6分後、世界が終わる
――残り6分。
その数字が、空間に刻まれていた。
【侵入者接近】
【推定到達時間:6:00】
赤いカウントダウン。
それは、ただの数字ではなかった。
“死”の予告だった。
⸻
■最深部
直人は、静かに息を吐いた。
「6分って……意外と短いですね」
美月が叫ぶ。
「短いとかの問題じゃないです!」
彼女の手は震えていた。
目の前の空間は、すでに“歪んでいる”。
空気が重い。
音が遅れて聞こえる。
世界そのものが、圧力に押し潰されていた。
天音だけが、静かだった。
「来る」
その一言。
次の瞬間――
空間が裂けた。
⸻
■“侵入者”
それは、人の形をしていた。
だが、人ではない。
黒い外套。
顔のない仮面。
背後に浮かぶ、無数の“目”。
その存在は、ゆっくりと歩いてくる。
「対象確認」
声は、空間そのものから響いた。
「佐伯直人」
直人は一歩前に出る。
「はい」
普通に返事をした。
美月が絶望する。
「なんで普通に返事してるんですか!?」
「いや、呼ばれたので」
「そういう問題じゃないです!」
侵入者は、直人を見た。
「回収対象を確認」
天音が叫ぶ。
「直人、下がって!」
しかし直人は動かない。
「回収って、何をですか?」
侵入者は答えない。
代わりに――
手を上げた。
空間が“折れた”。
⸻
■圧殺
美月の視界が歪む。
「っ……!」
重力が変わる。
床が沈む。
空間そのものが、直人へ向かって圧縮されていく。
逃げ場はない。
普通なら、即死。
だが――
直人は、ただ見ていた。
「……これ、痛いんですかね?」
美月が叫ぶ。
「死にます!!」
「ですよね」
直人は納得したように頷いた。
そして――
拳を握った。
「じゃあ、止めます」
侵入者の“圧”が直人に到達する。
その瞬間。
――ドン。
音が消えた。
⸻
■“無効化”
圧が、消えた。
正確には――
直人の周囲だけ、存在しなかった。
美月が呆然とする。
「……え?」
天音が目を見開く。
「まさか……」
侵入者も、初めて動きを止めた。
「……干渉無効?」
直人は首を傾げる。
「今の、何かしました?」
美月が叫ぶ。
「あなたがやったんです!!」
「そうなんですか?」
「そうです!!」
直人は少し考えたあと。
「あ、なんか“押されてる感じ”はありました」
「それです!!」
⸻
■侵入者の変化
侵入者の仮面が、わずかに揺れる。
「……異常個体」
その声には、初めて“感情”が混じった。
「観測値を修正」
空間が再び歪む。
今度は“攻撃”。
無数の黒い槍が出現する。
天音が叫ぶ。
「避けて!!」
しかし直人は動かない。
槍が降る。
――ドドドドドド!!
床が崩壊する。
爆発。
煙。
視界が消える。
美月が叫ぶ。
「佐伯さん!!」
沈黙。
数秒。
そして――
煙の中から、声。
「……あ、これ危ないやつですね」
直人は立っていた。
無傷で。
⸻
■“理解不能”
侵入者が、初めて後退した。
「……理解不能」
天音が呟く。
「やっぱり……」
美月が震える。
「何なんですか、あの人……」
天音は答えない。
ただ、直人を見ていた。
まるで“待っていたもの”を見るように。
⸻
■直人の違和感
直人は自分の手を見た。
「なんか……変ですね」
「何がですか?」
美月が聞く。
「いや、今の攻撃」
「はい」
「当たってたら普通死ぬと思うんですけど」
「死にます」
「でも、死なない気がしました」
天音が小さく息を呑む。
「……もうそこまで」
直人は続ける。
「昔からそうなんですよね」
「?」
「危ないとき、“大丈夫な気がする”んです」
侵入者が動く。
今度は“本気”。
空間が崩壊するレベルの圧力。
天音が叫ぶ。
「来る!!」
直人は――
目を閉じた。
⸻
■覚醒
その瞬間。
直人の中で“何か”が外れた。
――カチリ。
音がした。
世界が止まる。
侵入者の動きが止まる。
美月の声も止まる。
天音の呼吸も止まる。
ただ一人。
直人だけが動いていた。
「……ああ」
直人は理解したように呟く。
「これ、思い出しかけてるやつですね」
胸の奥。
封印の数字が変わる。
【12% → 18%】
侵入者が震える。
「……危険」
初めて“恐怖”の声。
直人はゆっくり拳を握る。
「ごめんなさい」
「?」
「ちょっと、慣れてきました」
そして――
軽く、拳を振った。
⸻
■一撃
音はなかった。
ただ。
侵入者の“存在”が、消えた。
空間ごと。
美月が呆然とする。
「……え?」
天音が小さく笑う。
「やっぱり」
直人は首を傾げる。
「今の、倒したんですか?」
天音は頷く。
「うん」
「軽く殴っただけなんですけど」
「それが問題なの」
天音は直人を見る。
「普通の人間は、“世界ごと殴れない”」
沈黙。
⸻
■カウントダウン停止
残り時間。
【2:11】
しかし。
数字が止まる。
そして――
消えた。
世界中のダンジョンで、同時に。
警告が書き換わる。
【侵入者:消失】
【原因:不明】
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■“観測者”
どこか遠く。
黒い空間。
無数の“目”が開く。
『……異常』
『対象、再評価』
『佐伯直人――危険度上昇』
そして。
一つの声。
『“観測対象”から“干渉対象”へ移行』
⸻
■最深部
天音が呟く。
「……始まった」
美月が聞く。
「何が?」
天音は答えない。
ただ、直人を見て言った。
「あなた、もう“人間扱い”じゃなくなった」
直人は困った顔をする。
「それ、いいことですか?」
天音は少しだけ笑った。
「最悪」
そして――
「でも、ようやくスタートライン」
⸻
■ラスト
直人のスマホが震える。
配信画面。
同時視聴者数。
3,200万人
コメントが流れる。
『何が起きた?』
『今の何?』
『人間じゃないだろ』
『世界バグった?』
直人は画面を見る。
「……俺、配信続けていいんですかね?」
美月が即答する。
「やめてください!!」
天音は笑う。
「もう遅いよ」
そして――
ダンジョンの奥で。
“何か”が目を開けた。




