第52斤
準備を終えた僕たちは、最寄り駅から在来線で東京駅まで行った後、券売機で仙台駅行きの新幹線の切符を片道分だけ買った。つよしから貰った万札の数は3人分のグリーン車の運賃分を余裕で上回っていたので、グリーン車にしてみた。後で返せとも言われてないし。
そして今は高速で走る緑の車体の新幹線の中、3人で仲良く並んで高級感を感じるふかふかなシートに座っているところだ。ちなみに窓側にルイちゃん、真ん中に僕、通路側に白野さんという配置である。
ルイちゃんは最初の方は「動物園でパンダと戦いたいです」みたいな物騒なことを言ってはしゃいでいたけど今は右目だけが開いた状態で目まぐるしく移り変わる景色をぼーっと眺めていた。これが脳の半分だけ眠る半球睡眠というやつなのだろうか。ただ単に右目だけ開けてるだけなのかもしれないけど、寝てるのならそっとしておいた方がいいだろう。
「ねぇ……雪ちゃんからいっぱいLINE来てるんだけど……」
反対側に顔を向けるやいなや、白野さんからLINEのトーク画面が映されたスマホを押し付けられた。見てみると『大丈夫ですか!?』『ちはるーーーーーーーーん!!!!!!!!!!』『ああああああああああああああああああああああ!!』『体育祭どうするんすかー!!!!!』という文字で画面が緑色に塗られていた。
「気づいたらこんなに……雪ちゃんにも話した方がよかったのかな……」
白野さんが不安そうな顔で言う。
「委員長――偬鳴架ママ自身はYouTubeで活動は行ってないから、巻き込まなくてよかったんだと思う」
「でも……」
「とにかく、大丈夫って送ろう」
言葉に詰まる白野さんに、迷いながらもこれが正解なんだと思いながら言った。自分のスマホにも、委員長から『何があったんすかー!!!!』『ムギギギギギギギギギギギギギギギギギギ』『お願いですから体育祭の前にいちゃいちゃしてるって返事けざい』というメッセージが送られてきていた。それを見て僕は『体育祭の前にいちゃいちゃしてるけざい』と返信した。
白野さんを撮ろうとしても消してと言われそうなので半分だけおねんね状態なのかもしれないルイちゃんを撮った。ルイちゃんはシャッター音にも全く反応せず、ただただ窓に顔を向けて固まっていた。ともかくそうして撮ったルイちゃんの写真も委員長に送っておいた。
「『大丈夫だから心配しないでʅ(◔౪◔ ) ʃ』って送っておいたよ」
白野さんが薄く微笑みながらスマホの画面を見せてきた。
「何その顔文字……」
「こっちの方が心配させなくていいと思って……」
「まあ、多少ふざけた方がよさそうではあると思うけど」
「だよね……!」
白野さんは僕の返事に満足げな顔を浮かべてスマホを小さな鞄にしまった。
「舞原くんは、仙台行ったことあるの?」
そして若干上機嫌な声のまま、僕に聞いてきた。
「父の地元だし何度かはあるよ。日羽――いとこが大学行ってからはないけど」
「その……日羽さんって、どんな人?」
どんな人、か。少し答えに迷った後、僕は再び口を開いた。
「いつも全力を出し切っているというか、トップギアしかないみたいな、そういう人だよ」
「そ、そっか……やっぱり私とは全然……」
「違うね。わっちんとも違う。強いて言えばリムリムっぽさはあるけど、リムリムよりもヤバいと思う」
「や、ヤバいんだ……」
「うん」
全力で頷く。この前わっちんとコラボしたリムリムはしっかり自制がきいていたと思うけど、アレにはブレーキが存在しない。そのせいであやうく僕の死因が巨乳に押し潰されて窒息死になりかけたのだから。あんな経験をしたのは僕だけであると信じたいが、多分そうじゃないんだろうなという気がしてならない。
「あ、あのさ……」
「何?」
オフライン再生でわっちんのASMRでも聞こうかと思っていたら、白野さんがまた何か聞きたそうな顔をしていたので手を止めて白野さんを見る。
「学校の人たちに……どう思われてるのかな……?」
「YouTuberやってることは知られてないと思うし、サボってどっか行ってるとかじゃない?」
「だ、だよね……。私サボったの初めて……」
「僕は何度かある」
「そ、そうなんだ……」
素直に答えてあげたのに、白野さんは軽く引いていた。その顔を見て僕は白野さんの頬を引っ張った。
「ふぁふぁああふぁああっふぁふぁあ」
白野さんは、目を丸くしてふぁーふぁー言い始める。相変わらず幼少期に感じた母の温もりをも蘇らせるほどの凄まじく素晴らしく柔らかな感触である。
そして新幹線は、仙台へと僕たちを運んで行った。




