初めての冒険④
無事回収を終え、帰ろうとした瞬間。可愛らしいが言動が少しうざったい妖精シルフィーヌが付いて来ると言い出した。日本人特有の遠慮の中にやんわりと、だが心の声が聞こえてくるであろう拒否のお返事を繰り返す事数回。全く本心が伝わらず、気が付けば既に中間地点までふよふよと付いてきてしまった。
「にしてもあんた、どっからやって来たんだ?エピセルなんて種族、めったに見ないし、いるにしてもノースポールの氷大陸だと思っていたんだけどな」
「んな寒そうな場所見た事ないよ。なんというか、よそから来たというか…他の人からはトラベラーって呼ばれたりはしてるけど」
「ああーなるほど。訪問者かぁー。時たま遠巻きに見たり、他の妖精から聞いたりするけど、あんたら、別の世界から来てるんだろ?あっちでは何してるの?どんな場所?ねぇねぇ~」
おまけに口を閉じる事もなくこちらの頭をぐるりぐるりと回りながら話しかけるもんだから、いろんな意味で目まぐるしい事この上ない。結局その後も色々と話しをしながら帰所となった…
「ぶッ…はっはははは!坊主っ…お前さん妖精に目ぇ付けられたのか!しかもシルフィーヌたぁ、お前さんって奴は本当に面白いな!」
帰宅してドアを開いた途端に、先ほどと変わらず酒と美味い飯を頬張っていたゴルさんが、こちらを見つけた瞬間爆笑しやがった。この反応を見るに、妖精を連れ添う事は中々厄いイベントなのだろう。こちらを見つめてニヤついている飲んだくれはほっといて、さっさと受付さんの元に向かう。するとあちらも得も言われぬ表情をしているもんだから、ため息が喉から出掛かった。流石にシルフィーヌに失礼だからしないけどさ。
「お帰りなさい【ソーニャ】さん。この様子ですと、今回は苦戦することなく勝利することが出来たのですね♪」
「ただいま戻りました。こいつのおかげで、無事に倒すことが出来ましたよ」
臀部に収めている鞘を一撫でしつつ報告すると、あちらも嬉しそうに笑ってくれた。あのゴブリンさんは今は哨戒中らしいので成果を報告できないのが残念だが、まあそのうち合えるだろう。
「それは何よりです。ところで―」
「なあなあデミドワーフの兄ちゃん。それおいらにもくれねぇか?めっちゃいい匂いするんですけど!」
「ああ、好きなだけ摘まめ。何なら酒も―と言いたいところだが、お前らを酔っぱらわせると何が起きるか分からんから、酒は無しだ。果実でも齧るといい」
あの妖精、入った瞬間飯に目が行ってたどころか、早速集りに行ってるし。
受付さんもなんだか困った表情しているし、これ招いたの宜しくなかったのだろうか。
「おほん。シルフィーヌとはどちらで出会ったのですか?本来妖精は、人間種には見つけることが出来ないものなのです。それこそ、神からの定めや、妖精から見てお気に入りの人物でない限り。彼らが視界に映る事があり得ませんので」
「あいつはですねーヒュージタイガーの胃袋の中から出てきました。解体中に緑色に光る部位があったので、切ってみると飛び出してきたんですよ」
「い、胃袋の中…それはまた、刺激的な出会いですね…?」
出合いを語った瞬間ドン引きされた。まあ、何かしら神秘的なシチュエーションならともかく、胃袋捌いたら出てきました、じゃあそうなるわな。
「受付さん。妖精とは私達のような魔術師にどのような影響を与えるのですか?今後の活動に悪影響があるなら、さっさと解散してもらいますけど」
「いえ、悪影響は~無い…とは言い切れませんが、良い影響も勿論ありますよ!ただ、概ね妖精に見初められた方というのは、不思議な人生を歩む方が多いので、魔術師の中には拒否感を示す方も一定数いるのですよね~」
あやふやな表現のオンパレード過ぎる…!確かな事は妖精というのはろくでもない案件っぽいようだ。ゴルさんにも聞いて見ると、賭博のコインのような物だとか。妖精と共に過ごし、多大なる幸運を掴んだ結果、奴隷から都市の長となったもいる一方。妖精が一目惚れした挙句、その人物を攫い、自分だけの物にするなんて横暴な個体もいるらしい。どう考えても関わってはいけない奴じゃん。倫理観を持たない人間なんて一発で危険人物認定だが、妖精さんは大半がそれのようだ。
「今すぐクーリングオフしたいんですけど!!絶対付きあったらダメな奴じゃん!」
「おいおい落ち着け。お前さんが出会ったのはマシな方だよ。なんたって力づくで物事を解決出来る妖精ってのは、今の坊主より遥かに強いからな。抵抗出来る間もなく攫われて終わりだ。ま、妖精がらみの事件なんて、道を歩いていたら空から竜が落っこちてくるぐらいに起こりえん確率だ。逆に幸運だよ。お前さんはな」
「くーりんぐおふってなんだ?なあそれよりあんたも一緒に食べようぜー。この鶏肉凄く美味しいんだよ!ほら」
シルフィーヌが目の前までお肉を持ってきたので、一旦思考を放棄して酒と共に飲みこむ。ああ、やっぱ美味い。長距離を歩いて疲労した足と尻が、もうこのまま座って飲もうぜと訴えて止まない。散々飲んだ後にベッドにダイブできたら、どれほどの幸せを味合う事が出来るだろうか。それ程の誘惑が目の前に広がっているが、欲望のままにそれをすると後で受付さんが怖いので、早速報酬を受け取りに向かう。
「まあ、シルフィーヌさんとの付き合いはじっくり考えてもらうとして。本当にお疲れ様でした。改めて、今回の報酬として、新たな呪文書〈巨虎召喚〉を。手付金として3万ゴールドを支払います。ゴールドの方ですが、こちらをお持ちください」
そういうと、受付さんは呪文書一冊とカードを渡してきた。なるほど、現金支給ではなく、クレカのような物で金銭のやり取りを行うようだ。カードは白を基調として、ナンバーや名前と共に縁が時折光り、見ていて美しいもんである。これ一枚に価値がありそう。そして何よりも呪文書。呪文書だ。今回回収した素材と合わせて、早く諸々弄りたい。さっきのだらけた欲望は何処かに引っ込み、近くで雑用をしていたゴブリンさんに声をかけて調合することとなった―
「よし、やってみますかね」
調合の為の道具を揃えて、どのように強化していくかを思案していく。ヒュージタイガーの素材一式と、前回作成した魔晶液もあるだけ。呪文書と合わせて、初心者向けと言われていた調合書も開く。正しく素人向けの物で、今の俺のような低難易度の魔物の素材の効能から、森林で回収できる薬草やキノコの名称など様々だ。1万ゴールドと中々な金額だが、必需品なり得るし、余裕がある時にさっさと買った方が良いと判断し購入である。
「おっ。なになに何するの?」
「調合だよ。スケさんの強化とか、今回貰った呪文書の加筆とかいろいろ。言っとくけど、邪魔はしないでよ」
お腹パンパンになっていたシルフィーヌが、暇を持て余したのか近くに寄って来た。飛ぶのもつらいのだか、テーブルと接している柱にだらしなく寝そべっている。なんともぐうたらな奴だ。
「取り合えずヒュージタイガーの召喚には、騎乗するためのサドルを準備してやらんとなぁ」
調合書とにらめっこし、読み合わせていくと、どうにもそうした騎乗する道具を準備する際は、その魔物の所縁がある素材が必要となるらしい。サドルを付ける以外にも、武装するためにも同様の素材を使用する為、今回の強化は騎乗するための最低限な防具をタイガーに着け、一部をスケさんの強化に回すか、タイガーに装甲もつけガチガチにフル強化するかのどちらかだ。
今現在のスケさんの問題点として、防御面の脆さがある。戦闘技術自体は当初から中々の物なので、そこはいいのだが、如何せん未だ一糸まとわぬ白骨裸体なので、戦闘中掠っただけで戦闘不能になりえる危険性があるのだ。しかし装甲を身に纏い突き進むタイガーを想像すると、こちらも恰好が良く、大変悩ましい。シルフィーヌに相談すると、堅実にスケルトンを強化したら?と、案外手堅い回答を頂いた。
「…ま、ロマンに走るのはまだ余裕はないわな。スケさん強化しよ」
「あのスケルトン、剣一本だからな~流石にもうちょい何か足した方がいいんじゃない?おいら、重装のスケルトンウォリアーってのもカッコいいと思うし!」
「だな。目指すは混沌の奴くらいにガチガチにな!」
思えばあの意匠、血しぶきはともかくとして、全身を鋼鉄に固める武装っぷりは中2心に響くものだった。流石にあれほどにはいかないだろうが、目標は胴体の防具作成として作業を始める。
皮は皮下脂肪をこそぎ取ったのち、専用の魔道具に固定する。通常だと乾燥や脱毛、染色や薬液の漬け込みなど様々な工程があるはずなのだが、そこは魔法のパワーにより、規定量の魔晶液を使用することで瞬時に革に変化した。そしてミンチマシンのような外見をした魔道具に革をセットし、ハンドルをぐるぐる回すと、ポトリとサドルを模した小さな革製の勲章が作成できた。
後はこちらを表紙に縫い付けるだけである。専用の針と糸を使用し、適当に右端に縫い付けた。
スケさんの防具に関しては、購入した鉄鉱石と合わせて砕いた爪や牙、魔晶液を鍋にぶち込み、ぐつぐつと煮込んでいく。出来上がったのは暗い少量の灰色の液体で、こちらを蝋風に浸し、前回挿絵を記入したスケさんのページにドンと押し付ける。鎧を模した印璽は、確かに現実の蝋のように盛り上がりがあるのだが、本を閉じると厚みなど一切感じず閉じることが出来た。後は後々テストをして、きちんとできているか確認するのみとなった。
「がんばるね~あんた、結構な時間やってるけど、大丈夫?お水取ってくるから、ちょっとは休んだ方がいいよぉ」
「え、まじで?まだ三十分くらいじゃ…わお」
いかん。熱中して作業していたらしい。メニュー画面を思い浮かべ、時間を確認すると、現実は夕方から深夜となっていた。ゲームに熱中すると時間を忘れがちだが、久しぶりにのめり込んでしまった。平日なら絶望してしまう時間だし、意識すると眠気が湧き出てきたので、手早く片付けを済ませる。
シルフィーヌと共に居室に戻り、その日はそのまま休んでいった―




