無限の可能性――もう一人の「直人」たち
――巨大な目が、
世界の外側から直人を見つめていた。
『可能性とは』
『まだ存在していない未来のことだ』
直人は拳を構える。
「未来?」
『そう』
『お前が勝つ未来』
『お前が負ける未来』
『仲間を守る未来』
『仲間を失う未来』
『そして――』
巨大な目が開く。
『お前が存在しない未来』
「……」
直人の表情が変わった。
⸻
■無数の直人
――パチン。
巨大な目が瞬きをした瞬間。
空間に、
無数の世界が出現する。
一つ。
二つ。
十。
百。
千。
そして――
数え切れないほどの世界。
そのすべてに、
一人の少年がいた。
佐伯直人。
零が息を呑む。
「……全部、お兄ちゃん?」
少女が答える。
「違う」
「全部、“可能性”」
それぞれの直人が、
違う人生を歩んでいる。
剣を持つ直人。
魔法を使う直人。
何も持たない直人。
王になった直人。
悪になった直人。
仲間を失った直人。
そして――
一人で世界を滅ぼした直人。
⸻
■「もしも」の世界
巨大な目が言う。
『どの世界にも』
『お前と同じ存在がいる』
『ただし』
『選択が違う』
直人は、
無数の自分を見る。
「……」
その中の一人が、
こちらを見た。
黒い服。
冷たい目。
そして――
血に染まった拳。
「……あいつ」
天音が呟く。
「直人……?」
少女が首を振る。
「違う」
「彼は――」
『可能性番号:000000』
『最悪の未来』
巨大な目が告げる。
『“孤独な直人”だ』
⸻
■孤独な直人
映像が映る。
その世界では、
零がいない。
天音も。
美月も。
恒一も。
蓮も。
誰もいない。
ただ一人。
直人だけが立っている。
世界は崩壊している。
彼は、
すべてを一人で倒してきた。
そして。
最後に残ったのは――
自分だけ。
『……』
孤独な直人が、
こちらを見つめる。
「お前は」
「誰だ?」
直人が答える。
「俺です」
孤独な直人が笑う。
「……そうか」
「俺も、お前も」
「同じなんだな」
⸻
■最大の敵
巨大な目が言う。
『彼こそ』
『お前が最も恐れる可能性』
直人が聞く。
「俺が?」
『そう』
『仲間を失い』
『何も信じなくなり』
『自分だけを信じる存在』
孤独な直人が拳を握る。
「俺は」
「お前より強い」
直人は答える。
「そうかもしれません」
「なら」
孤独な直人が構える。
「殺す」
⸻
■同じ拳
――消えた。
孤独な直人が、
一瞬で距離を詰める。
拳。
直人は受ける。
――ドン!!
衝撃。
床が砕ける。
直人が後退する。
「……!」
次の攻撃。
避ける。
反撃。
――ドン!
互いの拳がぶつかる。
完全に互角。
零が叫ぶ。
「お兄ちゃん!」
天音が叫ぶ。
「直人!」
しかし。
直人は笑っていた。
⸻
■分かってしまった
「……なるほど」
孤独な直人が眉をひそめる。
「何が可笑しい」
直人は答える。
「あなた」
「俺と同じですね」
「何?」
「強くなる方法も」
「戦い方も」
「考え方も」
「全部、同じ」
直人は拳を握る。
「でも」
一歩踏み込む。
「一つだけ違います」
⸻
■仲間
直人の背後に、
零たちが立つ。
「俺には」
零が笑う。
「仲間がいる」
天音が続く。
「私もいるよ」
美月。
「私たちも」
恒一。
「当然だ」
蓮。
「忘れるなよ」
孤独な直人は、
その光景を見つめる。
「……」
そして。
拳が震えた。
「そんなもの」
「必要ない」
⸻
■孤独の理由
直人は聞く。
「本当に?」
「……」
「必要ないなら」
「どうして」
直人は孤独な自分を見る。
「そんな顔をしてるんですか?」
孤独な直人の表情が、
わずかに歪む。
「……うるさい」
「寂しいんじゃないですか?」
「黙れ!」
拳が振られる。
直人は避ける。
「仲間が欲しかったんじゃないですか?」
「黙れ!」
「誰かに――」
「黙れ!!」
孤独な直人が、
初めて叫んだ。
⸻
■壊れた未来
孤独な直人の世界が、
背後に映し出される。
誰もいない街。
崩れた学校。
消えた家。
そして――
小さな墓。
そこには、
一つの名前が刻まれていた。
【佐伯零】
直人が息を呑む。
「……零」
零本人も、
その墓を見る。
「……私?」
孤独な直人が呟く。
「守れなかった」
「……」
「何度やっても」
「何度世界をやり直しても」
「救えなかった」
⸻
■だから強くなった
「だから」
孤独な直人は、
涙を流しながら笑う。
「全部、一人でやることにした」
「誰も失わないように」
「誰にも頼らないように」
「誰も俺のせいで死なないように」
直人は黙って聞いていた。
そして。
「……それ」
拳を下ろす。
「俺も分かります」
「何?」
「怖いですよね」
孤独な直人の目が揺れる。
⸻
■直人が手を差し出す
直人は、
拳ではなく。
手を差し出した。
「一人で全部背負う必要ないですよ」
「……」
「あなたも」
「俺ですから」
孤独な直人は、
その手を見る。
「俺は……」
「はい」
「もう戻れない」
「なら」
直人は笑う。
「一緒に新しい未来を作りましょう」
⸻
■可能性の変化
――その瞬間。
巨大な目が、
初めて揺れた。
『……何?』
孤独な直人の世界に、
小さな光が生まれる。
【可能性変動】
【未来:変更】
【孤独な直人】
【別名:未確定】
巨大な目が叫ぶ。
『あり得ない!』
『可能性は固定されている!』
直人が答える。
「固定されてるなら」
「変えればいい」
⸻
■可能性を殴る
直人の拳に、
これまでとは違う光が集まる。
【無限適応】
【世界干渉】
【物語干渉】
【自己存在権】
そして最後に――
【可能性干渉】
少女が息を呑む。
「直人……」
「はい」
「それは」
「まだ存在していない力だよ」
直人は笑う。
「じゃあ」
「ちょうどいいですね」
⸻
■未来そのものへの一撃
直人が拳を振るう。
しかし。
殴ったのは、
敵ではない。
「決められた未来」そのもの。
――ドン。
無数の世界が揺れる。
未来が、
一本の線ではなくなる。
分岐する。
増える。
そして――
孤独な直人の世界にも、
新しい未来が生まれる。
零が生きている未来。
仲間がいる未来。
笑っている未来。
「……」
孤独な直人が、
涙を流す。
「こんな未来……」
直人が答える。
「ありますよ」
⸻
■巨大な目の正体
巨大な目が、
初めて後退した。
『……お前は』
『可能性を増やした』
「はい」
『可能性が増えれば』
『世界は無限に増える』
「そうですね」
『ならば』
巨大な目が、
さらに巨大になる。
『すべての可能性を』
『お前一人で背負えるのか?』
直人は答えない。
その問いは――
今までで初めて、
直人を黙らせた。
⸻
■無限世界
目の前に、
無数の未来が広がる。
一億。
一兆。
それ以上。
それぞれの世界で、
誰かが生きている。
誰かが泣いている。
誰かが助けを求めている。
直人が全部救おうとすれば――
永遠に終わらない。
天音が、
直人の隣に立つ。
「直人」
「はい」
「全部を一人で救わなくていい」
零も言う。
「みんなでやろう」
美月。
「一人じゃないです」
恒一。
「仲間がいる」
蓮。
「だから無茶しろ」
「……」
直人が笑う。
「それ、無茶していいって意味ですよね?」
「そうだ」
⸻
■新しい決意
直人は、
無数の世界を見る。
「全部救えるかは」
「分かりません」
拳を握る。
「でも」
「助けられる世界があるなら」
一歩進む。
「助けます」
巨大な目が、
静かに笑う。
『……それがお前の答えか』
「はい」
『ならば――』
巨大な目が、
完全に開く。
『次の試験を開始する』
無数の世界が、
一斉に光り始める。
⸻
■新たな試験
【試験名称】
【無限世界救済試験】
【制限時間:なし】
【対象世界:∞】
【救済可能数:不明】
【失敗条件:存在しない】
直人が首をかしげる。
「失敗条件、ないんですか?」
少女が答える。
「……ない」
「じゃあ」
直人は笑う。
「楽勝ですね」
全員が呆れる。
「「「どこが!?」」」
直人は笑った。
⸻
■最後の一文
無限に広がる世界の中。
その一つで――
小さな少女が、
空を見上げていた。
「……誰か」
「助けて」
その声を、
直人は聞いた。
遥か彼方の世界から。
そして。
直人は一歩、
その世界へ向かって歩き出す。
「行きましょう」
零が隣に並ぶ。
「うん」
天音も。
「今度は、どんな世界かな」
直人は笑う。
「分かりません」
「でも――」
無数の世界へ続く扉が、
一斉に開く。
「困ってるなら、助けに行きましょう」
その瞬間。
無限の世界のどこかで、
新たな物語が始まった。




