【妖刀の行方】第3話「神々のムチャぶり」
大学に行ってからも神功皇后が言ったことが頭の中をグルグル回って講義内容など耳に入ってこない。
いろいろと気になって集中できず5時限の予定だったところ4時限で切り上げた。
なつきには、早めに帰れそうだとLINEで連絡しといた。
♪ピンポーン
「はーい、どーぞー」
なつきが来たのは夕方6時頃だった。
「久しぶり-」
「2か月ぐらい前に会ったけどね」
黒髪ロングは相変わらずだが、トレーナーにパンツ姿という着こなしが垢抜けていた。
わたしはと言えば早々とスウェットの部屋着でリラックスしていたところだ。
「ほらこれ。時間があったからボンボンドーナツ買ってきたと」
「うわっ、テレビでよう行列ができるお店って言いよるとこやろ。食べかったっちゃん」
「運良く売り切れずに残っとたとよぉ」
大学では学生たちの出身地はさまざまだから、お互いに方言を使わず標準語で話すことが多い。
その反動でなつきとしゃべるときは、ちっご弁(筑後弁)がバンバン飛び出す。
ドリップでコーヒーをいれて、ドーナツを食べながらしばし学校の話題で盛り上がった。
ひとしきりおしゃべりしたところで、なつきから切り出した。
「それで、例のことなんやけど」
「道真公から聞いたっていう件ね」
「そうなんよ。道真公が私の脳にリンクしてきたと」
菅原道真公は本来、ゴイサギの“ゴイっち”が瀕死の重傷を負ったところを救い、脳内交信により意思疎通をはかった。ゴイっちはなつきの脳にリンクできたため、成り行きから道真公もなつきと脳内交信するようになる。やがて道真公はゴイっちの脳内に“ピンクの部屋”を作ってなつきや私とも意思疎通するようになったのだ。
しかしゴイっちを“普通のゴイサギ”に戻してからは音沙汰無かった。ここにきて道真公がなつきの脳に直接交信してきたという。
「で、道真公はどんな話をしたと?」
「それがたい。蓮華大学で大きな事件が起きるから友だちの“君枝とやら”も巻き込まれるはずだ。力を合わせて事件を解決するのじゃ。なんていうとよ。びっくりやん」
「大きな事件っち、なんやろか」
私が不安そうな顔をすると、なつきは続けた。
「道真公はさぁ、久留米で悪徳不動産業者が高良山の森を伐採しようと企んだのを見抜いたやん。今度は”特殊詐欺グループ”らしいとよ」
「ええっ。うちの大学で特殊詐欺?」
特殊詐欺とはいわゆる「オレオレ詐欺」からはじまった新手の詐欺をいう。電話や郵便物、あるいは直接訪問して親族の友人や役所の職員、場合によっては警察官を名乗り被害者を騙して高額なお金を振り込ませる手口だ。最近ではSNSや求人サイトで「もうかるアルバイトあります」と募集する“闇バイト”が増えて問題視されている。
「この間、どこかの大学生が闇バイトで特殊詐欺の“受け子”をして捕まってたよね」
なつきが具体例を挙げるので私もどんどん心配になってきた。
特殊詐欺グループは主犯格がSNSなどを使って指示を出す。被害者を騙す行為だけでなく、口座に振り込ませた現金をATMから引き出す「出し子」や、被害者宅を訪ねてカードや現金を受け取る「受け子」と呼ばれる役割がある。主に高齢者を狙うことが多く、最近は詐欺に止まらず強盗に入る「アポ電強盗」が増えている。
「実はさぁ、昨日の夜、夢の中で神功皇后から話しかけられて…」
私が昨夜の出来事を洗いざらい明かしたところ、なつきの顔色が変わった。
「道真公が言いよった。今度はわたしだけでなく、神々の間で注目されている。それだけ大がかりなことになりそうじゃ。って」
そんな大事件を私たちにいったいどうしろというのだ。
考えるほど神さまたちのムチャぶりに腹が立ってきた。




