ダンジョン③
洞窟に潜り込こみ、ゆっくりと前へ進んでゆく。所々にかがり火が焚かれているため、入口付近は明るく、足元の岩肌には湿り気などもないため、転倒の注意もなく進む事が出来る。しばらくすると、目の前に赤銅の扉が現れた。岩盤にがっちりとはまったそれは、両開きの扉のようで、ドアノブが少々高い位置に設置されている。この世界、低身長に対するバリアフリー概念とかないのだろうか。いくら押せども引けどもびくともしない。
「ええー…なあシルフィーヌ。お前どうやっていつも入るんだ?もしかして時間帯で開いたり閉まったりとかある?」
「そんなの、侵入する奴らと一緒に入るにきまってるじゃん。閉じ込められたとしても、ここは人の出入りが多いダンジョンだから、割とすぐに出られるしなー」
「さいですか。ううむ、身長がギミックに影響するなら、キャラクリ真面目にやれば良かったかもしれん…」
杖を構え、スケさんを召喚しようとしたその時。のそりと、毛むくじゃらの腕が頭上を通る。力を籠める様子などまるでなく、何ら抵抗もなく扉は開かれた。
「おわっ!!」
「ふむぅ」
慌てて横に飛び退ると、逞しい四肢に毛深い体毛、足先はごつい蹄が付いており、そして何よりもその顔には、いや、その顔は―
「ミ、ミノタウロス…?」
「……」
数々のゲームやアニメなんかに出てくる、闘牛の顔をしていた―!
扉を開けたミノタウロスは、何かを発することでもなく、だんまりと何かを考えこんでいる。片手には巨大な大斧を携えており、軽く一撫でするだけでも首どころか胴体も真っ二つになりそうだ…
「……」
「……」
めちゃくちゃ怖い。めっちゃこわい。何でこの人黙りこんでんだ。助け船を探そうと周囲をそーっと見渡すも、シルフィーヌの影も形も見当たらない。全く役に立たねぇじゃねぇかあの野郎!
嫌な時間がジリジリと身を焼くように過ぎていくが、あちら様はどうにも話さない様子。しかしいつまでもこうしてはいられないので、半ば自棄にもなりながら話しかける。大事なのは目を見てのコミュニケーション!はつらつと元気に愛想よく―!
「あ、ありぎゃッ…!」
…緊張のあまり、思いっきり舌を噛んでしまった。もうだめだ。恐怖心と羞恥心でいっそ死にたくなってきたぞ。
「……小さき者よ。大丈夫かね?」
「えっアッハイ。大丈夫デス」
こちらが痛みで悶えていると、ミノタウロスが屈んでこちらの背をポンポンと撫でてくれた。触れられた瞬間、押しつぶされる嫌な想像をしてしまったが、気を遣うその手からは、確かに暖かな優しさが感じられる。
「後ろからお主の様子を眺めていたのだが、何やら悪戦苦闘している様子。だがこの身を見れば分かる通り、手助けなどすれば小さき者の真の臓腑が止まらぬかと、手をこまねいていたのだが……つい、手を出してしまった。許されよ」
「いやいやそんな!助けてくれて、ありがとうございました」
なんだいい人じゃないか。さっきまでの緊張はほぐれたので、杖を握り姿勢を正す。あちらさんも満足したのか、ふんふんと頷いたのちにぽつぽつと語りだした。
「ふむぅ。大事ないのであれば僥倖である。我が名はリジード。詰まらぬ野暮用ではあるが、このローザンのダンジョンに用があってな…して、小さき者よ。お主の名は?」
「私の名前はソーニャ。新人の探究者?ってやつです」
「新人…となれば、お主はゴコの村から来たのかね?」
「……えっーと、その、たぶんそうだと思いマス、ハイ」
よくよく考えてみたら、今までなんも地域の名前とか聞いてないじゃん。脳内でチュートリアル村とか勝手に呼んでいた自分が恨めしい。てか自分の拠点とする場所の名前知らないとか、中々の不審者に見られるのではなかろうか。
「そうだぜ!こいつはゴコからタイガーで来たんだからな!いやー、草原から流れるあの風、結構気持ちよかったな~」
ひょっこりと、さっきからそこに居ましたよとばかりにシルフィーヌが肩から話しかけている。こいつ、今の今までどこにいたのだろうか。安全が分かった瞬間に出てくるとは、いい性格してやがる。
「……ふむぅ。なるほど、なるほど…小さき者よ。お主は恐らく、鍛錬の為此処に来たのであろう?であれば、道中の獲物は残しておいてやろう。この身には不要の物ばかりであるからな」
そう話し終えた後と、のしのしと扉に向かい、やがて足音も人影も消えていった。
「う~ん。ありゃあ相当つよいミノス種だな!野暮用とか言ってたけど、あんなに強そうな奴が、こんな新人御用達のダンジョンなんかに入るかな~?」
「まあ何かしら事情があるんだろ。話さなかったんだし、あんまり首は突っ込まんでおこうぜ……それよりも、だ。なにか言いたい事はあるかねシルフィーヌ君?」
「えー、何かあったっけなー?」
「てめぇー!!こちとら放置されてどんだけ怖かったかわかってんだろうなぁ!そそくさと逃げやがって!役に立つとか何だったんだよ!」
「しょーがないだろー!あんな怖いのがいきなり出てきたら、誰だって逃げるに決まってるよ!そのかわり、あんたが住んでる場所、教えて上げたじゃん!ちゃんと役に立ったじゃん~!」
…それを言われたら何も言い返せなくなる。所在地も確かめ忘れる己の間抜けを恨みつつ、一つの疑問を問い掛けた。それは―
「シルフィーヌ。あのリジードって人。何時から居たか分かるか?」
「…おいら達風の妖精はな、匂いにも敏感なんだ。風の通り道なんて、ここはあの入口しかないから、誰かが後ろから来たら絶対分かる。だけど…」
気が付けなかった―あるいは。突如として現れたか。何れにしろ、俺たちでは感知出来ない方法で現れたらしい。
「今は、気にしても仕方がないな。取り合えず、入るか」
「うんうん。細かい事は気にしたら駄目だぜ!さあ、初ダンジョンしゅっぱーつ!」
なかなか気になる所だが、こうして考えていたらいつまで経っても中には入れない。というより初のダンジョンなので、そちらの方に意識が向いている。頬をパチンと叩き、気合を込め、いよいよダンジョン内部に足を踏み入れた。
扉をくぐった後。スケさんを召喚し先行させ、内部にどんどん進んでゆく。先ほどの入口のような洞窟風景ではなく、まさにダンジョンといった迷宮のような通路であり、武器を振り回しても問題の無い広さだ。今現在俺の腰には小さな結晶が入ったランプを付けており、電球色を周囲に反射させ、暗闇に光を灯してくれている。所々何かしらの照明らしき設備があるので、内部は見えないほどでもないのだが、やはり、足元はしっかりと見えたほうがいいだろう。
「やっぱ一階の魔物は弱いのが多いのかな?」
「まーね。実入りが少ないから、だいたいの人はさっさと次にいっちゃうよ。おいらたちも早く下りようぜ~」
廊下を徘徊していると、時折魔物が襲い掛かってくるのだが、いずれも少し大きいネズミだったり、ズルズル動いているアメーバだったりと、今のところ脅威となる輩は出てきていない。おまけにこいつら、豆粒みたいな魔石しか落とさないため、効率よく進めるなら、確かに階層を下りた方がいいのだろう。
だがしかし、このオートマッピングもない古臭い仕様は、ガキの頃にやった大好きなRPGを彷彿とさせるもので、隅々までマッピングしてやろうとあちこちを徘徊している。時々壁を小突き隠し扉がないかも勿論チェックだ。
「シルフィーヌ。壁から空気が漏れていたりしたら教えてくれ。隠し扉かもしれないからな。そういったところには、宝やショートカットがあるかもしれないんだよ」
「………今のところ何にも感じないよーあんた変わってんなぁ」
好きに言ってくれ。迷宮探索と言えばこれなのだ。
その後もコツコツと壁を確かめ、あらかた開けられている宝箱にガッカリしていた頃、L字型の通行止めにたどり着いた。
「なあ〜〜もう何にもないじゃん!階段も見付けたんだし、もう次に―」
「まあまあ、これで最後だからッ…!?」
石壁を適当に突いた瞬間 ふわりと重力が無くなる。いや、それはほんの僅かな時間の錯覚に過ぎないのだろう。気がつけば地面は無くなり,真っ逆さまに落ちていった―
登場人物の名前間違えるとか言うとんでもない誤字をしていました!いやもうホントに恥ずかしい。ご指摘して下さった方、ありがとうございます。




