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第67斤

「はぁ……」


 現在私は、リビングのソファでうつぶせに倒れ込んでいる真っ最中だ。宙ぶらりんになっている左手にはソファーの背もたれに押し潰された右手の代わりにエアコンのリモコンが握られている。


 外はまだギリギリ明るいので、カーテンを閉めるのはもう少し後でもいい。


 今日は心身ともに疲労困憊になることをやったので、岩が乗せられたような倦怠感が全身襲い続けている。うつぶせのまま欠伸をしたらソファに唇が当たってしまった。しかし、普通に座り直す気にもなれない。


『愛してる』

「あじゃっじゃばばじゃばばあじゃじゃななじゃばばあば」


 彼に言われた言葉が脳内で自動再生されるので何とか自分でノイズを発して誤魔化す。しかし私の脳はお構いなしに抱き締められた感触や頬を摘まれたときの少し嬉しい痛みまでも呼び起こしていく。

 

「は、配信、配信配信……」


 本当は日が沈み切った頃にやろうと思っていたけども、こうなった以上さっさと始めよう。黒和わわとしてパソコンの前で話せば、少しは気も紛れるだろう。現実逃避だって言う人もいるかもしれないけど、それだっていい。逃げるは恥だが役に立ちますって、小さい頃に見たドラマでも言ってたし。


「でも何話そう……」


 まいは――ああぁぁぁぁぁああ!


 煙のこと? あんまり話したくない。話したら私まで消えてしまうようなそんな気がするし、何よりニュースの映像に私が若干映ってるなんてバレたらもう――!


 私はソファーにヘドバンした。反発力で自然と何度も何度もやってしまう。


 何か、平和な話、平和な話――あ、仙台に行った話をしよう。状況が状況なだけにあんまり観光は出来なかったし気絶しちゃったから話せることは限られるけど――笹窯ボコの笹かまぼこ美味しかったみたいな方向で行こうかな。帰りの新幹線で無理やり口に入れられたけど、また食べてみたくなる味だったし。友達と行ったって体にしよう。


「よし……」


 考えを纏めて、ヘドバンをやめて、重い身体を持ち上げて、配信部屋に向かおう――そう思った瞬間。スマホが着信を告げた。一体誰からだろう? と思ったら――雪ちゃんだった。


「どうしたんだろう?」


 何か忘れ物したのかな? それとも今日のま――うわかかかかかじゃっじゃわああ!

 

 数秒逡巡した後、私は通話ボタンを押した。


「もしも――」

『大変っすちはるん! 今すぐYouTube開くっす!』

「え……?」

『いいからっ!』


 私は雪ちゃんに言われるがまま、通話が繋がったままのスマホでそのままYouTubeのアプリを開いた。するとすぐになにこれ。なんなのこれ。どうなってるのこれ。


 おすすめに表示されているサムネとタイトルを見て、私は言葉を失った。右下にライブと表示されているのを見て、指が勝手にそれをタップした。


『うぇんといいだは俺たちが消しました』


 そんなタイトルだった。


 そして、そこでは。


 そこでは。


 うごたと。


 舞原くんが。


 床に座って、並んで、映っていた。


『あいつら無能なくせに出しゃばるんで、マジうぜぇなって』


 うごたが乱暴に言い放った言葉が、床に落ちたスマホから小さく響く。


『ちはるん!? ちはるん!』

「どういう……ことなの……」


 私は床にうずくまりながら、スマホに向かって呟いた。

 

 透明な液体が、真正面をただただ見つめている舞原くんの顔に零れ落ちた。

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