刀を運ぶ方法を考えていた節もある。
まあいい。それは警察の仕事だ。それより、ここからは彼女が盗んだ“波平”を持った途端に暴れ出さないよう注意せねばなるまい。
にわかに空気が張り詰めて手汗をかいた。
アンナちゃんもそれを察したようだ。生唾を飲むのがわかった。
私はアンナちゃんと目配せしてから、ホタルちゃんに確認した。
「それで、“波平”はどこにあるの?刀袋に入ったままゆっくり出してちょうだい」
「ごめんなさい!」
「後は警察で話せばいいから。おとなしく“波平”を出して」
「ごめんなさい!どこかにいっちゃったんです!いくら探してもないんです“波平”が!」
「えーーーーーー!」
「はぁーーーーー!」
私は「頭が真っ白になる」という意味を身をもって知った。
アンナちゃんを見ると鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたので、心境は似たようなものだろう。




