第62斤
木曜日。あれからつよしからの連絡が未だに来ないのが気がかりではある。それにYouTubeでは世界中のクリエイター誰しもが煙事件のことを話しているという異様な事態が起こっている。
だけれども、それはそれとしてと言わんばかりに現実生活は今までと何ら変わることなく続いていた。まるで止まることを許されていないかのように。
そして僕は、青空の下、汗を額どころか全身に滲ませつつ、横浜市内のとある陸上競技場へとやってきていたのだった。腰掛けている硬いプラスチックの椅子がフライパンのように熱くなっていた。
こんな暑い中で体育祭か、と思ったところで教室と変わらず僕の隣の座席に座っている白野さんを見た。体操服とポニーテールという普段とは違う服装と髪型で、いつもより5倍くらい明るい雰囲気になっている。なので隣に座ってきたとき一瞬誰だと思った。
「あのさ……」
しかしながら相変わらず声色はいつもの白野さんモードであった。わっちんモードになってくれたら妄想が捗るのにと口にしたら殴られそうなのでやめておく。最近パンチの威力が増してきている気がしないでもないし。
「なに?」
それはさておき、白野さんは僕に何か言いたいことがありそうだったので軽く返事をすると、白野さんは体育祭のプログラムが書かれた紙を僕に見せつけてきた。そして下の方にある競技名に指をさす。その競技名は「二人三脚障害物競走」だった。
「これ……本当にやるの……?」
「プログラムに書いてあるんだから、やるんだと思うよ」
「そうじゃなくて……! 私と舞原くんで本当にやるのかって……」
「『当たり前じゃないっすかー!』って委員長なら言いそう」
言いながら、眩い日光が容赦なく射し込んでいるフィールドで忙しなく動き回って準備やら何やらをしている委員長を見遣る。学級委員長って大変だなと屋根に覆われた客席で思う。
「確か雪ちゃんは……玉入れだったよね……。一番楽そう……」
白野さんも委員長を見て、普通に失礼なことを口走った後ため息をついた。
「じゃあ今からでも委員長と代わってもらう?」
「やだ!」
そんなに嫌なら、と試しに言ってみたら、白野さんは即座に却下してきた。
「なんで?」
「なんでって……それは……もう!」
理由を聞こうとしたらボコボコ肩を殴られた。痛かった。理不尽だった。
「やりたくないけど……やるから!」
「そ、そう……」
一体どういうことなのかよくわからないけど、堂々とそう言われたので何も言うことはできなかった。
白野さんのことも相変わらずだけど、この世界に現在進行形で起こっていることも、さっぱりわからないなと僕は今日も燦々と大地を照らしている太陽を見上げながら思うのだった。




