第26斤
「む……ムリムちゃん……? 今……なんて言ったの……?」
配信を終わらせた後、私は恐る恐るマイクに向かって尋ねる。今もまだムリムちゃんとの通話は繋がったままだ。言葉は耳に届いていたけど、配達不能になったふりをした。
『そのままの意味だよ! 今度さ、リアルで会ってどっか行こうよ!』
「あふつれとろまろの!」
やっぱりそういうことだったんだ。びっくりして変な声がまた出てしまった。
『ところでわっちんどこ住み?』
「それ知らないで会おうとしたの!?」
舞原くんでも先にどこ住んでるか聞いてからデートの誘いくらいはしそうなんだけど! いやそもそも隣に住んでるから聞く必要自体ないんだけども! ところでなんで私は舞原くんのことをかんがえのとねでーとほとほと!
『たとえわっちんがどこに住んでようがあたしは泳いででも会いに行くよ!』
「泳いで……って……よ……横浜ですけど……」
『横浜ァ!?』
「う、うん」
いきなりムリムちゃんの声が大きくなってびっくりした。横浜住みって言ってここまで衝撃的な感じで驚かれるのは初めてだった。もしかして横浜住みでびっくりするほどのど田舎にムリムちゃんは住んでいるのかな?
『あたし鎌倉だよ! すぐ行けちゃうよこれ!』
めっちゃ近所じゃん。あ、驚いたのはそっちの意味でだったんだ。
『スケジュールはーっと……今週はダメそう。来週も今からじゃキツそう。となると来月になるけどー……てか平日とか空いてる?』
「私高校生なんだけど……」
『キェェェア!?』
ムリムちゃんの超音波がイヤホンから耳に突き刺さった。するとなぜか咳が出た。なんでだ。
『高校生!? ますます会いたくなっちゃったんだけど!』
「え、あ、うん……?」
『よし……ナホセンにまた怖い目で見られそうだけど……怖いのは目だけだし……7月の最初の日曜日は!? 空いてる!?』
「ナホセン?」
『あ! いやそこはどうでもいいから! 空いてる!?』
「空いてるけど……」
ナホセンって一体何だ。いや、もしかして誰だ? なのかな? バイト先の先輩か何かかな(バイトしてるのかは知らないけど)? それとも私の知らないVTuberの中の人のことなのかな? めっちゃ気になる。
そういえばムリムちゃんの本当の名前はなんて言うんだろう。聞く勇気はないけど気になる。なんてことを考えていたらムリムちゃんが話をまとめようとしていた。
『おけ! じゃその日、あたしとデートね! それじゃまた明日ね!』
「あ、うん……また明日……」
そうしてムリムちゃんは私の返事を聞くと早々と通話を終わらせた。瞬間私はキーボードに額を押し付けた。すっごい疲れた。楽しかったけど、最初から最後まであんな陽気に来られたら陰キャは燃え尽きるよ……。
「まーいはーらくーん……」
何の気なしに、最近話す人の名前を口にした。ちゃんと配信見てくれたかな。明日聞いてみよっかな。
「デート……したこと……ある……よね……はぁ……」
苗字が同じなあの子も、明るい子だったんだろうなと、動画を見ただけで理解した。
舞原くんもきっと、私なんかよりもああいう子の方が好きなんだろうな。だからこそ明るく振る舞っている私を好きになった訳で……。
「まいはらくーん……」
ごちゃごちゃと散らかった頭で、私は彼の名前をまた呼ぶ。
明日、ムリムちゃんとのこと、話してみようかな……。ていうかもうデートするの確定しちゃったし……どうすればいいのか教えて欲しいよ……。
そんなことを思いながら、私はパソコンの電源を切って、配信部屋を後にしたのだった。




