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【妖刀の行方】第2話「夢の声の正体」

□朋友からの連絡



「なんか“タチバナノキミ”との縁を感じるわね」


そんなことを考えていたら、スマホが振動した。電話の着信だ。

ディスプレイには「なつき」とある。


朱雀坂七津姫(すざくざかなつき)は実家が近く、子どもの頃から一緒に遊んだ幼なじみのようなものだ。


 なつきは高校2年生のとき、ゴイサギの“ゴイっち”と脳内でリンクする不思議な体験をしている。私もその事件に巻き込まれた。


 現在は漫画家を目指して、福岡市にある専門学校に通っている。


 マンガやアニメが好きで、いつもコミックを読んでいたなつき。

 だからだろう、“ゴイっち”の一件が落ち着いてから、漫画家になりたいと言い出した。


 私もそう明かされたときは納得して「なつきなら、なれそうな気がする」と背中を押した。




「なつき。久しぶりやん。どげんしたと」


 電話に出ると、いつになく神妙な声が返ってきた。


「君枝、会って話したいんやけど、明日とか時間ある?」


「いいけど、電話じゃダメと」


「うん、久しぶりに君枝の顔も見たいし」


「そうだね。じゃあ、明日の講義が終わってからでいい? そっちは授業大丈夫なの」


「何とかなる。私が君枝んちに行ってもよか?」


「いいよ。でもなんか深刻な話なの」

 私はなつきの話しぶりが気になって聞いてみた。


「ん~実は、道真公から言われたんだ…」


 道真公とは太宰府天満宮の菅原道真公のことである。

 急に“神様”絡みの出来事が続くから、私の胸はざわついた。




□夢の声の正体


 なつきとは週明けに合う約束をして電話を切った。

 

 夕食は冷蔵庫にあるものでチャーハンを作った。

 なつきの話しを聞いて胸騒ぎを覚えたけれど、現金なものでご飯を食べると落ち着く。


 土日と連日出かけたため疲れたのだろう、あくびが止まらない。

 夜8時過ぎだが、シャワーを浴びて早めに寐ることにした。


 また夢にあの声が出てくるかもしれないが、正体を知りたいから望むところだ。


 


 しかしその夜はちょっと様子が違っていた。




「タチバナノキミよ」




 夢の声はそう呼んだ。いや、夢とは思えなかった。

 この感じは“ゴイっち”の脳内で菅原道真公と交信したときに似ている。




「あなたは誰なの?もしかして神さまなんですか」




 そう問うと声は答えた。




「わたしは息長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)という」




「おきながらひめ……」




「そなたには、神功皇后(じんぐうこうごう)の方が馴染みがあるやもしれないね」




「じんぐうこうごうは聞いたことあるような」




 すると声は私の反応に業を煮やしたのだろう。早口で話しを続けた。




          ☆☆




 日本武尊(ヤマトタケル)の第二子である第14代仲哀(ちゅうあい)天皇の皇后になって「神功皇后」と呼ばれたという。


 仲哀天皇が大和朝廷に抵抗する九州の熊襲(くまそ)を鎮めようと、香椎宮(現在の福岡市東区香椎にある)を訪れたときのこと。


 同行した神功皇后は巫女的な不思議な力があり、神さまから「熊襲などよりも、まばゆいばかりの宝であふれた国がある」と兵力を使って攻めるならば朝鮮の新羅国がよかろうと神託をうけた。


 ところが仲哀天皇はそれを信じずに熊襲征討を強行。しかし勝利を収めることはできず帰還した。やがて神の怒りを買って崩御する。


 神功皇后は人民の混乱を避けるため天皇の崩御を伏せた。



 住吉三神のお告げによって髪を結い上げ男装した神功皇后は、自ら兵を率いて新羅へ渡る。新羅の王はその勢いに圧倒されて降参。神功皇后は戦うことなく百済と高句麗も従わせて三韓征伐を成した。


 その後も皇子の譽田別命(ほむだわけのみこと)が応神天皇として即位すると、摂政の立場から支え、100歳まで70年ほど在位した。




          ☆☆




「なんかすごいんだけど」




 私はその実績を聞いて唸った。




 すると神功皇后は機嫌を良くしたのか、近年のことに触れた。




「わたしがこの世を去ってずいぶん経つが、明治時代には初めての肖像紙幣に姿が描かれたからねぇ。あの頃のことがいまだに語り継がれているのでしょう」




 いやいや、神功皇后が紙幣になったことなんて私は知らないし。

 紙幣になった一番古い偉人はてっきり聖徳太子かと思ってたくらいだ。


 でも余計な思考を察知されるとややこしくなりそうだから、とっとと核心に触れよう。




「それで?なぜわたしの夢に出てきたの。さっきはタチバナノキミって呼んでたけど」




 神功皇后は口調に威圧感がなく穏やかな性格らしいので、こちらもついタメ口で聞いてしまう。




「そなたの家系はタチバナノキミの遠い親戚にあたると思いなさい。それに私はこの福岡の地と縁があり、現人神社とも繋がりが深い」




「ん~なんかよくわかんないんだけど」




「橘山を治める者をカグツミ(橘統み)という。タチバナノキミはオオヤマカグツミの子であるマウラが“橘の君”と名乗ったのがはじまりなのだ。一方、現人神社辺りには伊弉諾尊イザナギノミコトが禊ぎを行った立花木(橘)がある。禊ぎのときにお生まれになった水の神(住吉三神)のご加護によって、わたしは三韓征伐を成し遂げることができた。だから直接関係はないものの“橘の君”にはどこか親しみを覚えてのう」




 神功皇后の心情こそ、ななおの感じた“神の気配”かもしれない。

 私としては巻き込まれたようなものじゃないか。




「それだけの理由でいきなり夢に出てこられて呼ばれても困るんだけど」




「まあ聞くがよい。そなたが通っておる大学で何やら不穏な動きがある。それを知らせたくて夢枕に立ったのだ」




「不穏な動きって?事件とか事故が起きるかもしれないの?」




「詳しいことはわからぬが、必要とあらばわたしも力を貸すことになろう」




 神功皇后はそう告げると気配を消した。




 夢なのかリアルなのかハッキリしないが、神功皇后とやりとりしたため睡眠不足で朝の目覚めが悪かった。


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