↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/61

もう一人の直人

 ――世界が、再び裏返った。


 音はなかった。


 衝撃もなかった。


 ただ、目の前に存在していた世界の表と裏が、静かに入れ替わった。


 直人は立っていた。


 その向かいにも、直人が立っていた。


 同じ顔。


 同じ声。


 同じ身体。


 違うのは――その瞳だけだった。


「……君が捨てた未来だよ」


 もう一人の直人は、静かにそう言った。


「俺が……捨てた?」


「そう」


「意味が分からない」


「分からなくて当然だよ」


 もう一人の直人は笑った。


「君はまだ、何も思い出していないから」


「……何を?」


「最初に世界を書き換えた日のことを」


 直人の心臓が跳ねた。


 ――最初に。


 その言葉だけが、妙に引っかかった。


「俺が世界を書き換えた?」


「そうだよ」


「そんな記憶はない」


「だから消したんだ」


 もう一人の直人が一歩近づく。


「君自身が」


「……俺が?」


「自分の記憶を」


 天音が二人の間に入った。


「待って」


 その声には、明らかな警戒があった。


「あなたは……何者なの?」


「僕?」


 もう一人の直人は天音を見る。


 その瞬間。


 彼の表情から笑みが消えた。


「君が一番よく知っているはずだよ」


「……知らない」


「違う」


 もう一人の直人は首を振る。


「君は知っている」


 天音の瞳が揺れた。


「……やめて」


「君が死んだ日」


 ――ドクン。


 天音の身体が固まった。


「やめて……」


「直人は世界を書き換えた」


「やめて!」


「君を生き返らせるために」


 空気が止まった。


 直人は天音を見る。


「……天音?」


 天音は答えない。


 ただ、震えていた。


「俺が……お前を?」


「そう」


 もう一人の直人が答える。


「でも、世界は一人を蘇らせるほど単純じゃなかった」


 彼が指を上げる。


 空中に、無数の光景が浮かび上がった。


 燃える街。


 崩壊する空。


 消えていく人々。


 そして――


 泣きながら天音を抱きしめる直人。


「……違う」


 直人は首を振った。


「これは……俺じゃない」


「君だよ」


「違う!」


「よく見て」


 映像の中の直人が、何かを呟いていた。


 音は聞こえない。


 もう一人の直人が言う。


「このとき君は、願ったんだ」


 映像が拡大する。


 直人の口元が動く。


 ――世界を、やり直したい。


「……!」


 直人の頭に激痛が走った。


「ぐっ……!」


 膝をつく。


 頭の奥から、失われていた記憶が一気に押し寄せてくる。


 天音。


 雨。


 血。


 泣き声。


 そして――


 白い世界。


『選択してください』


 あの声。


『一人を救うか』


『世界を救うか』


 直人は頭を抱えた。


「……俺は……」


 もう一人の直人が呟く。


「君は、選べなかった」


「……」


「だから世界を二つに分けた」


「世界を……二つに?」


「一つは、天音が生きている世界」


 もう一人の直人が右側を指差す。


「もう一つは、世界が正しく存在している世界」


 左側を指差す。


「そして二つの世界は、今まで互いを知らなかった」


 直人の顔から血の気が引いていく。


「じゃあ……今まで俺がいた世界は?」


「偽物じゃない」


 もう一人の直人は答えた。


「ただの――半分だ」


 天音が震える声で言った。


「じゃあ……私が生きていることも……」


「本物だよ」


「直人が存在していることも?」


「本物」


「なら……何が間違ってるの?」


 もう一人の直人は、天音を見つめた。


「二つの世界が、同時に存在していること」


 ――ズン。


 地面が揺れた。


 空に亀裂が走る。


 その向こう側から、別の景色が見え始めた。


 直人は息を呑んだ。


 そこには――


 もう一人の天音がいた。


「……私?」


 天音自身が呟いた。


 向こう側の天音は、こちらを見ていた。


 そして。


 ゆっくりと口を開く。


「……やっと見つけた」


 直人の背後に、無数の文字が浮かび上がった。


《世界統合プロトコル》


《開始条件――両世界の管理者が接触》


《条件達成》


《統合を開始します》


「管理者……?」


 直人が振り返る。


 もう一人の直人は、悲しそうに笑った。


「そう」


「俺たちが……管理者なのか?」


「違う」


 彼は首を振った。


「僕は管理者じゃない」


「じゃあ何だ?」


「――管理者に作られた、最後の鍵だよ」


 直人の表情が凍る。


「誰に作られた?」


 もう一人の直人は答えなかった。


 代わりに、天を見上げる。


 そこに巨大な文字が浮かび上がった。


 ――《創造者》


 そして。


 その文字の下に、一つの名前が表示される。


 佐伯直人。


「……俺?」


「違う」


 もう一人の直人が初めて怯えた表情を見せた。


「君じゃない」


「じゃあ誰なんだ!」


 その瞬間。


 世界中に声が響いた。


『――私だ』


 空が開く。


 その向こうから、巨大な眼がこちらを見下ろしていた。


『ようやく、ここまで来たな』


 天音が直人の手を握る。


 直人も強く握り返す。


 そして、もう一人の直人が呟いた。


「……第39話は、ここからが本番だ」


 直人は空を睨みつけた。


「待ってろ」


 その目に、もう迷いはなかった。


「今度は俺が――世界を書き換える」


 ――しかし。


 空から響いた声は、静かに笑った。


『それを望んでいた』


 世界が、また一つ。


 音を立てて崩れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。