2話
昼前の授業は、どうしてこんなに眠いんだろう。
神代は机に頬をつけながら、ぼんやり黒板を眺めていた。
先生の声は聞こえている。
でも、頭の中にゆっくり入ってくる感じだ。
チョークの音が、静かな教室に響く。
カリ、カリ、カリ。
その横で、ノートを取る音も聞こえる。
さらさら、と静かな音。
隣を見ると、柊がきれいな字でノートを書いていた。
背筋がまっすぐで、動きも落ち着いている。
神代はその様子を、ぼんやり眺める。
しばらくして、柊が小さく言った。
「神代」
「んー?」
「見てる」
「うん」
「ノートは?」
「……今から」
柊は少しだけ笑う。
「もう半分終わったよ」
「早い」
「神代が遅い」
神代はゆっくり体を起こした。
ノートを開く。
ペンを持つ。
でも、まだ少し眠い。
先生が黒板に式を書く。
クラスの何人かがノートをめくる。
教室の空気は、穏やかで、ゆっくりしている。
神代は少し書いて、また止まった。
柊がちらっと横を見る。
「神代」
「うん」
「眠い?」
「ちょっと」
「顔に書いてある」
神代は小さく笑う。
「昨日、よく寝たんだけど」
「それでも眠いんだ」
「うん」
柊は少しだけ考えてから、ノートを神代の方に寄せた。
「ここ」
「ん?」
「今のところ」
きれいにまとまったページが見える。
神代はそれを見て、さらさらと書き始めた。
「助かる」
「どういたしまして」
小さな声で会話していると、先生が振り向いた。
「……神代」
二人はぴたっと止まる。
「今の式、分かるか」
教室の視線が集まる。
神代は少しだけ黒板を見て、それから答えた。
「はい」
「じゃあ説明してみろ」
神代は立ち上がる。
眠そうな顔のまま、黒板を見て、少し考える。
そして、ゆっくり話し始めた。
説明は短くて、分かりやすかった。
先生がうなずく。
「……正解だ。座っていい」
「はい」
神代は席に戻る。
柊が小さく拍手するふりをした。
「すごい」
「眠かったけど」
「それでできるの、ずるい」
「柊も分かってたでしょ」
「まあね」
二人は顔を見合わせて、少し笑う。
授業はまた続いていく。
チョークの音。
ノートの音。
静かな教室。
神代はまた、少しだけ机に寄りかかる。
「神代」
「ん?」
「寝ないで」
「努力する」
「たぶんしないでしょ」
「……ばれてる」
柊は小さく笑う。
そしてまた、ノートを書き始める。
隣の席は、なんだか落ち着く。
特別なことは何もない。
ただ同じ授業を受けて、同じ時間を過ごしているだけ。
それなのに、ふとしたときに思う。
この席が、もし違ったら。
隣が柊じゃなかったら。
たぶん、今より少しだけ、退屈な時間になるんだろう。
神代はそんなことをぼんやり考えながら、またノートを開いた。
隣から、さらさらとペンの音が聞こえてくる。
安心する音。そして眠くなる音。




