第66斤
列車を乗り継ぎして1時間程すると、ドリーマーズオブザーサイがスタジオとして利用している部屋があるらしいタワーマンションの前まで辿りついた。
見上げれば首が痛くなるほどそのタワマンは空高く築き上げられているが、すぐ隣に更にスカイ高く伸びているツリーがあるので大して高くないなと錯覚してしまいそうになる。しかしそれでも僕の家の隣にあるマンションよりも遥かに高かった。
「入っていいのか、これ……」
全面に張られたガラスで沈み始めた太陽を煌びやかに反射しているその建物からは、まるで魔王城のように、魔王城に行ったことはないけれどもとにかくそんな印象を与えるほどには、部外者を歓迎しないと言わんばかりの強烈な威圧感が放たれていた。
ここで引き返そうか、とつい思ってしまいそうになるが、ここで僕が何もしなかったらつよしが消えるとウイちゃんは泣きながら言っていた。
あんな涙は、もう見たくない。
誰の涙だろうが、もう二度と。
だったら、答えは決まっている。僕は決意を固めてその魔王城に向けて一歩一歩足を踏み出した。
「ごめんなさーいっ」
ところで僕の脇を長い黒髪の美人がするすると通過していき魔王城の中へと何の躊躇いもなく真っすぐ入っていった。住人だろうか、品のある綺麗な人だった。夏なのに黒タイツを履いていたのは気になったけれども。
まあ……とりあえず、中に入ろう。
気を取り直して、再び足を動かした。
中に入るとホテルマンのような女性がフロントに立っていた。恐らくは来客の受付などをやっているコンシェルジュだろう。YouTubeで誰かが言っていたのは聞いたことがあるけれども、実際にこのようなマンションコンシェルジュの人を見るのは初めてだった。
その人にウイちゃんから伝えられたドリザスタジオの部屋番号を言った後「そこの黒和さんに用事がある」と告げると、あっさりと了承してくれて、手元で何かを操作し始めた。
「来てくれたんだね、ムギくん」
ややあって付近にあったエレベーターの扉が開くと、動画でよく見た顔の人間が姿を現し、僕を見た。そしてその端正な顔の表情を自然に緩めて薄く微笑むと、僕を呼んだ。
彼女と同じ、呼び方で。
そして、続けてこう言った。
「俺はドリーマーズオブザーサイのうごた……いや、君にはこう言った方がいいかな。黒和陽咲の兄の、黒和雨後汰だ。まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に言う」
うごたは。
コツコツと足音を立てて僕に近づき、僕の肩を掴みながら、こう続けた。
「俺と一緒に、消えてくれ」




