第59斤
どこまでも広がっている、澄みきった青い空。
どこまでも続いている、色とりどりの花が咲き誇る花畑。
そんな世界の中心に、私はさけぶこともなく無言で立ち尽くしていた。
いつからここでこうしていたんだろう。考えてみるけど、ずっと前のようにも思えるし、たった今からのようにも思えた。
少し歩いてみよう。そう思って、なんだか水の中にいるけど全く苦しくはないという不思議な感覚を全身に感じながら、ゆっくりと足を動かしてみた。
「ブヒブヒブーブーヒー!」
「だから何が言いてえんだよこの豚が!」
「ブヒブヒブブブブブブヒー!」
「そんなにボコられてえのか!? ああ!? キメえんだよこの豚が!」
「あ、あの……ちょっと落ち着いて……」
歩いていると、豚の貯金箱みたいなものと半分に千切れたパンみたいなものが喧嘩をしていた。その横で招き猫みたいなものが仲裁に入ろうとしているけど入れないという感じで立っていた。
気づくと、数メートル離れた先に誰かが立っているのが見えた。その後ろ姿は……もしかして……。
「お母……さん……?」
私は心臓が凄い速さで全身に血液を送っているのを感じながら、その人に近づいていった。
「あなた誰?」
「あ……」
その人が振り向いた。私が思った人ではなかった。
その人は金髪で、水色と白のワンピースみたいな服を着ていて、懐中時計を手でパカパカ開閉させている小柄な女の子だった。
「まあいっか! わたしは――」
その時、自分を包んでいたふわふわとしたものが消える感じがして、私は目を覚ました。
今のは夢だったんだ。それもそうか。だって貯金箱と招き猫が喋ってる時点でおかしすぎるし。あとひとりは喋ってた気がしたけどなんだったっけ。こんにゃく?
「クロワッサン起きましたよ」
「本当だ。目開いたね」
「ふぇ?」
ふと隣で声がしたので、私は無意識の内に顔を向けた。すると至近距離に薄く微笑んでいる舞原くんがいてへとほたへはとらとはとたほたほらと殴った。
「生き返った……大宮まで来て……」
「ねはとはとほとほとろ!」
男の子に寝顔を見られたなんて、もう……もう……もう! 私はまた殴った。
「これでも食べて落ち着いて下さい」
「むげっ!?」
やめてぇと言っているのを無視して舞原くんを殴っていたら私の方へと強引に身体を持ってきたルイちゃんに何か柔らかいものを口の中に入れられた。薄味ながらもしっかりと感じる旨味が、口の中に一気に広がる。
「これは……?」
「笹釜ボコの笹かまぼこです」
するとルイちゃんはドヤ顔で、笹釜ボコの可愛らしい絵が描かれた緑色の箱を私に見せつけてきた。
「君が気絶してる間に……買っておいたんだよ……おみやげで……」
舞原くんが頬をさすりながらそう言うと、新幹線は東京駅を目指して再び進み始めたのだった。




