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レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


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8/61

6分後、世界が終わる

――残り6分。


 その数字が、空間に刻まれていた。


【侵入者接近】

【推定到達時間:6:00】


 赤いカウントダウン。


 それは、ただの数字ではなかった。


 “死”の予告だった。


⸻


■最深部


 直人は、静かに息を吐いた。


「6分って……意外と短いですね」


 美月が叫ぶ。


「短いとかの問題じゃないです!」


 彼女の手は震えていた。


 目の前の空間は、すでに“歪んでいる”。


 空気が重い。


 音が遅れて聞こえる。


 世界そのものが、圧力に押し潰されていた。


 天音だけが、静かだった。


「来る」


 その一言。


 次の瞬間――


 空間が裂けた。


⸻


■“侵入者”


 それは、人の形をしていた。


 だが、人ではない。


 黒い外套。


 顔のない仮面。


 背後に浮かぶ、無数の“目”。


 その存在は、ゆっくりと歩いてくる。


「対象確認」


 声は、空間そのものから響いた。


「佐伯直人」


 直人は一歩前に出る。


「はい」


 普通に返事をした。


 美月が絶望する。


「なんで普通に返事してるんですか!?」


「いや、呼ばれたので」


「そういう問題じゃないです!」


 侵入者は、直人を見た。


「回収対象を確認」


 天音が叫ぶ。


「直人、下がって!」


 しかし直人は動かない。


「回収って、何をですか?」


 侵入者は答えない。


 代わりに――


 手を上げた。


 空間が“折れた”。


⸻


■圧殺


 美月の視界が歪む。


「っ……!」


 重力が変わる。


 床が沈む。


 空間そのものが、直人へ向かって圧縮されていく。


 逃げ場はない。


 普通なら、即死。


 だが――


 直人は、ただ見ていた。


「……これ、痛いんですかね?」


 美月が叫ぶ。


「死にます!!」


「ですよね」


 直人は納得したように頷いた。


 そして――


 拳を握った。


「じゃあ、止めます」


 侵入者の“圧”が直人に到達する。


 その瞬間。


 ――ドン。


 音が消えた。


⸻


■“無効化”


 圧が、消えた。


 正確には――


 直人の周囲だけ、存在しなかった。


 美月が呆然とする。


「……え?」


 天音が目を見開く。


「まさか……」


 侵入者も、初めて動きを止めた。


「……干渉無効?」


 直人は首を傾げる。


「今の、何かしました?」


 美月が叫ぶ。


「あなたがやったんです!!」


「そうなんですか?」


「そうです!!」


 直人は少し考えたあと。


「あ、なんか“押されてる感じ”はありました」


「それです!!」


⸻


■侵入者の変化


 侵入者の仮面が、わずかに揺れる。


「……異常個体」


 その声には、初めて“感情”が混じった。


「観測値を修正」


 空間が再び歪む。


 今度は“攻撃”。


 無数の黒い槍が出現する。


 天音が叫ぶ。


「避けて!!」


 しかし直人は動かない。


 槍が降る。


 ――ドドドドドド!!


 床が崩壊する。


 爆発。


 煙。


 視界が消える。


 美月が叫ぶ。


「佐伯さん!!」


 沈黙。


 数秒。


 そして――


 煙の中から、声。


「……あ、これ危ないやつですね」


 直人は立っていた。


 無傷で。


⸻


■“理解不能”


 侵入者が、初めて後退した。


「……理解不能」


 天音が呟く。


「やっぱり……」


 美月が震える。


「何なんですか、あの人……」


 天音は答えない。


 ただ、直人を見ていた。


 まるで“待っていたもの”を見るように。


⸻


■直人の違和感


 直人は自分の手を見た。


「なんか……変ですね」


「何がですか?」


 美月が聞く。


「いや、今の攻撃」


「はい」


「当たってたら普通死ぬと思うんですけど」


「死にます」


「でも、死なない気がしました」


 天音が小さく息を呑む。


「……もうそこまで」


 直人は続ける。


「昔からそうなんですよね」


「?」


「危ないとき、“大丈夫な気がする”んです」


 侵入者が動く。


 今度は“本気”。


 空間が崩壊するレベルの圧力。


 天音が叫ぶ。


「来る!!」


 直人は――


 目を閉じた。


⸻


■覚醒


 その瞬間。


 直人の中で“何か”が外れた。


 ――カチリ。


 音がした。


 世界が止まる。


 侵入者の動きが止まる。


 美月の声も止まる。


 天音の呼吸も止まる。


 ただ一人。


 直人だけが動いていた。


「……ああ」


 直人は理解したように呟く。


「これ、思い出しかけてるやつですね」


 胸の奥。


 封印の数字が変わる。


【12% → 18%】


 侵入者が震える。


「……危険」


 初めて“恐怖”の声。


 直人はゆっくり拳を握る。


「ごめんなさい」


「?」


「ちょっと、慣れてきました」


 そして――


 軽く、拳を振った。


⸻


■一撃


 音はなかった。


 ただ。


 侵入者の“存在”が、消えた。


 空間ごと。


 美月が呆然とする。


「……え?」


 天音が小さく笑う。


「やっぱり」


 直人は首を傾げる。


「今の、倒したんですか?」


 天音は頷く。


「うん」


「軽く殴っただけなんですけど」


「それが問題なの」


 天音は直人を見る。


「普通の人間は、“世界ごと殴れない”」


 沈黙。


⸻


■カウントダウン停止


 残り時間。


【2:11】


 しかし。


 数字が止まる。


 そして――


 消えた。


 世界中のダンジョンで、同時に。


 警告が書き換わる。


【侵入者:消失】


【原因:不明】


⸻


■“観測者”


 どこか遠く。


 黒い空間。


 無数の“目”が開く。


『……異常』


『対象、再評価』


『佐伯直人――危険度上昇』


 そして。


 一つの声。


『“観測対象”から“干渉対象”へ移行』


⸻


■最深部


 天音が呟く。


「……始まった」


 美月が聞く。


「何が?」


 天音は答えない。


 ただ、直人を見て言った。


「あなた、もう“人間扱い”じゃなくなった」


 直人は困った顔をする。


「それ、いいことですか?」


 天音は少しだけ笑った。


「最悪」


 そして――


「でも、ようやくスタートライン」


⸻


■ラスト


 直人のスマホが震える。


 配信画面。


 同時視聴者数。


3,200万人


 コメントが流れる。


『何が起きた?』


『今の何?』


『人間じゃないだろ』


『世界バグった?』


 直人は画面を見る。


「……俺、配信続けていいんですかね?」


 美月が即答する。


「やめてください!!」


 天音は笑う。


「もう遅いよ」


 そして――


 ダンジョンの奥で。


 “何か”が目を開けた。

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