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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
738/740

738 メリルとリリム

 動物の森。ウォルトの住み家にて。


「あぁ~っ…!うぅ~っ…!ひぃ~ん!」


 奇声を上げているのは、魔道具職人のメリル。ウォルトはハラハラしながら様子を眺めていた。


「メリルさん…。せめて水を飲んだ方が…」

「いやっ!ふぅ~っ…!勢いで流し込むなんてできないっ!はぁ~っ…!美味すぎるからなっ!」

「そうは見えないんですけど…」


 久しぶりに訪ねてきてくれたメリルさんは、フクーベで手に入れた食材を持参してくれた。

 キネンセと呼ばれる唐辛子の一種らしく、要望に応えて料理に使った。外観や匂いではわからなかったけれど、とんでもない辛さみたいだ。なのに、悶絶しながらも食べることをやめようとしない。

 汗と涙と鼻水、ヨダレまで垂れ流しながら食べ進める姿に狂気すら感じる…。


「たまらないっ…!天にも昇る気分だっ…!ふぅ~っ!」

「もう食べるのはやめましょう!命に関わりますよ!」

「嫌なんだっ…!もう少しで……完食するのだからっ…!負けたくないっ…!」

「誰にっ?!まだ半分くらい残ってますって!」

「君がいれば心配いらないっ…!できれば、私を魔法で凍らせてくれると助かるっ…!はぁ~っ!!舌が焼けそうだっ!」


 凍らせるのは意味がわからなすぎる。火照って身体が熱いから、涼しくすればいいのか。軽く冷気を当ててみよう。


「いいっ…!寒いと痛みが和らぐ気がする…!」


 辛いじゃなくて、痛いって言っちゃってるんだよなぁ。


「ついでに魔法で水をぶっかけてくれると助かる…!土砂降りの雨のようにっ…!」

「家の中では無理です。その代わり、もう少し部屋を冷やします」

「頼むっ…!」


 ときに騒ぎ、ときに死んだかと思うくらい止まったりしながらどうにか食べきった。


「ごちそうさま…!かなりキツかった…」

「なぜやめないんですか?とりあえず、コレを飲んでください」


 甘い果汁を煮詰めた飲み物を手渡すと、口に含んで舌をお風呂に入れるかのように動かしまくっている。意味があるんだろうか…。


「激辛料理を食べるのは苦しさを伴う。だからこそ美味さも倍増するんだ」

「痛いのに味なんてわからないでしょう」

「わかる。君の料理は本当に美味い。勘違いしないでくれ。不味い激辛料理は大嫌いだ。辛いだけの料理は毒と変わりない」


 自分で作っておいてなんだけど、まったく美味しいと思えない。微妙な味付けなんて、痛みを感じるような辛さに太刀打ちできるはずがない。


「明日は1日トイレで唸るとしても、一切悔いはないよ」

「胃腸薬を出します。自家製薬ですが飲んでください。荒れを鎮めてくれます」

「ありがとう。感謝するよ」

「ところで、今日は遊びに来てくれたんですか?」

「暇ができたのもあるけれど、爺から手紙が届いた」

「爺?」

「カステロだ。覚えているかい?」

「覚えてますよ」


 森で出会い、なぜか魔道具の展示会に誘ってくれた設計士。結局ボクは見なかったけれど、気持ちが嬉しかったから覚えている。

 

「ウォルトに会いたいと書いてあった。元々は私がウォルトに確認して連絡してやると言っておいたんだが、すっかり忘れていてね。しびれを切らして向こうから手紙が来たんだ」

「ボクに会いたい理由がわかりませんが」

「シルク銀を加工したことで、爺はウォルトの技量に興味をもった。奴は誰にも作れないと思っていたんだ」

「そんなことないですよね?メリルさんは作れるはずです」

「君に協力してもらえば楽にできるが、そうでなければ相当苦労する。作れないとは言わないけれど」


 メリルさんに言われると嬉しいな。正直だし、勝手に魔道具の師匠だと思っている。


「カステロさんに会うのはいいんですが、ボクから会いには行きません。住んでる場所は遠いと言ってました」

「当然だ。会いたいならそっちから来いと書いて送りつけてやった。つまり、事後報告になる」

「話が早いですね」

「ボリスのように失礼な奴でも、用があれば会いに来るだろう?礼儀ってヤツだ」

「ボリスさんに会ってますか?」

「ちょっと前に花束を持って現れたことがあって、気味の悪さに背筋が凍ったよ。毒でも仕込んでいるんじゃないかってね」


 …実は、メリルさんのことが好きとか?勘繰るのは野暮だな。


「話を戻すが、カステロは忙しいらしい。だったら会いたいとほざくなと殴り書きしてやった」

「ボクが言うのもなんですが、メリルさんも言いたい放題ですね」

「設計士は嫌いだ。「魔道具を考えてやったぞ」とふざけた態度をとる。雑な夢物語や粗悪な設計を見せられると頭にきて、「欲しけりゃお前が作れ」と追い返すのにも慣れた。私は食うに困ってない」

「カステロさんの発想にボクは舌を巻きました。メリルさんは設計もこなせるから凄いです」

「ははっ。魔道具製作に関わるのは、設計士、職人、そして魔導師。削れるのは設計士だけ。自分でやれば鬱陶しさを1つ除けるのは大きい」

「合理的ですね」

「そんな設計士がふざけた設計を送ってきたワケだ。私は挑戦と受け取ったんだが…」


 1枚の紙を渡される。目を通してみると、魔道具の設計図。使用材料の詳細な計算も書かれている。


「複合魔法を積極的に使用する設計ですね」

「お前に作れるか?と私を煽っている。爺のくせにいい度胸だ。連絡を忘れていたことに対する当てつけだろう。製作に協力してもらいたいんだ」

「手伝わせてもらいたいです」

「助かるよ」


 メリルさんは設計図を裏返して、なにやら書き始めた。淀みなくペンを走らせる。


 …コレは。


「カステロは……複合魔法を理解していない」

「書いているのは、手順を簡素化して改造を加えた設計図ですね」

「その通り。私も魔法に詳しくないが、君から学んで奴よりは知っている。回りくどいと思っただろう?」

「省けそうな工程が多いと思いました」


 一度で充分なのに、似たような効果の魔法が何度も付与されていたりと意味不明な部分がある。


「身の程を知るいい機会だ。私を舐めたことを後悔させてやる」


 不敵に笑いながら書き進めるメリルさん。


「負けず嫌いですね」

「奴の気持ちは理解できるよ。自分は魔法を操れない。だから半信半疑で設計するのは当たり前だが、奴は怠っているんだ。完全に分業だと考えていて、職人や魔法に対する知識を深めようしない。だから、恥ずかしげもなく素っ頓狂な設計を世に出す」

「そういった設計も、後世で誰かが形にすると思っているのかもしれませんね」

「君は、自分で書いた内容が不確定な魔導書を世に出そうと思うか?」

「思いません」

「そうだろう。魔道具製作や魔法の修練は危険を伴う。私なら信頼できる者にのみ託す」

「メリルさんは、カステロさんの信頼を得たということになりますね」


 メリルさんの手が止まる。

 

「…だとすれば、ふざけた爺だ」


 また書き始めた。数分で設計を仕上げたメリルさんは、ボクに紙を渡す。


「ウォルト。後は頼みたい」

「ボクが作っていいんですか?」

「私が設計して、君が職人と魔導師という役回りになるけれど」

「できるなら全部やりたい派なので嬉しいです」

「ははっ。欲張りな君らしい」


 素材はメリルさんが用意してくれていた。激辛料理のお礼に遠慮なく使っていいらしい。


 では、作らせてもらおう。



 ★



 1時間後。


「できました。仕上がりはどうでしょうか」

「見事だよ」


 設計通りに作れたと思う。休憩なしで作ったから首が固まってしまった。回すと凝りがほぐれる。


「もっと効率的に作れたのに、気付くのが遅かったです」

「ははっ。とりあえず、私の予想通りのモノができた。ウォルトならどんな用途に使う?」


 完成したのは、またも金属。魔力や熱を素早く伝達できて、かなり軽量かつ加工も容易。


「食器に使えそうです。熱を保って美味しさを持続できるので、皿やコップに向いてます」

「いい案だと思う。私の場合は、武器に使う」

「剣や槍の素材にするということですか?」

「そうだ。魔法を付与されることで抜群の効果を発揮できる。矢に使ったりするのが最適かな」


 燃えたり凍らせる矢を打ち込まれたら厄介だろう。


「魔道具というより、様々な金属を生み出す設計が奴の本業のようだ。幅広い用途に使用される金属は、作り甲斐もある。この金属はウォルトの好きに使ってもらいたい」

「カステロさんに渡さなくていいんですか?」


 カステロさんの設計より質のいい金属だと知ってる。メリルさんは見返したかったはず。


「私は、私の信頼できる者にしか渡さない。全ての魔道具は使いようで、だからこそ相手を選ぶ。ウォルトなら武器に使おうと一向に構わない。疑念を抱かせるような奴には譲りたくないのさ」

「ボクも似たような考えです」

「そもそも、実際に作ったのは君であって、渡さない理由がない。あっはっは!」


 渡さなくても製法を覚えているなら意味はない…か。そして信頼してくれている。


「あまり気が進まないんですけど……メリルさんに渡したいので今すぐ作りますね」

「ん?なにを?」


 ハンマーや工具を使い平型に成形して、縁を綺麗に湾曲させた皿を作った。魔法で柄を入れて完成。


「君は本当に仕事が早いな」

「家で使って下さい。辛い料理の温度を熱々に保つことができます。美味しく食べられると思うので」

「はははっ!気が進まないとはそういうことか。心遣い感謝するよ」

「メリルさんを信用しています。家では食べないという約束も守ってくれていて、解禁してもいいんじゃないでしょうか」


 未だに信じ難いけど、激辛料理を幸せそうに食べる。本当は家でも食べたいはずだ。


「使わせてもらうよ。けれど、家で激辛料理は食べない。自分が言い出した約束は守らなければ」

「今のメリルさんなら、限度をわかってるんじゃないですか?」

「懲りたから倒れるまで食べはしないけれど、私は君が料理をしなくなったり、魔法を使わなくなるのが嫌だ。そして、辛い料理には中毒性がある。酒もそうだが、おかしくなってやめられない奴がいる。だからこの家に来たときくらいでいい。それだけで幸せなんだ」


 そんなことを言われたら…また作りたくなってしまうじゃないか。ちょっと辛味を抑えようと思っていたのに…。


「悩ましい顔をしてどうしたんだ?疲れたのなら、私の尻でも鷲掴むか?」

「掴みません!いきなりなんてこと言うんですか…」

「ふふっ。相変わらず真面目だなぁ」

「冗談を言ってくれるのは嬉しいです。でも、よくない冗談ですよ」

「リリムと君以外には言わない。冗談が通じないから売り子に向いてない、とキャロルに呆れられたものさ。…そうだ、ウォルトに頼みたいことを思い出した」

「なんでしょう」

「リリムを人の姿に戻す魔道具を作りたい。君が魔法を纏わせた姿に」

「手伝わせてもらいます」

「ありがとう。リリムと話して、忙しいとき仕事を手伝ってもらうことになった。フクーベにいる間は必要だと思ってね」

「そうでしたか」


 姉妹水入らずの時間もできる。


「君の魔法でも充分持続するのはわかっているんだが」

「リリムさんへの贈り物ですね」

「あぁ。リリムより私のタメかもしれない」

「いつ作りますか?こちらから伺います」

「今からでもいいかい。途中まで作って持ってきているんだ」

「構いません」


 魔道具の構造を教えてもらい、どういった魔法を付与するのか意見を交わした。場合によっては手直しが必要になるから、あえて仕上げなかったみたいだ。

 メリルさんの作る魔道具は、ボクのような魔法使いでも付与が容易な構造になっていて助かる。


 リリムさんの骨に姿を投影する魔道具という構想だったけど、ボクは幾つかに分けて作ることを提案した。「出歩けるように、投影だけでなく、変声や肉付けも可能にしてはどうですか?」と提案したら賛成してくれた。1つの魔道具では難しいから、効果を分割して製作することに決まった。


 意見交換を終えると、メリルさんは集中して手直しを始めた。邪魔にならないよう見学させてもらおう。元々素人だと言うけど、製作する姿は職人そのもの。魔法を使わず工具だけで作り上げていく過程には、見る者を引き込む力強さがある。集中力も凄い。


「あまりじっくり見られると、恥ずかしいぞ」

「すみません。目が離せなくて」

「大方作っていたとはいえ、大幅に改善が必要になる。だが、よりよい意見は取り入れたい。感謝するよ」


 感謝するのはこっちだ。見ながら多くを学んでいる。集中を削ぎたくないから言わないけど、本当は1つの魔道具で可能にする設計ができるんじゃなかろうか。あえてボクの案を採用してくれただけで。


 2時間強で改造は終わった。予想より早い。さすがだ。


「ふぅ。できた」

「魔法付与は任せてください」


 3つの魔道具にそれぞれ魔法を付与して魔道具は完成。メリルさんが装着して試したいと言うので、試験してみることに。


 まずは投影だけ。


「私はリリムになれているか?」

「ほぼ変化なしです。違うのは髪型くらいで、メリルさんを元に作った顔なので仕方ないですけど」

「そうか。手鏡があれば借りたい」


 メリルさんは自分の顔を見る。


「リリムは、左の目尻に小さなほくろがあった。あと、眉もほんの少し垂れている」

「修正しますね」

「…いい感じだ。私の中のリリムが完成した。声については、聴かせてくれないか」

「わかりました」


 ボクの声を変声する。当然メリルさんを元にして作った声。


「あ~、あ~」

「…ほんの少しだけ低く。そして、ごくわずかにかすれさせてくれ」

「こうですか?あぁ~」

「限りなく近い。ありがとう」

「よかったです」

「あと、体型なんだが、リリムはまだ細かった」

「では、今より細身に変化させます」


 詳しく教えてもらえて助かる。戦闘の師匠であるリリムさんへの恩返しに、どうせ似せるならとことん似せたい。


「ウォルトの好きな胸は、私の方が大きいがな」

「ぶっ…!」


 驚いて細すぎるリリムさんができ上がってしまった。


「はははっ!動揺しすぎだぞ」

「女性の勘って、鋭いですね…」

「感じるんだ。ウォルトはわざと見ないようにしてるとか、行動がどこか不自然に映る」


 女性と会うときは、常に『頑固』を使ってみようか。嫌な気持ちにさせてるかもしれない。


「気にすることじゃない。君の友人には嫌だと思う奴はいないさ。そのくらいわかる」

「そうでしょうか…」

「初心な獣人でもいいじゃないか。私は好ましいよ」

「ありがとうございます。でも、渋い獣人に憧れてるので、動じなくなりたいですね」

「そうか。ほら」


 メリルさんは胸を突き出してくる。


「やめましょう!よくないですよ!」

「慣れればいいんだよ。触ってもいい」

「ダメですって!」

「そんなことでいいのか?渋い獣人になれないぞ」

「お構いなく!ゆっくりなります!」

 

 メリルさんはしばらく揶揄って帰った。リリムさんにはボクが会いに行って伝えることに。移動するときはフクーベまで運ぼう。


 容姿はそっくりでも、性格の違う双子はどんな会話をして、どんな風に生活するんだろう?


 一緒に住み家に遊びに来てもらえばわかるかな。今度誘ってみよう。

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