第81斤
『おいまだか! 早く操作しろ!』
『あへへあは……』
ゲームのハムスターが長時間放置されてブチ切れているが、プレイヤーである配信者はコントローラーを持ちながら吐息を漏らして額から床にばたりと気絶するように倒れた。
そんな光景を僕、斉藤本太郎はリビングのソファーで娘のエビ子とぼんやりと眺めていた。夜も更けてきたが外の天気は荒れていて、雨音が激しく窓を打ち鳴らしているので静けさはあまり感じられない。それはともかく。
始まりは今から数刻前だった。
ドリーマーズオブザーサイのメンバー2名とぱんどらぶれっど所属のVTuber2名が、同接者が250万人を突破するまでゲームをやり続けるという旨の配信を4日前から突如として始めた。しかしその目標は無謀も無謀であることは誰の目から見ても明らかであり、不眠不休で配信を続ける配信者の疲労も限界に達してきている様子を見せていた、らしい。
そんな中、一部ネットニュースでこの配信の様子が取り上げられたことをきっかけに、その他マスコミにも取り上げられつつあった。そのお陰か、現在の同接者数は100万人前後を行き来しつつあるとのことであった。
そこで僕も助けになればと思い、エビ子を呼んで一緒に見始めた。この見方じゃ2人で見ても3人で見ても1人としてカウントされるだろうけど、それはそれとして。
エビ子が配信画面に映る部屋の床を指さして「ここと同じではないか?」と言い放った。それを聞いて『ドリーマーズオブザーサイ スタジオ』と検索すると、なんてことだ。ここのマンションが検索結果に出てきてしまったではないか。
そうなったらもう、エビ子が何を言うか、答えはもう決まっている。
「行くぞポン。このままだと死ぬまで配信になるぞ」
エビ子はそう言って立ち上がると、クローゼットから魔法使いの帽子とローブを取り出して身に着け始めた。その様子を見て僕は彼女に言う。
「でもどこの階のどの号室にいるかとかはわからないよ」
「探査魔法を使って疲労の色が濃い4人がいる部屋を見つければいい」
「使えるの?」
「これを着て、杖を使えばな」
ローブと帽子を装着してなんちゃって魔法使いになったエビ子が宝玉が付いた魔法の杖をぶんぶんくるくると振り回しながら僕に突きつけて言った。水色の甚平の上にローブを纏っているから違和感が半端ではない。これでは和洋折衷ではなく和洋骨折だ。
『だぁぁぁ……』
『あぁぁぁ……』
『ぴゃああ……』
『まいあはあら……』
とはいえ着替えさせる余裕もなさそうだなと、テレビから流れる満身創痍の音声から感じて、なんちゃって魔法少女のエビ子の背中を追いかけて玄関へと向かった。
この前はリーダーのうごたとファミレスで会った舞原少年がなぜか一緒に生配信しててなぜか妻のつばめさんが絶句してたし、今はこんな無茶な配信をしてドリザは一体何がしたいんだ。
なんにせよ、会ってみないことには何もわからない、か。




