第二世界――燃える都市と「消された未来」
――扉を抜けた瞬間。
熱風が直人たちを襲った。
「熱っ……!」
美月が腕で顔を覆う。
空は真っ赤だった。
巨大な建物が燃えている。
道路には無数の車。
しかし――
そのすべてが、
空中で停止していた。
まるで世界全体が、
一枚の写真になったように。
「……また時間?」
天音が空を見る。
「違う」
「これは……」
天音の表情が変わる。
「時間じゃない」
「未来が止まってる」
⸻
■未来のない世界
直人が周囲を見る。
人々は動いている。
炎も燃えている。
車も走っている。
しかし。
その先がない。
一台の車が交差点へ進む。
ところが、
交差点を通過した瞬間――
突然、
同じ場所へ戻ってしまった。
「……?」
もう一度。
同じ動き。
同じ速度。
同じ場所。
何度繰り返しても、
結果は変わらない。
恒一が呟く。
「未来が決まってる……?」
直人は首を振る。
「違います」
「この世界には――」
直人が空を見上げる。
「未来そのものがない」
⸻
■救済対象
直人の視界に、
文字が浮かぶ。
【世界番号:0002】
【世界崩壊まで:26分41秒】
【救済条件:未来の再生成】
【難易度:EX】
美月が驚く。
「未来を……作る?」
直人が頷く。
「はい」
「でも」
天音が周囲を見る。
「未来を作るには――」
その瞬間。
空から、
一人の少女が落ちてきた。
「きゃあっ!」
直人が駆け出す。
少女を受け止める。
「大丈夫?」
「……」
少女は、
直人の顔を見る。
そして。
震える声で言った。
「……あなた」
「はい?」
「未来から来た人?」
⸻
■未来人
少女は、
自分の服についた灰を払う。
年齢は十六歳ほど。
黒い髪。
左目だけ、
青く光っている。
「私はカナ」
「この世界の――」
少女は空を見る。
「最後の未来人」
零が首をかしげる。
「未来人?」
「うん」
カナは直人を見る。
「あなたたちは」
「まだ未来を持ってる」
直人が聞く。
「どういう意味ですか?」
カナは答える。
「この世界の人間は」
「明日の記憶を持ってない」
「明日の予定も」
「未来の夢も」
「未来への可能性も」
そして。
「全部――」
自分の胸を指す。
「誰かに消された」
⸻
■未来を消した存在
天音が聞く。
「誰が?」
カナは、
しばらく黙っていた。
そして。
「未来管理者」
恒一が苦笑する。
「また管理者か」
「違う」
カナが首を振る。
「この世界の管理者は」
「もう死んでる」
「じゃあ、誰が未来を消したの?」
カナは、
直人を見る。
「……佐伯直人」
全員が凍る。
「え?」
直人自身も、
言葉を失う。
⸻
■もう一人の犯人
「俺が?」
カナは頷く。
「この世界の記録では」
「そうなってる」
彼女が手を上げる。
空中に、
一つの映像が現れる。
そこに映っていたのは――
直人。
しかし。
今の直人ではない。
黒い服。
冷たい目。
片腕に、
無数の文字が刻まれている。
その直人が、
巨大な装置の前に立っている。
『未来は』
『人間を不幸にする』
『だから』
『未来を消す』
⸻
■消された未来
美月が息を呑む。
「……本当に直人さん?」
直人は、
映像から目を逸らさない。
「俺……なのかな」
天音が言う。
「違う」
「どうして分かるんです?」
「目が違う」
直人が見る。
「……」
確かに。
その直人の目には、
今の自分にはないものがあった。
――諦め。
そして。
絶望。
⸻
■カナの願い
カナが言う。
「私は」
「この未来を取り戻したい」
直人が聞く。
「未来を取り戻したら」
「この世界は助かる?」
「うん」
「じゃあ」
直人は笑う。
「やりましょう」
カナが驚く。
「簡単に言うんだね」
「困ってるんですよね?」
「……うん」
「なら」
直人は拳を握る。
「助けます」
⸻
■未来を奪った塔
カナが、
燃える街の中心を指差す。
「あそこ」
巨大な黒い塔。
その頂上に、
一本の光が伸びている。
「未来消去装置」
「そこを止めれば」
「未来が戻る」
直人が頷く。
「行きましょう」
⸻
■未来の罠
塔へ向かう途中。
直人たちは、
突然立ち止まった。
「……?」
目の前に、
一人の老人が立っている。
「ここから先へ行ってはいけない」
恒一が警戒する。
「何者だ?」
老人は答えない。
ただ、
直人を見る。
「お前は」
「また同じことをする」
直人が眉をひそめる。
「何を?」
「未来を変える」
「それの何が悪いんです?」
老人は、
悲しそうに笑った。
「未来を変えるということは」
「別の未来を殺すことだ」
⸻
■可能性の犠牲
老人が手を上げる。
空に、
無数の未来が現れる。
ある未来では、
子供が笑っている。
別の未来では、
戦争が起きている。
さらに別の未来では、
誰も生まれていない。
老人が言う。
「一つを選べば」
「他の可能性は消える」
直人は、
無数の未来を見る。
「……」
「お前は」
「どの未来を選ぶ?」
直人は答えない。
⸻
■選ばない
やがて。
直人が口を開く。
「選びません」
老人が目を見開く。
「何?」
「全部残します」
「そんなことは不可能だ」
「でも」
直人は笑う。
「前にも言いましたよね」
「第三の答えを作るって」
老人の顔が、
初めて歪んだ。
「……また、それか」
⸻
■未来の守護者
老人の身体が、
巨大な光へ変わる。
【未来管理権限】
【最終守護者】
【起動】
街全体が揺れる。
空から、
無数の光の剣が降ってくる。
「全員、避けて!」
――ズドドドドッ!!
地面が爆発する。
直人は、
カナを抱えて走る。
「大丈夫ですか?」
「うん!」
天音が叫ぶ。
「直人!」
「はい!」
「この敵――」
天音が未来を見る。
「未来そのものを攻撃してくる!」
⸻
■未来を読む敵
守護者が、
直人を見る。
「お前が右へ避ける未来」
右へ攻撃。
「左へ避ける未来」
左へ攻撃。
「跳ぶ未来」
上へ攻撃。
直人の行動が、
すべて読まれている。
「……」
直人は立ち止まる。
守護者が笑う。
「終わりだ」
「お前に未来はない」
⸻
■直人の答え
直人は、
拳を下ろした。
「そうですね」
「何?」
「俺にも」
「あなたにも」
「未来は分かりません」
守護者が、
一瞬だけ黙る。
直人は笑う。
「だって」
拳を握る。
「まだ決めてないから」
⸻
■未来を消す拳
直人が、
一歩踏み出す。
【未来予測】
【解析不能】
【未来確定】
【拒否】
【新規未来生成】
直人の前に、
無数の未来が生まれる。
右。
左。
上。
下。
攻撃。
防御。
逃走。
そして――
そのどれでもない未来。
「これで」
直人が笑う。
「読めないですよね」
拳を振るう。
――ドン!!
守護者の胸を、
拳が貫いた。
⸻
■未来管理者の正体
守護者の身体が、
崩れていく。
「……なぜ」
「未来を見ていた」
「だが」
直人は答える。
「未来を見ることと」
「未来を作ることは」
「違います」
守護者の身体から、
黒い装置が落ちる。
カナが叫ぶ。
「それ!」
「未来消去装置!」
直人が拾う。
すると。
【未来消去装置】
【管理者権限:解除】
【新規未来生成:可能】
直人は、
装置を見る。
「これを止めれば――」
カナが頷く。
「未来が戻る」
⸻
■しかし、未来が戻ると
直人が装置を停止しようとした瞬間。
――警告。
【未来復元開始】
【予測不能】
【世界崩壊確率:78%】
美月が驚く。
「未来を戻したら」
「世界が壊れる!?」
カナが、
青ざめる。
「そんな……」
天音が言う。
「この世界は」
「未来が消された状態でしか」
「今まで維持できなかったんだ」
直人は、
装置を見つめる。
「……」
⸻
■二つの選択
画面に表示される。
【未来を復元する】
【世界を維持する】
どちらか一つ。
カナが震える。
「……直人」
「はい」
「私は」
涙を流す。
「未来が欲しい」
「でも」
「この世界がなくなるのは嫌」
直人は、
ゆっくり目を閉じる。
また二択。
また犠牲。
また――
選択。
⸻
■直人が笑う
「カナさん」
「……何?」
「大丈夫です」
直人は、
装置を握る。
「今回は」
「もう答えがあります」
「え?」
直人の目が、
静かに光る。
「未来を戻して、世界も残します」
天音が驚く。
「直人……」
直人は笑う。
「だって」
装置へ拳を当てる。
「世界を救う試験なんですよね?」
そして――
「だったら」
拳を振り下ろす。
「世界が一つしか残らないなんて、誰が決めたんですか?」
――ドォォォン!!
未来消去装置が、
真っ二つに割れた。
⸻
■最後の一文
――瞬間。
空が、
真っ白になった。
そして。
世界中の人々が、
一斉に空を見上げる。
誰も知らなかった未来。
失われた可能性。
存在しなかったはずの明日。
それらが――
一気に戻ってくる。
しかし。
直人の視界には、
別の文字が浮かんでいた。
【第二世界:救済条件達成】
【未来復元:成功】
【世界維持:成功】
【想定外】
【試験管理者:接続を確認】
そして。
最後に一行。
【佐伯直人が、試験の構造を理解し始めています】
直人は、
その文字を見つめる。
「……試験管理者?」
誰も答えない。
ただ。
遥か世界の外側で、
誰かが静かに笑った。
『――そうだ』
『次は』
『お前自身の未来を試そう』




