第58斤
状況がとんでもなく大変カオスなことになってしまったので、ひとまず部屋の中央にある長テーブルを囲うように置かれた座面が硬い木製の椅子に全員が座り、情報共有を行った。なぜか誕生日席には黒魔術同好会の顧問らしい犬木村先生が偉そうに座っていた。なんでだ。
そうして話をする中で、YouTuberが消滅した事件のこと、VTuber八木やまいの中身である日羽の安否確認のために仙台まで来たこと、白野さんとわっちんのことについて僕から説明を行った。ルイちゃんのことも説明すると収拾がつかなくなりそうなので彼女については僕の妹であると言い張った。
するとルイちゃんが僕の膝の上に移ってきた。隣の白野さんは真っ白な天井を見つめて「あてらーと」みたいなことを言っていた。ちなみにわっちんのファンアートのハッシュタグは「くろわーと」である。
「つまり、わっちんとめろんちゃんがたまたま偶然リアルで出会ってしまったと?」
「そういうことです」
ひととおり説明をした後、学文路さんが確認してきたので、僕は頷いた。
「2人のコラボはまだ一度もされていないな」
「そうだねぇ~」
「えくすぺりあーるす」
「大丈夫か彼女は。熱中症とかになっていないか? 」
脱力状態で椅子に座り、焦点の合わない瞳で携帯電話とか魔法みたいな単語をぼそぼそと呟いている白野さんを学文路さんは心配していた。とりあえず僕の鞄の中に入っていた未開封の麦茶のボトルを渡しておいた。白野さんは虚ろな目のままそれを開けて飲んだ。
「多分情報が多くてパンクしちゃったんだと思います」
「そうなんだぁ~。だいじょうぶぅ~?」
僕が適当にそう言うと、めろんちゃんが白野さんの後ろに回ってぽわぽわした声を上げながら様子を見に来てくれた。
「リアルのわっちんもかわいいねぇ~」
「どめろとのはとたこはとねこ」
めろんちゃんに顔をむぎゅっと両手で掴まれて無理矢理目を合わせられた白野さんは殿やら鳩やら蛸やらと言って痙攣した後、弾けるような衝撃音とともに机に倒れた。
「ひとごろしー!」
遠くに座っていた日羽が立ち上がり叫ぶ。ルイちゃんが手を伸ばして白野さんの横髪をめくって顔を確かめると、白野さんは口から泡を吹きながら変ではあるけどしっかりと寝息はたてていた。とりあえず死んではいない。とりあえずは。
「まぁ……目的は果たせたので、もう帰ります……」
しかしながらこれ以上ここにいると白野さんが消えるより先にどうにかなってしまいそうなので、僕は他の人を見回しながらそう言った。
「そうか」
「大丈夫! 消えないから!」
「またねぇ~」
「心理学部がおすすめですよー!」
そうして方々から聞こえる声を置いて、僕は立ち上がり、白野さんをお姫様抱っこしながら、仙泉大学を後にしたのだった。帰る時の周囲の目は気にしないでおいた。




