第29斤
5時間までつつがなく授業は終わり、6時間目になった。6時間目はLHRであり、丁度1週間後に行われる体育祭の各々の参加競技を決めるとのことだった。
「それじゃさっさと決めましょーかー」
教卓の前に立った癖毛と垂れ目が特徴的な学級委員長の白崎雪さんの間延びした声が響き渡る。
「えーとですねー。種目は100m走、200m走、800m走、1500m走、400mリレー、走り高跳び、走り幅跳び、綱引き、玉入れとあとは二人三脚障害物競走となっていまーす」
最後のやつ以外は至って普通な感じだ。普通過ぎて最後のやつが猛烈に気になりすぎる。
「すみませーん。最後の二人三脚障害物競走って何ですか?」
と思っていたら後ろにいた男子生徒の誰かが委員長に尋ねた。
「うちも委員会議で聞いただけなのでまだなんともいえないんすけどー、その名の通り男女のペアで二人三脚やりながら障害物競走、網くぐりとかパン食い競走やるみたいっすー。どうやら先代の生徒会長が運動できるできないに関わらず楽しめる種目があってもいいんじゃないかということで作ったみたいっす。本当は彼女とイチャイチャするべく作ったみたいですけど卒業前に別れたらしいっす」
話のオチで教室がどっと沸いた。白野さんも若干笑っていた。
「つってもこれはカップルがやらなきゃ色々まずいんで、舞原さんとちはるんにやってもらいましょーかねー」
「ばっばっばっばっば!?」
「じゃふじゃじゃふああいれあああかくあじゃけじゃじゃぁあああ!?」
教室が鎮まる前に眼前の委員長がいきなりポップコーンの豆を投げ込んできたので僕まで白野さんみたいな奇声が出てしまった。ちょっと待て。とりあえず待ってくれ。
「いつも登下校一緒で、授業中も休み時間もいちゃいちゃいちゃいちゃしてるお2人しか適任はいない。ですよねみなさーん?」
「はーい」「あれまだ付き合ってないの?」「いっつも一緒にいるし付き合ってるでしょ」「めっちゃ変な声聞こえたw」「いぇーい」「ふぅー」「仲いいのあの2人?」「多分仲いいどころじゃないよ」「放課後誰もいない教室で押し倒してた」「マジで?」「わかんないけど」「どういうシチュエーション?」「お似合いだよー」
ポップコーンが弾ける音が至る所から聞こえてくる。いつのまにこんな噂になってたんだ。近頃はもうわっちん、というか白野さんしか目に入れてなかったから知らなかった。
「どどどどどどっどどどどどどどっどどどどままままっままいあいあいあはっははっははっらかくうううん!?」
「やろっか」
「ええええええええええええええええ!?」
ここで断ってもじゃあ他に誰がやるんだという話になるし、勝てる自信がある種目が他にあるかと言われれば無い。それなら白野さんとイチャイチャするのも悪くないんじゃないだろうか。ディエゴパーティーでも白野さんと二人三脚できてないし、何よりわっちんとイチャイチャするのは夢にまでみた機会だ。
白野さんは奇声どころか叫喚しているけど大丈夫だろうか。と思ったら委員長が白野さんの席の机に座って、何やら耳打ちした。すると白野さんは軽く頷いた後、
「やります……」
口ごもりながらも、明確にそう言った。
「はーい。という訳で二人三脚障害物競走はお2人に決定しましたー。思う存分イチャイチャして頂きたいですねー」
反響するパチパチという拍手の音。
「それじゃ、他の種目もさくっと決めちゃいますよー」
白野さんは不意に僕のポロシャツの袖を引っ張って、耳元に口を寄せてきた。
「放課後……雪ちゃんが私と……舞原くんとで……話したいって…………ムリムちゃんとの配信あるから早く帰りたいのに……」
「それ言ったの?」
「言えるわけないじゃん! だから断れなくて……」
それはそうか。
「まあ、上手いこと早く帰れるようにしよう」
「う……うん……あと……」
「あと?」
「ばか……」
「ぐぇ」
白野さんは僕の脇腹に肘鉄砲を食らわした。
それからの種目決めは、特に弾けることもなく、淡々と決まっていった。誰がどの種目になったのかは、頭の中が取り散らかってて全く覚えられなかった。




