世界中のダンジョンが、俺を見ている
――【第二段階――開始】
その文字が表示された直後。
世界中のダンジョンで、異変が起きた。
日本。
アメリカ。
イギリス。
中国。
フランス。
ブラジル。
そして、名前すら知られていない小さな国々。
全てのダンジョンに、同じ警告が浮かび上がった。
【第二段階――開始】
探索者たちは混乱した。
「なんだこれ!?」
「システム障害か!?」
「誰か運営に確認しろ!」
しかし。
ダンジョンには、運営など存在しない。
20年間。
人類はそう思っていた。
だが――
それは間違いだった。
⸻
■最深部
直人は、自分の手を見つめていた。
「……何も変わってないけど」
腕を曲げる。
拳を握る。
普通だ。
少なくとも、本人にはそう見える。
「佐伯さん」
美月が近づく。
「はい」
「さっきの文字……見えました?」
「はい」
「何だったんでしょう?」
「分かりません」
直人は苦笑した。
「俺、こういうSFみたいなの苦手なんですよ」
「……ダンジョンそのものがSFみたいなものですよ」
「それもそうですね」
美月はため息をつく。
しかし。
天音だけは笑っていなかった。
「直人」
「はい?」
「今から、何が起きても驚かないでね」
「……何か起きるんですか?」
「うん」
天音が指を上げた。
直人たちの前の空間が開く。
そこに巨大な映像が映し出された。
⸻
■東京
街中。
ダンジョンゲートが突然赤く染まる。
警備していた探索者たちが身構える。
「全員、戦闘態勢!」
ゲートから出てきたのは――
一体のモンスター。
しかし。
誰も攻撃しなかった。
いや。
攻撃できなかった。
そのモンスターは、戦うために出てきたわけではなかった。
ゆっくりと街の中央へ歩いていく。
そして。
空を見上げる。
次の瞬間。
モンスターの口から、人間の言葉が出た。
「――佐伯直人」
周囲が凍りつく。
「……え?」
探索者の一人が呟く。
モンスターは続けた。
「聞こえているか」
⸻
■最深部
映像を見ていた直人は固まった。
「……俺?」
美月も驚いている。
「どうして、あなたの名前を……」
天音は静かに答えた。
「探してるんだよ」
「誰が?」
「ダンジョンが」
「……」
直人は笑った。
「いやいや」
「本当だよ」
「ダンジョンが俺を探すって……」
天音は直人を見る。
「あなたは20年前から、ダンジョンにとって特別な存在だから」
「20年前に何があったんです?」
天音は答えない。
代わりに、別の映像を表示した。
⸻
■20年前・地下施設
若い直人。
そして天音。
その二人を囲むように、白衣の研究者たちがいる。
「この少年はどうする?」
「記憶を消す」
「危険すぎないか?」
「彼はまだ何も理解していない」
「しかし、適応率が異常だ」
モニターには数字が並んでいた。
【適応率】
0.1%
0.8%
3.2%
17%
そして最後に――
99.9%
研究者たちが息を呑む。
「あり得ない……」
「人間の適応限界を超えている」
「この少年は――」
映像が途切れた。
直人は何も言えなかった。
「……俺」
天音が頷く。
「そう」
「研究されてたの?」
「うん」
「誰に?」
天音は答えた。
「人間に」
⸻
■美月の怒り
美月が一歩前へ出た。
「待って」
声が震えている。
「それなら……父も知っていたの?」
天音は美月を見る。
「知っていた」
「私の父は、何をしていたの?」
「直人を助けようとしていた」
「……!」
美月の目に涙が浮かぶ。
「じゃあ、父は悪くなかった?」
「違う」
天音は静かに首を振った。
「お父さんは、一度だけ直人を裏切った」
「……え?」
「直人を逃がす代わりに」
天音は続ける。
「自分がダンジョンに残った」
美月は唇を噛んだ。
「……だから帰ってこなかった」
⸻
■東京・モンスター
再び映像。
モンスターが街中に立っている。
数千人の探索者が包囲している。
「動くな!」
探索者協会の指揮官が叫ぶ。
「お前は何者だ!」
モンスターは答える。
「我々は敵ではない」
「信じられるか!」
「ならば、一つだけ伝える」
モンスターが空を指す。
空に巨大な亀裂が生まれる。
「本当の敵は、まだ地球の外にいる。」
その言葉と同時に。
世界中のダンジョンが光った。
⸻
■直人の異変
「……地球の外?」
直人が呟いた瞬間。
胸の奥が熱くなった。
「っ……!」
「佐伯さん!?」
美月が支える。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫……」
直人は胸を押さえる。
――ドクン。
――ドクン。
心臓が異常な速度で鼓動する。
そして。
視界に文字が浮かんだ。
【第一封印】
【解除率:12%】
「……12%?」
直人が呟く。
天音が驚いた。
「早い……」
「何が?」
「本来なら、まだ1%にも届かないはずなのに」
天音は直人を見る。
「世界中のダンジョンがあなたを認識したことで、封印が急速に解除されてる」
「じゃあ……100%になったら?」
天音は答えなかった。
「天音?」
「……世界が変わる」
⸻
■突然の襲撃
その瞬間。
最深部の壁が吹き飛んだ。
――ドォォォン!!
「なっ!」
美月が剣を抜く。
巨大な影が現れる。
今までのモンスターとは明らかに違う。
全身が黒い。
目がない。
そして胸の中央に、
赤い光。
天音の顔色が変わった。
「……嘘」
「知ってるの?」
「うん」
天音が震える。
「これは――」
影が口を開く。
「対象、佐伯直人」
直人が前へ出る。
「俺に何か用?」
影が答える。
「回収する。」
美月が叫ぶ。
「下がって!」
影が突進する。
速い。
美月が剣を構える。
しかし。
直人が手を上げた。
「大丈夫です」
「でも!」
「なんとなく……」
直人は影を見る。
「こいつ、俺が止められる気がする」
影の拳が迫る。
直人は避けない。
拳を受け止める。
――ズン。
床が割れた。
しかし直人は動かない。
「……やっぱり」
直人は影の腕を掴んだ。
「そんなに強くない」
そして。
軽く投げた。
――ドゴォォン!!
影が壁を突き破る。
美月が絶句する。
「……」
直人自身も驚いていた。
「今の……俺がやったんですか?」
天音が呟く。
「うん」
そして。
初めて、嬉しそうに笑った。
「やっと……始まった」
⸻
■謎の声
倒れた影が立ち上がる。
壊れた身体を再生させながら、直人を見る。
「……確認」
「?」
「対象は――」
影が頭を下げる。
「覚醒個体。」
直人の背後で、巨大な光が生まれた。
天音が叫ぶ。
「直人、そこから離れて!」
しかし遅かった。
光の中から――
一人の男が現れる。
白髪。
疲れた顔。
そして。
美月がずっと探していた顔。
「……お父さん?」
男はゆっくり顔を上げる。
「……美月」
美月の目から涙が落ちた。
「お父さん……!」
男は娘を見る。
しかし。
次の瞬間。
直人へ視線を向けた。
「……佐伯」
「はい」
男は苦しそうな顔をした。
「逃げろ」
「え?」
「今すぐ、この場所から――」
その瞬間。
男の身体に黒い紋様が走った。
男が苦しむ。
「ぐっ……!」
天音が叫ぶ。
「もう時間がない!」
男は最後の力で叫んだ。
「奴らが来る!!」
世界が揺れる。
そして。
空間の彼方から、
無数の赤い光がこちらへ向かってくる。
【第二段階】
【侵入者接近】
【推定到達時間】
――6分。
直人は拳を握った。
「……逃げるって言われても」
美月を見る。
天音を見る。
そして、迫り来る無数の光を見る。
「俺、もう逃げるの慣れてないんですよ」
直人は一歩前へ出た。
「……ここで待ちます」
その瞬間。
世界中の配信画面に、直人の姿が映し出された。
視聴者数――
12万人
↓
48万人
↓
210万人
↓
1,000万人。
誰も知らなかった。
この瞬間が、
「世界最強の探索者」の最初の戦い
になることを。




