最初の救済――滅びる世界の少女
――無限世界救済試験。
無数に存在する世界への扉が、
一斉に開いていた。
その中から、
直人たちが選んだのは――
一番小さな光だった。
「ここです」
直人が一歩踏み出す。
――瞬間。
世界が反転した。
⸻
■灰色の世界
そこは、
空も大地も灰色の世界だった。
建物は崩れ、
道路には誰もいない。
風すら吹いていない。
美月が辺りを見回す。
「……誰もいません」
恒一が剣を構える。
「嫌な感じだな」
天音が空を見る。
「時間が止まりかけてる」
直人が聞く。
「止まる?」
「うん」
天音が指を差す。
空から落ちてきた灰が、
途中で止まっていた。
そして――
ゆっくり上へ戻っていく。
「この世界」
天音が呟く。
「時間そのものが壊れてる」
⸻
■助けを求める声
「……誰か」
小さな声。
全員が振り返る。
「助けて……」
崩れた建物の陰。
一人の少女が立っていた。
年齢は十歳くらい。
白い服。
銀色の髪。
そして――
胸元に、
小さな時計が埋め込まれている。
直人が近づく。
「大丈夫?」
少女は、
怯えた顔で頷く。
「……あなたたち」
「はい」
「外から来たの?」
「そうです」
少女の目に、
涙が浮かぶ。
「じゃあ……」
「この世界を」
「助けてくれる?」
直人は、
迷わず頷いた。
「はい」
⸻
■世界が死ぬ理由
少女は、
自分の胸の時計を見る。
「この世界には」
「時間を動かす人がいないの」
零が聞く。
「時間を動かす人?」
「うん」
「昔はいた」
「でも――」
少女が空を見る。
「死んじゃった」
天音が気づく。
「だから時間が止まってる」
「うん」
少女は頷く。
「あと少しで」
「この世界は完全に止まる」
⸻
■残り時間
直人の視界に、
突然文字が浮かんだ。
【世界崩壊まで】
【00:59:59】
直人が驚く。
「一時間?」
少女が頷く。
「この数字がゼロになったら」
「全部、止まる」
「人も」
「空も」
「記憶も」
「そして――」
少女は自分の胸に手を当てる。
「私も」
⸻
■救う方法
直人が聞く。
「時間を動かせばいいんですよね?」
「うん」
「どうやって?」
少女が答える。
「時計塔」
遠くに、
巨大な塔が見える。
「そこに」
「この世界の時間を動かす心臓がある」
恒一が言う。
「なら、そこへ行こう」
直人が頷く。
「行きましょう」
⸻
■時計塔
街を進む。
しかし。
数分歩いただけで、
世界がおかしくなり始めた。
道路が突然、
昔の姿に戻る。
建物が完成したり、
崩れたりする。
人々の幻影が、
現れては消える。
美月が叫ぶ。
「何これ!?」
天音が答える。
「時間が混ざってる!」
直人が少女を見る。
「大丈夫?」
「……うん」
少女は笑う。
しかし。
その笑顔は、
どこか寂しかった。
⸻
■少女の名前
直人が聞く。
「名前は?」
「……」
少女は少し迷ってから、
答えた。
「ミナ」
「ミナちゃんですね」
「うん」
「俺は直人です」
「知ってる」
「え?」
ミナは、
少しだけ笑う。
「ずっと見てたから」
⸻
■予想外の言葉
直人が止まる。
「ずっと?」
「うん」
「どこから?」
ミナは、
空を指差す。
「世界の外」
全員が沈黙する。
天音が聞く。
「あなた……」
「私たちを知ってるの?」
「うん」
ミナは答える。
「この世界に来る前から」
⸻
■救済試験の秘密
ミナが言う。
「直人」
「はい」
「この試験」
「本当は世界を救う試験じゃないよ」
直人が眉をひそめる。
「……どういうこと?」
「あなたが」
「どんな世界を救うのかを見る試験」
「……」
少女の胸の時計が、
一度だけ鳴る。
――カチッ。
「世界には」
「救っても意味がない世界もある」
「滅びることが決まっている世界もある」
「それでも――」
ミナは直人を見る。
「あなたが助けるのか」
⸻
■直人の答え
直人は、
しばらく黙っていた。
そして。
「助けます」
即答だった。
「どうして?」
「困ってるから」
「それだけ?」
「はい」
直人は笑う。
「理由って、それで十分じゃないですか?」
ミナの目から、
涙が落ちる。
「……うん」
⸻
■時計塔の門番
――ゴォン。
時計塔の扉が開く。
その中から、
巨大な騎士が現れた。
全身が時計でできている。
【時間守護者】
【侵入者を確認】
【排除開始】
恒一が前に出る。
「ここは俺が!」
しかし。
時間守護者が剣を振るった瞬間――
恒一の身体が、
十歳ほど若返る。
「なっ……!?」
美月が叫ぶ。
「恒一さん!」
さらに。
天音の時間も歪む。
「……まずい」
直人が前へ出る。
「俺がやります」
⸻
■時間を超える拳
時間守護者が、
直人を攻撃する。
――ドン!
直人の身体が、
一瞬だけ消える。
次の瞬間。
別の場所に現れる。
【時間干渉】
【適応開始】
「……なるほど」
直人は、
自分の動きを見る。
「未来に攻撃して」
「過去に避けてるんですね」
天音が驚く。
「そんなこと分かるの!?」
「なんとなく」
直人は笑う。
「慣れてきました」
⸻
■時間そのものを殴る
直人が、
時計塔の中央を見る。
そこにあるのは、
巨大な時計。
しかし。
針が逆方向に回っている。
「これが」
「時間の心臓?」
ミナが頷く。
「うん」
直人は拳を握る。
「じゃあ」
時間守護者が襲ってくる。
直人は避けない。
「一回だけ」
「普通に殴ります」
――ドォン!!
拳が時計に入る。
しかし。
時計は壊れない。
逆に――
直人の拳から、
血が流れた。
「……硬い」
⸻
■世界の記憶
その瞬間。
時計から、
大量の映像が流れ込む。
この世界の誕生。
人々の生活。
少女ミナの誕生。
そして――
一人の少年。
ミナと一緒に笑っている。
「……誰?」
直人が聞く。
ミナが答える。
「私のお兄ちゃん」
「……」
「この世界の」
「最後の時間管理者」
⸻
■兄の死
少年は、
世界を救うために、
時間の心臓へ入った。
そして。
世界の崩壊を止める代わりに、
自分自身を時間へ変えた。
ミナは、
一人残された。
「お兄ちゃんは」
「私を守るために」
「時間になったの」
直人は、
拳を握る。
「……」
「だから」
ミナは笑う。
「この世界が止まったら」
「お兄ちゃんも消える」
⸻
■直人の決意
直人は、
時計を見る。
「なら」
「お兄ちゃんも助けましょう」
ミナが驚く。
「え?」
「世界だけじゃなくて」
「その人も」
「助けられるなら」
直人は拳を握る。
「全部助けます」
ミナは、
初めて笑った。
⸻
■時間の奥へ
直人が、
時計に手を当てる。
【時間領域への侵入】
【危険】
【帰還不能の可能性:99.99%】
天音が直人の手を掴む。
「一人で行かないで」
「……」
「今度は」
天音が笑う。
「私も行く」
零も手を重ねる。
「私も」
美月。
「私もです」
恒一。
「当然だ」
蓮。
「置いていくなよ」
直人は笑う。
「ありがとうございます」
そして。
六人の手が、
時間の心臓へ触れる。
⸻
■最後の一文
――カチッ。
時計の針が止まる。
世界が完全な静寂に包まれる。
そして。
時計の奥から、
一人の少年の声が響いた。
『……ミナ?』
ミナの目が、
大きく見開かれる。
「……お兄ちゃん?」
次の瞬間。
時計の奥から、
一人の少年が姿を現す。
しかし――
その身体には、
無数の時計が埋め込まれていた。
『やっと……』
少年が直人を見る。
『来てくれたんだね』
そして。
少年は、
ゆっくり笑った。
『でも、僕を助けるなら――この世界の時間を壊してもらう必要がある』




