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レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


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36/61

時間の心臓――兄を救えば、世界が消える

 ――カチッ。


 時計の針が止まった。


 世界から、


 あらゆる音が消える。


 風も。


 光も。


 人の声も。


 すべてが停止した。


 ただ一人。


 ミナの兄だけが、


 時計の中心に立っている。


「……お兄ちゃん」


 ミナが震える。


 少年は微笑んだ。


『久しぶりだね、ミナ』


「ずっと……待ってた」


『うん』


「どうして……」


 ミナの目から、


 涙が落ちる。


「どうして帰ってこなかったの?」


 少年は、


 少しだけ目を伏せた。


『帰れなかったんだ』


⸻


■時間になった少年


 少年の身体には、


 無数の時計が埋め込まれていた。


 胸。


 腕。


 首。


 背中。


 そのすべてが、


 異なる速度で動いている。


 天音が呟く。


「この人……」


「もう人間じゃない」


 少年が笑う。


『そうだね』


『僕はこの世界の時間そのものだから』


 直人が聞く。


「じゃあ」


「どうして時間を壊す必要があるんです?」


 少年は答える。


『僕が時間である限り』


『この世界は僕を必要とする』


『そして僕が存在する限り――』


 少年は、


 ミナを見る。


『ミナは永遠に、この世界から出られない』


⸻


■世界を救う方法


 直人が理解する。


「つまり」


「お兄さんを人間に戻すには」


『時間そのものを一度、終わらせる』


「そして?」


『新しい時間を作る』


 美月が驚く。


「そんなこと……」


 少年は頷く。


『できる』


『ただし』


 時計の針が、


 逆回転を始める。


『一度、世界が完全に停止する』


『その瞬間』


『この世界に存在するすべての記憶が消える』


 ミナが息を呑む。


「記憶が……?」


『うん』


『僕のことも』


『君のことも』


『この世界そのものの歴史も』


 ミナの顔が、


 青ざめる。


⸻


■ミナの選択


「……嫌」


 ミナが首を振る。


「それじゃ」


「お兄ちゃんを助けても」


「私たちが知らない人になっちゃう」


 少年は、


 悲しそうに笑う。


『そうだね』


「そんなの……」


『だから僕は』


 少年は、


 ミナに手を伸ばす。


『もう諦めていた』


⸻


■直人の第三の答え


 直人は、


 二人を見つめる。


「……」


 天音が聞く。


「直人?」


「またですね」


「え?」


「また、二つしか選択肢がない」


 直人は笑う。


「世界を残すか」


「お兄さんを助けるか」


 そして。


 拳を握る。


「でも」


「俺は――」


 ミナを見る。


「三つ目を探します」


⸻


■不可能


 少年が首を振る。


『無理だよ』


「どうして?」


『時間には容量がある』


『過去、現在、未来』


『すべてを同時に存在させることはできない』


「本当に?」


『うん』


「じゃあ」


 直人は、


 時間の流れを見る。


 過去。


 現在。


 未来。


 それぞれが一本の線になっている。


「この線を」


「一本にする必要はないんですよね?」


 少年が黙る。


『……何を言ってる?』


⸻


■時間を「線」から解放する


 直人は、


 時間の構造に手を伸ばす。


【時間構造】


【現在】


【過去】


【未来】


「時間って」


「流れなくちゃいけないんですか?」


 天音が目を見開く。


「……!」


 直人は続ける。


「流れるから」


「過去が消えて」


「未来が来る」


「でも」


 直人が笑う。


「全部残せるなら」


「流す必要、ないですよね?」


 少年が、


 初めて驚いた。


『……時間を』


『固定するつもりか?』


⸻


■止まった世界


 直人が、


 時計の中心に手を当てる。


【時間停止】


【世界固定】


【過去:保存】


【現在:保存】


【未来:未定義】


 少女が叫ぶ。


「それじゃ未来がなくなる!」


 直人は答える。


「だから」


「未来は――」


 一瞬、


 光が走る。


【新規未来生成】


「これから作ります」


⸻


■時間の再構築


 直人の周囲に、


 無数の時計が現れる。


 それぞれが、


 違う時間を刻み始める。


【過去】


【現在】


【可能性】


【記憶】


【未来】


 それらが一本の線ではなく、


 一つの巨大な円になる。


 少年が呟く。


『……時間を』


『循環させるのか』


「はい」


『そんなことをしたら』


『世界は永遠に同じ場所を回る』


「だから」


 直人は笑う。


「少しだけ」


 時計の円に、


 一つの切れ目を作る。


「進めるようにします」


⸻


■新しい時間


 ――カチッ。


 時計が動いた。


 しかし。


 今までとは違う。


 秒針が一周するたびに、


 世界が少しずつ変化する。


 過去は消えない。


 現在も消えない。


 未来だけが、


 新しく生まれていく。


【新時間構造】


【記憶保存:100%】


【世界維持:100%】


【時間管理者:不要】


 少年の身体から、


 時計が一つずつ消えていく。


『……』


 ミナが叫ぶ。


「お兄ちゃん!」


⸻


■人間に戻る


 少年の身体から、


 光が溢れる。


 時計が砕ける。


 胸。


 腕。


 背中。


 最後に――


 心臓の時計が消えた。


 少年が、


 ゆっくり床へ落ちる。


 ミナが駆け寄る。


「お兄ちゃん!」


 少年が目を開ける。


「……ミナ?」


「うん!」


「……寒い」


 ミナは、


 泣きながら笑った。


「人間に戻ったんだよ」


 少年は自分の手を見る。


「……そうか」


「僕」


「人間に戻れたんだ」


⸻


■世界が動き出す


 ――ゴォォォン。


 時計塔が、


 大きな音を鳴らす。


 止まっていた世界が、


 動き始める。


 風が吹く。


 鳥が飛ぶ。


 街に人の声が戻る。


 崩れていた建物が、


 ゆっくり修復されていく。


 そして。


 空が青くなる。


「……」


 直人は、


 その光景を見つめていた。


⸻


■救済成功


 直人の視界に、


 文字が浮かぶ。


【世界救済:成功】


【世界崩壊:回避】


【時間管理者:解放】


【新規未来:生成開始】


 直人が笑う。


「……よかった」


 天音が隣に立つ。


「うん」


「初めての救済」


 直人は頷く。


「成功ですね」


⸻


■しかし


 その瞬間。


【警告】


 突然、


 世界の空に亀裂が走った。


 美月が叫ぶ。


「え!?」


 恒一が空を見る。


「またかよ……!」


 亀裂の向こうに、


 別の世界が見える。


 そこでは――


 巨大な都市が、


 炎に包まれていた。


 無数の人々が、


 空を見上げている。


『助けて!』


『誰か!』


『世界が壊れる!』


 直人が、


 その世界を見る。


「……」


 そして。


 新しい文字が浮かぶ。


【次の救済対象】


【世界番号:0002】


【崩壊まで:27分】


 直人は、


 ゆっくり拳を握った。


⸻


■ミナとの別れ


 ミナが直人の袖を掴む。


「……行くの?」


「はい」


「また?」


「困ってる人がいるので」


 ミナは少し寂しそうに笑う。


「じゃあ」


「また会える?」


 直人は頷く。


「もちろん」


 ミナの兄も、


 直人へ近づく。


「ありがとう」


「いえ」


「君のおかげで」


「僕はもう、時間じゃない」


 直人は笑う。


「じゃあ」


「今度は普通に生きてください」


 少年は笑った。


「うん」


⸻


■新たな扉


 直人たちの前に、


 次の扉が開く。


 その向こうは、


 炎に包まれた都市。


 天音が直人を見る。


「行こう」


「はい」


 零が続く。


「次はどんな世界かな?」


 直人は、


 燃える空を見る。


「分かりません」


 そして。


「でも」


 扉へ歩き出す。


「助けに行きましょう」


⸻


■そして、世界の外側


 誰もいなくなった時計塔。


 ミナと兄が、


 直人たちを見送っている。


 しかし。


 時計塔の最上階。


 止まっていたはずの、


 古い時計が一つだけ動いていた。


 ――カチッ。


 ――カチッ。


 その時計の文字盤には、


 数字ではなく、


 一つの文字が刻まれている。


【???】


 そして。


 時計の奥から、


 誰かの声が響いた。


『第一世界、救済成功』


『第二世界へ移行』


『想定以上の速度で適応中』


 少しの沈黙。


『やはり』


『彼は危険だ』


 そして最後に――


『佐伯直人が、試験の意味に気づく前に終わらせろ』


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