報酬
「……今回は悔しいなぁ……」
仮想から現実へ戻り、一息ついたのち。一連の戦闘を改めて考えなおすと、救助に駆け付けてくれたルーナがいなければまず死んでいただろう。あのゴブリンさんが何らかの方法で救援要請していたのだろうが、黒い兵士を一方的にボコボコにしてたあたり、今の俺とは遥かにレベルが違う。プレイヤー間でも中々でかい格差がありそうだ。
「あの時油断しなけりゃ…いや、後の祭りだな。やめやめ!休んでもっかいだ」
嫌な思考がぐるぐると頭の中に浮かんでは消え、もしかしたらと何度も妄想するも、結局のところ、正解などあるわけないと結論付けがされる。いやな思考を振り払おうと、栄養食をかっこみさっさと布団に潜り込む。結局は夕方まで眠ってしまい、時間を惜しむように素早く機械に入り込んだ。
「疲れているはずなのにやりたくなる。こりゃ気をつけんとヤバいかもなぁ」
ネトゲにのめり込みすぎて亡くなる方もいる昨今。特にこのゲーム、あちら側がリアルなんで、現実と仮想の区別がつかん状態にもなりそうで中々怖い。気づいたらこの機械が棺になってました。とか冗談にならなさそうである。気を付けようと心に誓い、引かれるように眠っていった―
再びVRに戻ってゆく。今回はホームベースにも向かわず、そのままバーベナに直行だ。眠りから覚めるように目を開けると、前にも見た質素な部屋で横たわっていた。相変わらず紫色の結晶のみの色合いなので、いずれは装飾とかしていきたいな。
「お疲れ様です。受付さん。あ、ゴルさんも」
「なんだお前さん。また起きたのか?お前さんら訪問者は無茶しちゃいかんぞー。前に何度も顔を出していた奴が、数か月顔を見せんで、ようやっと起きた時に話を聞いたら、体を壊していたとかいってたからな」
「あはは…さっきそうならないように心に誓いました。ちゃんと休憩したから大丈夫ですよ。ゴルさんや受付さんも、大丈夫だったんですね」
「まあ、あれくらいなら俺やカスミナでどうとでもなるからなぁ。お前さんにも、後学の為に見せてやりたかったが。ま、また今度だ。とりあえずあっちと話せ。俺は今日は業務終了だ」
どかりとテーブルに着き、でかい木のジョッキに縁から溢れているビールを旨そうにごくごく飲まれている。しかもその目の前には湯気が香料と共に立つ、丸々と太ったローストチキンも置かれているもんだから、先ほど済ませた簡素な飯とは雲泥の差だ。自然と涎が垂れるのも仕方ないことだろう。物欲しそうに見ていると、足を毟りいきなり口に突っ込んできた!
「あふっ!熱っ!!」
「んな目でみられりゃこうするしかないだろうが。ほれ、お前さんも一杯飲みな。ホントは報酬受け取ってからだってのに、この坊主は」
そういうもにやにやと笑いながらこちらにコップを差し出してくる。どうやら飲んでいたビールのようだ。ガラスでもないので、液体の色は見えないが、純白のきめ細やかな泡は見る者全てに美味いビールだぞと訴えかけており、熱々のチキンを飲み込んだのち、ゴクリと一杯飲めば、麦芽の爽やかな風味と苦みが口の中の鳥の油をかっさらい、喉に流れてゆく。控え目に言って―
「うっっま!」
「お、お前さんイケる口か!こりぁいい!ここの連中ときたら、下戸の奴らばかりでなぁ。まったく酒は神の血液だっていうのに!不信信者ばかりで参っとったが、うむうむ。こりゃめでたい日だ!」
飯が美味い。酒が美味い。ヤバい。これ目的でこっちに来るの、全然ありだわ。てか絶対いるだろ飲食目的で来る奴。そう思えるくらいに、クオリティが凄い!
ゴルさんと共にぎゃあぎゃあ騒いでいると、突如室内が熱くなってきた。ビールの度数や暖炉の火が強いかと訝しむと、ニコリと、いや全然笑っていない受付さんがこちらを見つめている。
「なんじゃい。新人を祝っているだけだろうに…あー坊主。ほれさっさと行って来い。あいつが睨んでると飯が不味くなるわ。物理的に」
バシバシと背中を叩かれ、酒盛りから追い出されてしまった。正直もうちょい飲んだくれたいが、これ以上受付さんを怒らせるのは怖いので、さっさとカウンターに戻る。すると、笑っていない笑顔からいつものデレっとした表情に戻ってくれた。
「こほん。【ソーニャ】さん。先ほどは戦闘訓練、並びに混沌との戦闘、お疲れ様でした。結果的にルーナが仕留めたそうですが、同行したゴブリンズの話によると、一度はあなたと連携し、倒したそうですね。素晴らしい成果でした。本来でしたら戦闘訓練の報酬のみとなりますが、今回はイレギュラーの対応をしたということで追加の報酬が出されますよ♪」
「ありがとうございます。ただ後者に関してはあまり、というか全然活躍はしていないんですけど…」
「いいえ。貴方は素晴らしい功績を残しました。私の契約使い魔である、ゴブリンズを助けたんですから」
それは元を糺せば、俺の実力不足が招いたものではないか、結局はルーナがいなければ、この身共々やられていたのではないか――そんな、益体の無い思考が渦を巻いて口から吐きでそうになる。だが彼女は止めた。指先をこちらの口に付け―
「それでも、です」
「それでも、ですか」
「ええ。この世界で生きていれば、誰でもそうなります。後悔と懺悔、己を苛む自己嫌悪…未だ戦乱の只中。このような出来事は、残念ながら有り触れた事ですから。だから、言えることは一つだけ」
「強くなりなさい。己の価値と定めた財貨を守る為に。これは、探究者として、いいえ、この世界で生きていく上で必定です」
先ほどまでの優しい雰囲気は引っ込み、ぴしゃりと、諭すように叱責される。だがこうもはっきりと言われたのなら、男としていつまでもぐずぐず悩んではいられないな。目を覚まさんと頬を叩き、ありがとうございますと礼を伝えた。その後は彼女も微笑み、いよいよ報酬授与となる。
「さて先ずは戦闘訓練の方ですが、新人パッケージとしてこちらをお渡しします。今後、冒険や依頼を行う上で必要となるものばかりですから、大切に保管してくださいね」
渡されたのは一つのカバンだ。何かの動物の皮を鞣して作られたのだろう。頑丈に出来ているその中には、携帯用の小さなランタンや紫色の石、ロープやナイフなどが整頓されて入っている。中身不明の小さな袋もあるが、開けてみると収縮された布がある、恐らく寝袋のようなものだろう。また以前ゴブリンさんが使用していた火打石もあるので、正しく初期装備といったところか。
「おおー。これは助かりますねー。この紫の石はどのように使うのですか?」
「こちらは、野外で貴方が就寝した際、一時的に姿を隠すことが出来る魔道具です。使用回数に限りはありますが、定期的に魔晶石に漬けることで繰り返し使用可能ですよ。さて、では今回の報酬ですが、残念ながら混沌の兵士の魔石は砕かれたので、そちらを提供する事はできません。かといって装備を提供する事も、塵となったので不可能です」
そりゃそうだ。盛大にルーナが風穴を開けたし、それに対して抗議をする気もサラサラない。ではなんだろう。使ったポーションが補填されるといいな。
「ですので、今回の報酬は――偽竜の魔石です。大容量なので、保管するか、魔晶液に変えちゃうか。選んで下さいね♪」
そんな呑気な事を考えていたら、とんでもないものが報酬となった―!




