ダンジョン①
先日は色々とこなしたので、今日はのんびりやろうと決めた。惰眠を貪り、目が覚めた時には翌日のお昼ごろ。昨日のビールとチキンの味わいが忘れられず、また流石に何度も栄養食やカップラーメンで済ませてはいられないので、ぶらりと外食や買い出しを済ませ、掃除やらなんやらしていたら、すでに夕方になっていた。
いつもの2連休なら焦りが生まれる生活リズムだが、まだ連休は3日もあるという余裕が心にゆとりを産んでくれている。いや、有給申請してマジで良かった。通常の休暇なら、勿体無い精神でギリギリまでゲーム漬けになっていただろう。多分体壊すだろうな。
「とりあえず、筋トレ道具はこんなもんだな。あとはプロテインね。適当に買ったが、正直何が良いのかまるでわからんよなあ。こういうグッズ」
部屋の一部に並べられた筋トレ道具。ダンベルからヨガマット。ローラーにプロテインと、ネットで調べて購入した。なんでこんなもん買ったかというと、割とあの世界、こちらのフィジカルが影響するのではないかと思ったからである。あちらで1〜2時間歩いた結果、本日見事に筋肉痛を引き起こしているのだ。寝てるだけなのになんでやねんと思うが、この痛みは間違いなくあの筋肉痛である。であれば、多少の筋トレや運動を行い体力を付ければ、緩和するのではないかと思い購入だ。
「ま、今日はいいだろ。今度今度」
筋肉痛してるのに運動しちゃダメでしょという、頭の悪魔が囁き、機械に入りこむ。明日からちゃんとやろうと心に決め、またバーベナの中に入り込んでいった―
リスポーン地点と化したベッドから、むくりと体を起こし全身を伸ばす。段々と見慣れつつある個室の風景にどこか嬉しい気持ちになりつつも、周囲を見渡してもシルフィーヌは居なかった。奔放としていそうだし、案外冒険してたら傍にいるかもしれない。さっさと準備を済ませ、下に降りてゆく。
「おはようございます。ゴルさん。受付さん」
「あ?坊主今日も来たのか。精が出るなぁおい。それとも酒の味が忘れられなかったのか?」
「ゴル。あんまり【ソーニャ】ちゃんをそっちの道に引き込まないでもらえないかしら?あんな毒物を薦めるなんてどうかと思うのだけど」
「おい、いくら俺が半ドワーフだろうと、酒を毒物扱いとは承知しねぇぞ。酒はな、神からの祝福!その煌々たる血液を、俺ら下界の民草に、ひと時の安らぎとして賜ったもんだぞ」
「その酒精のせいで、どれだけ人間種が争いあったのか、数えるのも馬鹿らしいくらいの火種じゃない?私としては存在しない方が清々するわね」
挨拶早々、バチバチに険悪な雰囲気を醸し出す2名は置いておいて、玄関先で備品を整理していたフード付きのゴブリンさんに声をかける。あちらもこちらを把握していたようで、ニカリと凶悪な笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます。ゴブリンさん。貴方から頂いた短剣、やっぱり凄く頼りになりましたよ…でも、本当に良かったんですか?個人的には、こいつを受け取るのは、やっぱり気が引ける」
「いえいえ。気になさらないで下さい。ルーナ様からの取り決めにより、今の私に譲歩できる最大限の宝と言えばこの魔剣くらいですから。それに、もとより貴方様に救われなければ、今こうしてこの場にいることすら出来ません。あの時お救い頂いて、本当に感謝しておりますぞ」
「…でしたら、有難く使わせて頂きます!」
ペコリとお辞儀をされ、この話題はすぐに消える。まあ、お互いペコペコ謙遜し合うなんて、社畜の時で十分だ。その後は今日向かう場所について雑談をしつつ、ヒートアップした2名が落ち着くまでのんびりと暖炉で包まった。
「こほん!…大変お見苦しい姿を見せてしまいました。申し訳ありません。さて、本日はどのように過ごされるのです?」
ようやく落ち着いた受付さんが、少し恥ずかしそうにしながらもこちらに問いかけた。まあ大の大人がぎゃいぎゃい騒いだら恥ずかしくもあろうもの。あまり触れてやらないように、素早く返事を行う。
「今日は、以前ゴルさんが言っていた洞窟に行ってみようと思います。もしたくさんの魔物がいるとすれば、いい経験値稼ぎになりそうですし」
この洞窟というもの、どうやらかなり美味しい場所らしい。何でも週間ごとに作りや階層が変化するらしく、宝箱などもその都度ランダムに生産されるらしい。そして最下層の主を討伐すれば、なんと四次元ポケットのような、なんでも入る鞄が手に入るそうだ。初心者向けの難易度かつ、今後の生活でも必須ともいえる収納鞄。是が非でもほしいところである。それに何よりも―
(まさか呪文書の強化にあれだけ資財が飛んでいくとはなぁ…)
そう、前回スケさんやまだ見ぬタイガーの強化をした際、お金も資源も即座に底を付いた。あのヒュージタイガーの討伐報酬、初めての依頼としてはかなり破格だったようで、他の依頼では同等の苦労をしても精々が1万弱とかなりの低賃金。おまけに呪文書を強化するごとに必要な素材も膨れ上がるらしく、今のまま依頼を受け続けても実入りやゲームの進行が遅いのだ。効率よく進めていきたい人間としては、今後楽になる事ならば多少無茶してでも済ましてしまいたい。
「なるほど、ダンジョンですか…まだ時期尚早と思う気持ちもありますが、確かに、手早く力を付けたいとなれば打ってつけの場所ではありますね…忠告ですが、【ソーニャ】さん。洞窟内は暗く広大で、侵入者を排除しようと魔物が蠢いています。致死に至る罠が待ち受けることも少なくありません。危険ですがリターンも大きい。それでも構いませんか?」
「もちろん構いません。ぜひ場所を教えて下さい」
受付さんから場所を聞いたのち、街はずれにて、新たな呪文を試そうとしていた。杖を構え、祈り、詠唱する。
「―召喚― ヒュージタイガー!」
いつもの黒い魔法陣ではなく、黄銅色の幾何学的な模様が浮かび上がる。そして、方陣の中からスッと鞍の付いた大きな白い虎が生まれだしてきた。昨日戦った個体と比べ、幾分優し気のある目をしており、こちらに近づくと喉を鳴らしながらストンと座りだした。面こそ凶悪だが、中々かわいい…!
「おおーよしよし!よーしよしよし!」
「グルルルル…」
こちらがじゃれつくように頭を撫でまわすも、拒絶することなく、こちらの高さに合わせて頭を下げてくれた。今の体だとタイガーが座ると若干頭が高いのでやむなしなのだが、何故だろう。なんか子供に付き合ってくれる犬のようだ。
モフモフを堪能したのち、いよいよ出発しようと伏せるようにお願いする。こちらも拒否なくぺたりと伏せてくれたので、しっかりとまたがり、鐙に足を掛けて、ゆっくりと歩きだす。正直、乗馬経験など0なので、速攻横に落ちると思ったのだが、以外にも安定感がある。というか、この子が上手く体を動かしているのだろうか。しなやかに上下する体は、振り落とされる心配もなく進んでいく。
段々と慣れてきたので、体を倒し、左右にある取手を握りしめる。バイクの前傾姿勢のような状態だろう。こちらが走れと念じると、タイガーは徐々にペースを上げ、遂に周囲の景色が流れていくような速さで走り抜けていった。
「おっし!目標はダンジョン攻略!頑張ろうな。タイガー!」
「ウォウ!」
取り合えず、キャンプでもなんでもして頑張ろう。そう心に決め、ダンジョン攻略に乗り込んだ―!




