739 人物相関
「今日はハッキリさせますよぉ~!」
「張り切ってるね」
仕事終わりの4姉妹が住み家に遊びに来て、夕食後にお茶をすすっていたらアニカが仕切りだした。
ウォルトはなんのことやらわからず、自分に関係ありそうだということだけ薄ら気付いている。
「なんとっ!今日はぁ~……ウォルトさんの人物相関図を完成させます!!」
「面白くないよ?」
あっという間に完成する。
「ちっちっ!甘いです!ウォルトさんは、昔と違って交友関係が広がってます!この辺で1回整理しておかないと、私達も油断できないので!」
「広がってはいるけど、皆ほどじゃないと思うなぁ」
「ウォルトさん…。消極的な発言は浮気とみなしますからね…?」
付き合ってもいないのに…?浮気の概念とは…?
「まず~、私達が知っている関係図は書いてきました!」
ドーン!とテーブルに置かれる。目を通して間違っている箇所はない。
「合ってるよ」
家族関係から4姉妹を筆頭にした友人関係まで網羅されていて、ほぼ完璧だと思う。
「4人で情報を共有してますから!」
「もう終わりだね」
「そんなワケないでしょう!今からこの図に枝葉を付けていくんです!消極的な態度には、注意1つを与えます!」
注意が累積されると…なにが起こるか怖いな。
「まず~、家族から広がる関係はありますか?!この図に載ってないような!」
両親と祖父母、アルクスさんは載ってる。
「ないよ」
「ちなみに、ストレイさんの家族の話はあまり聞かないんですが!」
「父さんの両親は、亡くなってるんだ。兄弟もいないはずだよ」
母さんからそう聞いてる。だから会ったことはない。いるとしたら、遠い血縁だけ。
「獣人は、兄弟いないこと多いよね。直ぐ別れるからなんだけどさ」
サマラの言葉通り、片方の親が違う兄弟は沢山いる。後腐れがない獣人の夫婦は、死ぬまで二度と会わないことも多い。
「じゃあ~、家族はこのくらいですね!次に…トゥミエ関連はどうですか?」
「サマラの家族とヨーキー、ハルケ先生達やガレオさんも入ってるから…終わりかな?トゥミエじゃないけど、ガレオさんの元恋人も知り合いだね」
「シャルロッテさんですね!忘れてました!」
アニカが書き込んで、ちょっと図が広がった。シャルロッテさんのことは、人妻と遊んでいるという疑いをかけられたときに説明済み。
「次は~、フクーベいきましょうか!」
ラットやビスコさん、ランパードさん、キャロル姉さんやメリルさん、衛兵のボリスさんやアニマーレの店員まで載ってる。花街関係も何人か。
「…ちょっとだけ足りないかな」
「なんですとっ?!教えて下さい!」
「薬師のバロウズさんやアラガネさん、あと大工のゲンゾウさん、記者のツァイトさんとか…」
あまり話題に上ることがない人達のことは載ってない。アニカが書き足していく。
「新聞記者と知り合いなのは意外です!天敵っぽいのに!」
「事件を追っていて、ボクがサバトだって気付いたらしいよ」
最近はシガネさんとも交流してる。でも、暗部のことは言えないな。
「ふむふむ…。やっぱりフクーベは多い…。冒険者もいますよね」
「スザクさんやハルトさん、マルソーさんくらいだけどね。あと、マルコとメリッサさんか」
「メリッサさんて、ゆるふわ美人で治癒師のっ?!要注意!マークしないとっ!」
言ってもいいのかな?
「マルコの恋人だよ」
「だとしても、人は心変わりするのが常ですから!」
「全然会ってないのに。孤児院のシスターマリアなんかと同じで」
「忘れてたぁ~!!シスターマリアもいたぁ~!抜けあるぅ~!」
忘れてたなら書き足さなくていいような…。孤児院だけの交流だし。
「掘ればまだ出そうです!…が、このくらいにしておきましょう。嘘は吐いてませんね?」
「吐く必要がない」
「では、次に王都で交流してる人達を教えて下さい!」
相関図を見ると、リスティアを始め、テラさんやアイリスさん、ボバンさん、ダナンさん達先人のことは書かれてる。宮廷魔導師のクウジさんもだ。
「王都での交流は、正直知りません!だから詳しく教えて下さい!」
「抜けてるのは…役者のアンジェさん、飛脚のボルトさん、貴族のボクフォレスさん達かな」
「貴族と交流してるんですか?!」
「ひょんなことからね。元々は孫のアーツと友達になったんだけど、後から当主と友人になった。あと、宮廷魔導師のロベルトさんと面識だけあるよ」
「ロベルトさん…。確か、王都の冒険者ギルド魔導師部門にいた人じゃ…」
「そう言ってたね」
「ありがとうございまっす!面白すぎ!」
アニカは楽しそうに書き足していく。
「ウォルトって、やっぱり言ってないこと多いね~」
「自分からは言いませんよね」
「兄ちゃんに「最近なにかあった?」って訊いても、出来事が多すぎて抜けてるんですよ」
「ボクの話をするより、皆の話を聞いたほうが楽しいから」
平凡な日常の話をしてもつまらないはず。
「ん~~、よし!王都はまだまだ交友関係が広がる可能性ありですね!」
「滅多に行かないから、ないんじゃないかな」
「…あっ!そういえば、S級冒険者のアルビニさんも知ってますよね!」
「そうだね。忘れてた」
「ホントですかぁ~?怪しいなぁ~?」
「ボクが嘘を吐いたらわかるよね?」
「でっす!」
会うこともないからすっかり忘れてた。元気だろうか。
「王都の次は…その他の町とか村の人です!」
作家のブライトさんや、大魔導師アニェーゼさん達、スケさん達やリリサイドの名前も書かれてる。
「クローセの皆はいいの?」
「私達の方がよく知ってる人達は、書かなくてオッケーです!」
「タマノーラの人達とか、キャミィやドワーフの師匠達がいるね」
「なるほどぉ~!詳しくお願いします!」
フォルランさん、フレイさんの兄弟とコンゴウさん達ドワーフについて簡単に説明する。キャミィとは交流してるからいいらしい。
「キャミィに会いたいですね~!」
「この間、久しぶりに来たよ。次は連絡しようか」
「お願いします!キャミィは私達の妹なので!」
人生では大先輩だけど。
「キャミィは滅多に大人にならないみたいですし、年齢からするとウォルトさんは孫みたいな感覚でしょうね!」
「そうかもしれない」
「反応がおかしいですね…?そうかも…?」
「別におかしくないと思う」
「子供を授けてくれ」って言われたことは黙っておこう。変に疑われそうだ。
「はぁ~っ?!なんですかそれっ?!求愛されてるじゃないですかっ!!」
「違っ…!」
表情から心を読み切られたのか?!
「怪しい…。なにか困るような、でも嫌ではないことを言われましたね…?」
「まぁ…そうだね」
「…追求するのはやめておきます!愛の告白ではないようなので!」
読みが鋭すぎる…。内容は言わないでおこう。キャミィに悪気はない。
あと、ボクが何度か会ったことがある人のことを教える。外国では、グレゴリーさんやステファニアさんか。相関図に書くほどではない気もするけど。
「ステファニアって、噂の大聖女ですよね!?びっくりするくらい凄い治癒師って噂だけ知ってます!」
「ウォルトさんと縁があるなら会ってみたいね」
「今度会うことがあったら、確認して2人に連絡するよ」
アニカとウイカは学ぶことがあるかもしれない。操るのが魔法じゃなくても、知識を学べる。
「聖女って「うふふふっ」「おほほほっ」って高貴な感じで笑うイメージです!」
「ステファニアさんは全然違うよ。「ですわ~!」って元気一杯なんだ。アニカやサマラみたいに」
そういえば、聖女ってどんな人を指す言葉なんだろう?教会所属なら誰でも聖女なのか?
「ウォルトさんの好きなタイプですね!よ~しよし!」
よし?
「他にはぁ~、ネネさんと知り合いだから、きっと暗部とも交流してますよね!その辺はあえて訊きません!」
「………」
バレてた。そして助かる。
「王女から英霊、元始末屋まで本当に幅広く交流してますねぇ~」
「ウォルトは普通って思ってるんだろうけど違うから!」
「まず出会えない人達です」
「サバトが目立ってなければ違ったんですかね?でも、兄ちゃんなら時間の問題だった気がする」
「ボクならってどういう意味?」
「兄ちゃんは、獣人の魔法使いでしょ。珍しいモノって、噂が広まるのが早くて、情報が集まる気がする。人も沢山絡んでくるよね」
「そうかな?」
人でもモノでも、珍しいと興味を惹かれる気がしなくはない。
「…できましたぁ!完成でっす!」
「お疲れさま」
「とりあえず、現時点での相関図ができました!協力してくれてありがとうございます!」
「役に立たない情報だけど」
「そんなことないですよ!知り合いってわかってると、対応が違います!たとえば、怪我や病気してるって伝えられたり!」
「なるほど。教えてもらえると助かるよ」
気遣いが嬉しいなぁ。
「アニカ、やっぱ結構いたって…」
「老若女いました…」
「ある意味予想通りだったね…」
「まだまだ増えるよ、きっと…」
「私が勝ちますけどね…」
「モンチャには関係なし…と」
「アニカさん…?」
ヒソヒソ話も丸聞こえだけど、『男』が抜けてるよ、なんてツッコむような話でもなさそう。
「自分の交友関係なんて気にされたことなかったから、結構楽しかった」
「でも、私達が最も交流してますから!間違いなく!」
「そうだね」
「…忘れてたぁ~!まだありました!」
「他にあるの?」
「ペニーやシーダみたいに、人族以外との交流もあったりします?」
「あぁ~…」
蟲人や精霊達と交流してるけど、言っていいのかな…。
「困ってますね!女性だけでいいですよ!」
「女性……はいないね…」
世界樹さんとかに性別はなさそうだし、蟲人には口止めされてる。
「人族以外では、リリサイドとカリーだけ…と」
きっと他にいることもバレてる。察して訊かないでくれてるんだろうな。
「では、ウォルトさんから私達に訊きたいことはありませんか!?なんでも答えますよ!」
「なんでも…。じゃあ、皆の交友関係を訊いてもいいかい?」
「もちろんです!」
普段どんな人達と交流しているのか気になる。
4人の話は新鮮で、知らないことばかりだと実感したけど、聴きながら1つ気になったことが…。
「今、初めて知ったよ~」
「ダウトって人、皆に絡んでたんだね」
「怪しすぎ!」
「ダイホウにも来たってことは、無関係じゃないですね」
最近、1人の男が4姉妹に接触を図ってることが判明した。自然を装っている風で、かなり不自然だったらしいから、名前や風貌も偽っている可能性がある。バレる前提で行動してるんだろう。
男はやんわりサバトの話題を持ち出したらしい。皆は興味ないような返答で適当にあしらったみたいだ。
「店だったけど、殴っとけばよかった」
「ありそうですね。今思えば私には興味ないって感じでした」
「また来たら、捕まえて吐かせる!」
「ちょっと気味悪い奴でしたよね」
「ボクのことを探ってるとしたら、おかしな奴かもしれない。なにかあったら直ぐにコレを…」
作り置いていた魔道具を皆に渡す。使い方は簡単。
「心配性だね~」
「お願いだから持っててくれ」
あまり詳しく言いたくないけど、ちゃんと伝えよう。
「ボクはあちこちで恨みを買ってるんだ。プリシオンに呪いをばら撒いたり、ハーグランドで脱獄したり、アヴェステノウルでショボい権力者を狂わせたりしてる」
4姉妹に血生臭い話を聞かせたくなかった。でも、報復に来た奴が数人いて、皆が標的にされる可能性もあり得る。だから、ボクがやったことを伝えよう。
皆は静かに聞いてくれた。
「あははっ!結構やらかしてるじゃん!」
「隣国の組織を返り討ちですか」
「脱獄は痛快でしたか!見たかったなぁ!」
「自分からはちょっかい出してないんでしょ?」
至って冷静な返答で緊張感がない。ドン引かれる覚悟で言ったから拍子抜け。
「とにかく持っててくれないか?小さいから邪魔にならない」
「わかった。私はもらったネックレスに付けようかな」
「いいですね」
「そうしましょう!」
「合いそうです」
全員が胸元から取り出したネックレスの鎖に通してくれた。身に着けてくれて嬉しいな。
「ありがとう」
「お礼を言うのはこっちだって。いつも気にしてくれてありがとね!」
「いや…」
こうやって気を揉ませるくらいなら、いっそ誰とも交流しないほうがいいのかな…。
「あのさぁ、いい加減にしてよ!」
「私達は理解したうえで付き合ってます」
「ウォルトさんは守ってくれようと努力してるじゃないですか!」
「兄ちゃんの好きにやればいいよ。恨まれるのがいいとは言わないけど」
理解がありすぎる。
「大体さぁ、誰だって危険なことに巻き込まれる可能性はあるじゃん。言い出したらキリないって」
「まぁ、そうなんだけど」
「やり返してるだけでしょ?自分から仕掛けたなら反省する必要あるけどさ、向こうが勝手に来るからやり返さなきゃしょうがないじゃん」
「脱獄はこっちから仕掛けてる」
「はいはい。気にするなら根切りしてきなさいよ!中途半端が1番よくない!」
サマラの言う通りだな。獣人らしく、やるなら徹底的に。
「普通に生きてるだけで恨まれることもあるんだから、いちいち気にしないの!困ったら直ぐに言うから助けて!」
「わかったよ」
とりあえず、その男が本当にサバトを嗅ぎ回っているのかを確認してみよう。場合によってはこちらから接触する。
キャロル姉さんを頼ろう。




