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召喚のみでやってきます!  作者: オスめこ
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ダンジョン②




青々と生え茂る草原をひたむきに走って早数十分。てくてく歩くお散歩とはかけ離れた速度で、徐々に洞窟に近づいてゆく。移動している最中も、起伏のない平坦な時には、ちらりと水晶を覗き込んで距離を把握する。遠見を担当しているゴブリンさんにお願いし、目的地に設定してもらった甲斐があった。時々見るたびに距離が縮まっているこの安心感といったらないな。まあそもそも設定しなけりゃたどり着けないだろうけど。


「よしよし、疲れてないか?タイガー」


「ウォウ」


おまけにこの子、疲れる様子が全くない。もしかしたら限界もあるのかもしれないが、今のところ足取りが不安になることもなく、颯爽と草原を駆け抜けていく。まあ俺の方が姿勢の維持がつらくなって休憩を取っているけど、まだまだいけるぜとばかりにこちらに顔をスリスリしてくるので、この調子で行けそうだ。だが流石に長時間走らせるというのは、少し罪悪感が沸くので、出発前に補充した食料の一部をタイガーに分け与える。こんなんしても効果とか全くなさそうだけどね。


「ほら。もうちょい頑張ってもらうからな。これお食べ」


「ガル?」


何やってんだこいつという反応をされるが、それでも何度か口元に近づけると、舌で舐めとるように干し肉を攫い、むしゃむしゃと食べてくれた。いや、動物が飯食ってる姿ってなんで愛おしく見えるんだろうか。


「美味しいか?ん…?よしよし」


「うん!この干し肉。あんましょっぱくないな!そんなに固くもないし、美味いなー!」


「…………は?」


え。この子喋れんの。ペロペロと毛づくろいをしているタイガーが、きょとんとした表情でこちらを見つめてくる。まさかこいつ、こちらと同様、アバターで、中に人間が入っているのだろうか。仮にそうだとして、もしこいつの中身がおっさんならとんでもない大事故だぞ。おっさん同士が撫でて撫でられの地獄絵図とかすぞ。もう二度とこのゲーム出来なくなっちまうぞぉぉぁ!!


「グル?」


「嘘だと言ってくれタイガー!!中に人なんていないよなぁ!頼むッ!」


慌てふためいて詰め寄ってみると、微かに物音が聞こえてくる。何かを咀嚼するようでいて、時折息を漏らすような声も。ふとサドルを覗き込むと、そこには―


「お前かよ…どっから沸いてきたんだー?」


「沸いたって、また虫みたいな表現するな!おいらたち妖精は、司る属性の範囲なら、何処にでも現れるよーだ!」


仰向けに寝そべり、リラックスした姿勢でぼりぼりと干し肉を齧る様は休日のおっさんの如し。そんな、だらけた妖精シルフィーヌの姿がそこにはあった。


「あんた、ダンジョンに行くんだろー?それならおいらが付いて行った方が、色々と助かると思うぜ!簡単って言われているダンジョンだけど、それは探究者目線での計りで、普通の冒険者とか、新米魔術師なんかにはそこそこ難しいらしいし」


「シルフィーヌ。お前今から行く場所知ってんのか」


「おいらたち妖精は、普通は見えないからね~。暇つぶしに戦いを見ようって、ふらっと様子を見に行ったりするのさ。まあ戦闘に巻き込まれる事はあるから、いつもは遠くから見てるだけだけど」


目に見えないのに流れ弾に当たるのかと不思議に思うも、考えてみればこいつ、虎に食われてたもんな。あれ恐らく虎は他の生物を食べようとして、誤って飲み込まれたのだろう。見えないだけで実体はあるのだから。


「お前、付いてくるなら、俺の傍にいてくれよ。守るのは俺じゃなくてスケさんだけど」


「その腰にあるナイフでずばばっと倒せないのかー?」


「こいつは護身用だ。或いは最終兵器。もしくは初見殺し。いずれにせよ、不意打ちに使うもんで、俺自身は上手く振るえないよ」


気が付けば合流していたシルフィーヌ。色々と聞きたい事はあるが、あまり留まって話し込むのも時間が勿体ないと判断した。荷物をまとめ、鞍にまたがり、出発する。シルフィーヌの方も移動には問題は無いようで、そのままサドルの端っこ、俺の首元で姿勢を崩すことなく寛いでいる。どうにも風の影響とか受けないようだ。


「なあ…っさっき役立つって言ってたけど、具体的に何が出来るんだ。お前」


「うんー?そりぁあ風にまつわる事あれこれさ。期待してなよー絶対有難く思えるはずだからね!」


何とも曖昧な表現だが、自信たっぷりに宣言する当たり、何かしら能力は備えているのだろう。そう信じて、残りの道中を再度、駆け抜けていった。





あれから走ること20分弱。道中丘を何度か超え、ついにコンパスの針が真赤に染め上がったころ―遺跡群のような場所と、ぽっかりと空いた洞窟が見えてきた。草原の中、いくつか盛り上がる丘に無理やり入口を付けたようなその洞窟は、果たしてどこに向かうのだろうかと疑問に思うが、まあゲームだし、あんまり深く考えてもしょうがないかもしれない。洞窟の入口前には幾人かの人間がまばらにおり、そのうち一人は商人のようで、馬車の目の前に露店を広げ、気だるそうに商品を整理している。


「おし到着。いや遠かったなぁ…」


腰をポンポンと叩き、思い切り背伸びをする。柔軟をするたび、体中からゴリゴリと気持ちよい音が鳴り響く。それぐらい移動がつらかった。途中休憩を挟み、尚且つ移動時間は1時間もないだろうに、それでもこのざまなのだから、如何に現代の通勤や車移動に甘やかされていたのが分かるなこれ。


「あんた、これぐらいで疲れてんのかよ…ダンジョン攻略大丈夫かぁ~?」


こちらを馬鹿にしているのか、心配しているのか。判断しかねる声色でシルフィーヌが覗き込んできた。流石に移動で疲れました。今日はもうしませんでは興が覚めるというもの。適度に体をほぐしたのち、大丈夫だと頷いて、洞窟に向かう。まあ入口付近に商人がいるのだから、当然―


「いらっしゃいらっしゃい!そこのお嬢さん!冒険者さんかい?それとも誉れ高き探究者サマかね?まあどちらにしろ、顔なじみのない新人さんだろう!どうだい。ダンジョンに潜るには必須のアイテムを山ほど取り揃えているよ!」


まあ営業が飛んでくるわけで。

筋骨隆々のたくましいおっさんが、キラリと光る頭を輝かせながらこちらに近づいてきた。これから潜ると思われる周囲の人よりも、しっかりとした装備を身に着けているあたり、中々稼いでいるご様子。


「ええもちろん。商品を見てよろしいでしょうか?」


「大歓迎ですとも!気になる物があれば、是非!」


おっさんが傍に立ち、ペラペラと色々な事を話しているが、右から左へと聞き流し、支店で売っていた商品と値段を見比べる。地域ごとに相場など変動するのは当たり前だが、どうやらこの方、結構な高値で販売しているようだ。危険手当として考えても、相場の2倍はやりすぎだろう。特に冒険者なんて、命がけで潜り込むのだから、備品の一つあるなしでも生死に関わる問題。こんな暴利で売っていると、そのうち逆上した輩に襲われそうなもんだが。


「ではこちらの水と食料を頂きたい。ああ、それ以外は必要ありませんので」


「毎度あり!だが嬢ちゃん、そんな装備でいいのかい?中がどうなっているか、俺は最近見ていないから分からないが、もっと消耗品を買いそろえた方がいいよ!」


「おや、商人さん、以前は中に入り冒険していたんですか?」


「冒険ってほどじゃあない。5階層まではイケたが、残る階層からは敵も強いし、罠も増えるわ、安全な場所(セーフゾーン)も遠いわで、諦めちまったのさ!…なあ、本当に悪い事は言わない。もう少し準備するべきだよ。嬢ちゃん」


がははと笑い、こちらの心配をする商人さん。所々から覗かせる傷が、恐らくこの人が嘘をついていないという証明なのだろう。表情も子供を心配するそれだが、あいにくとこちらは本来飯や水など取らなくてもよいのだ。わざわざかさばる荷物を抱え込みたくないが、信頼関係を築く為に購入しただけだし。


「ご心配どうも。まずは一階を探索して、力量や物資の消費量の把握をしたいと思うのです。商人さん。こちらでは魔物の素材の買い取りってやります?」


「ああ、そういう事か。慎重だね嬢ちゃん。勿論買い取らせてもらうとも!」


暫くお世話になりそうだし、値段云々で喧嘩を吹っかけるより、顔なじみとして覚えてもらう方がいいだろう。そんな、少し業突く張りなおっさんと別れ、いよいよ洞窟へと踏み出していった―






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