第28斤
「ごめんね、変な人で」
「別に……大丈夫……」
ウサギみたいにぴょんぴょん跳ねながら手を振っている母に見送られて、僕と白野さんは雲の無い青々とした空の下にある通学路を歩いていく。僕の言葉に白野さんは苦笑いを見せたのできっと白野さんも母を変な人だと思ったに違いない。
「で、僕にデートの何を相談したいの?」
「えっと、それは……」
「それは?」
「せ……全部」
「全部!?」
「あぅ……だって……しょうがないじゃん」
僕が聞き返すと白野さんは口を尖らせながら両手をもじもじさせ始めた。
「こういうの、初めてだし……」
「僕もそこまで経験ある訳じゃないんだけど」
「でも私よりはあるよ。絶対」
「まあ……でもなぁ」
『深く考えすぎても、しょうがないよね!』
思考を先読みしたかのように、頭のどこかから声が響いた。
「着ていく服とか……どこに行けばいいのかとか……ご飯とかどうするかとか……全然わかんない……」
「それを素直にリムリムに話せば?」
「だめ!」
白野さんは僕の提案を即却下した。
「ムリムちゃんに気遣われたくないし……せっかく誘ってくれたんだから……気持ちよく……楽しんで欲しいし……」
「そっか。とはいえ僕がやってあげられることなんて限られてるよ」
「うぅ……でも舞原くんしかこんなこと話せる人なんていな――」
わっちんの声でそんなこと言われたら頑張るしかないじゃないかと思った瞬間、白野さんのスクールバッグから着信音のようなものが鳴り響いた。
「あじゃばば……」
変な声で呟きながら白野さんが慌てた様子でバッグからスマホを取り出した。それから僕に近づきながら目を合わせてきた。白くて柔らかい頬が間近に迫ってたまらずぷにぷにしたくなったがなんとか理性で封じ込める。
「出れば?」
「う、うん。事務所の人からみたい……私なにかやっちゃったのかな!?」
「何かやったの?」
「自覚はないけど……やってたらどうしよう!? ねえ!?」
「仮にやってたとして、それなら出なかったらなおさらまずいでしょ」
「うばれああえあれぁ……」
白野さんは半ばパニックになりながら僕に詰め寄ってきたが、結局は震えた手でスマホの画面をタップして、耳に近づけた。
「はい……黒和です……」
白野さんが震え声で当たり前かのように黒和ですと言って笑いそうになったので咄嗟に距離をとった。
「あ、ありがとうございます……それで……その私何か…………あ、そうじゃない? なら……」
「はい……それは……知ってます……いえ……私は全然……連絡とかしたことないので……」
「え……!? は……はい……わかりました……はい……」
白野さんは通話を終えて、少し前を歩いていた僕に駆け寄ってポロシャツを掴んできた。
「らんすちゃんと……数日前から連絡が取れないみたいで……何か知らないかって……」
「富良らんすと?」
「うん……私はらんすちゃんと全然面識無いから……あと……SNSとか配信でらんすちゃんの話題を出さないようにって……」
「音信不通ってこと?」
「あ……うん……そう言ってた……」
こういう話、昨日もどこかで――そうだ。
「ドリザのうぇんって知ってる?」
「この前アンチを豚扱いして炎上した……」
「うん。そのうぇんも連絡が全くつかなくなってるらしい。炎上した人は誰しもそうなるのかな?」
「炎上したことないからよくわかんない……」
「わからないままでいいと思うよ。とりあえず、今はリムリムとのことを考えよう。いつ会う予定なの?」
「あ、うん……再来週……」
「ならまだ時間はあるね。僕も手伝うから、一緒に頑張ろう」
「う、うん」
こうして僕と白野さんは学校へと向かって行った。話を強引に元に戻したけど、白野さんは特に気にしていないみたいだった。気にさせないようにしただけなのかもしれないけど。
炎上、か。嫌な言葉だなと思いながら、僕は隣を不安そうに歩く白野さんの頬を指でつっついた。素晴らしい感触だった。
「うひゃあえああ! もう!」
白野さんが悲鳴を上げてから僕の肩をぺちんと叩いた。
「リムリムがこんなことしても叩かないであげてね」
「叩くのは舞原くんだけだから!」
こんな言葉で嬉しくなるなんて、やっぱり僕は生粋の焼きバターなんだな。
「なんで笑うの!?」
目を見開いている白野さんの頬を僕はまたつっついた。低反発で何度もつつきたくなる。
「まおあおふぁ!」
白野さんは僕の頬をつっつき返してきた。白野さんの指は、柔らかくて、温かかった。




