↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/61

「もう一人の天音」

――「それは、私の世界でもある」


 その声が響いた瞬間。


 直人は振り返った。


 そこに立っていたのは――


 天音。


 しかし。


 直人の隣にも、天音がいる。


「……私?」


 隣の天音が呟く。


 もう一人の天音は、ゆっくり歩いてくる。


 顔も。


 声も。


 姿も。


 すべて同じ。


 違うのは――


 その瞳だけだった。


 片方が青。


 もう片方が黒。


「……あなたは誰?」


 天音が問いかける。


 もう一人の天音は答えた。


「私は――」


 一瞬、目を伏せる。


「あなたが選ばなかった未来」


 直人の胸がざわつく。


「選ばなかった未来?」


「そう」


 もう一人の天音は直人を見る。


「あなたたちが第四世界を選んだことで、消えるはずだった未来」


「……未来が、どうしてここに?」


「消えなかったから」


 ミオが息を呑む。


「そんな……」


「世界を完全に消すことなんてできない」


 もう一人の天音が言う。


「選ばれなかった可能性は、必ずどこかに残る」


 少年が黒い月の欠片を握る。


「だから第五世界が生まれた」


「そう」


 もう一人の天音が頷く。


「第五世界は、すべての『選ばれなかった未来』が集まる場所」


 直人は空を見る。


 そこには無数の光が浮かんでいた。


 一つ一つが――


 誰かの人生。


 誰かの選択。


 誰かが諦めた未来。


「じゃあ……」


 直人が呟く。


「ここには、俺たちが選ばなかった未来が全部ある?」


「ある」


「天音も?」


「いる」


「ミオも?」


「いる」


 ミオの顔が強張る。


「……私も?」


「あなたは特に多い」


「どういう意味?」


 もう一人の天音は答えなかった。


 代わりに。


 空から一つの光が降りてくる。


 光の中に――


 別のミオが現れた。


「……!」


 地上のミオが息を呑む。


 そのミオは。


 今のミオより少し大人だった。


 そして。


 右目に大きな傷がある。


「私は――」


 未来のミオが言う。


「直人を殺した世界のミオ」


 直人の表情が変わる。


「……俺を?」


「そう」


 未来のミオは悲しそうに笑う。


「世界を守るために」


「どうして俺を殺す必要があった?」


「あなたが、世界を壊そうとしたから」


「俺が?」


「そう」


 未来のミオが空を見る。


「この世界では、あなたが第五世界を拒絶した」


「だから世界が崩壊した」


「そして私は――」


 直人を見る。


「あなたを止めた」


 直人は言葉を失った。


「そんな未来が……」


「まだ存在している」


 もう一人の天音が言った。


「第五世界が完成した瞬間」


「すべての可能性が同時に生まれた」


「つまり――」


 ミオが呟く。


「未来が、無限に増えた?」


「そう」


 もう一人の天音が頷く。


「だから、この世界には――」


 彼女の背後に。


 無数の人影が現れた。


「無数の『私たち』がいる」


 直人は目を見開いた。


 自分。


 天音。


 ミオ。


 少年。


 無数の可能性。


 その中には。


 笑っている者もいた。


 泣いている者もいた。


 戦っている者もいた。


 誰かを抱きしめている者もいた。


 そして。


 誰かを殺している者もいた。


「……こんなの」


 天音が震える。


「どうすればいいの?」


 もう一人の天音は静かに答えた。


「一つを選ぶしかない」


「どれを?」


「それは――」


 彼女が直人を見る。


「あなたが決める」


「……俺が?」


「そう」


「また俺が?」


 直人の声が震えた。


「また俺が世界を決めるのか?」


「違う」


 もう一人の天音は首を振る。


「今回は、世界を選ぶんじゃない」


「じゃあ何を?」


「自分自身を選ぶの」


 直人は黙った。


 すると。


 赤ん坊が泣き始めた。


「……!」


 直人が抱き上げる。


「どうした?」


 赤ん坊は空を見ている。


 無数の可能性。


 無数の自分。


 そして。


 その中の一つを指差した。


「……あれ」


 赤ん坊が初めて。


 自分から言葉を発した。


「あれ……」


 直人が見る。


 そこにいたのは――


 一人の少年。


 誰にも選ばれなかった少年。


 世界の片隅で。


 ずっと一人で立っている。


「……あいつは?」


 もう一人の天音の顔が変わった。


「……知らない」


「知らない?」


「そんな未来は――」


 彼女が後退する。


「存在しないはず」


 少年が黒い月の欠片を見つめる。


「……俺も知らない」


 ミオが少年を見る。


「でも……」


「何?」


「私、知ってる」


 ミオの顔が青ざめる。


「昔……一度だけ見た」


「どこで?」


「世界が生まれる前」


 ミオは震える。


「原初世界の外側」


「そこに、あの子がいた」


 直人は少年を見る。


「何者なんだ?」


 ミオは答えた。


「……世界を作る前の――」


 一瞬。


 言葉を失う。


「『観測者』」


 その瞬間。


 空に浮かんでいた無数の可能性が。


 一斉に消えた。


 ただ一人。


 その少年だけが残った。


 少年がこちらを見る。


 そして。


 ゆっくり口を開いた。


「やっと見つけた」


 直人が身構える。


「誰を?」


 少年は笑った。


「――僕を」


「……何?」


「ずっと探してた」


 少年は直人を見る。


「君の中にいる僕を」


 直人の身体が凍る。


「……俺の中?」


「そう」


 少年が胸を指差す。


「僕は君が世界を作る前に捨てたもの」


「孤独でもない」


「記憶でもない」


「恐怖でもない」


 少年の目が黒く光る。


「観測する者」


 直人の中で。


 何かが目を覚ました。


 ――世界を見る。


 ――世界を理解する。


 ――世界を記録する。


 その感覚が。


 一気に戻ってくる。


「……俺は」


 直人が頭を抱える。


「世界を作ったんじゃない」


 少年が頷く。


「そう」


「最初に――」


 直人の瞳が光る。


「世界を見ていた?」


「正解」


 その瞬間。


 空に巨大な文字が浮かんだ。


《第五世界・完全起動》


《創造主――未確定》


《管理者――未確定》


《観測者――覚醒》


 最後の一行。


《観測者は、世界の外側に存在する》


 直人は空を見上げた。


「……世界の外側」


 少年が笑う。


「そう」


「そして――」


 少年の背後に。


 巨大な扉が現れる。


 扉には。


 今まで存在しなかった文字が刻まれていた。


 ――《第六世界》


 直人の顔から血の気が引く。


「……また世界が?」


「違う」


 少年は首を振る。


「第六世界は――」


 扉に手を置く。


「世界じゃない」


 扉が開く。


 その向こうにあったのは――


 無数の世界を外側から見下ろす。


 巨大な白い空間。


 そして。


 その中央に。


 一つの椅子があった。


 椅子に座っていたのは――


 直人だった。


 今まで見たどの直人とも違う。


 大人。


 白い髪。


 冷たい目。


 そして。


 その手には。


 一冊の本。


 表紙には――


 《世界の書き換え方・完全版》


 直人が息を呑む。


「……あれは、誰だ?」


 少年が答える。


「あなた」


「……俺?」


「すべての世界を見終えた後の――」


 少年が笑う。


「最後の直人だよ」


 椅子に座った直人が。


 ゆっくり顔を上げる。


 そして。


 こちらを見た。


「――ようやく来たか」


 その声を聞いた瞬間。


 直人の身体が震えた。


「お前は……」


 未来の直人は。


 静かに立ち上がった。


「ここから先は――」


 本を閉じる。


「私たちの物語ではない」


 そして。


 世界のすべてを見渡す。


「世界そのものの物語だ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。