佐伯直人VS佐伯直人――世界を選ぶ最後の戦い
――ゴォォォン!!
現実管理機構・中枢が、
大きく揺れた。
向かい合う二人。
一人は――
物語世界を生き抜いてきた直人。
もう一人は――
現実世界を管理する直人。
同じ顔。
同じ声。
しかし。
生きてきた道は、
まったく違う。
「……」
管理者の直人が、
静かに構える。
「お前には分からない」
直人が聞く。
「何がです?」
「世界を維持する責任だ」
「……」
「一つの世界を救うために」
「何千、何万の可能性を切り捨ててきた」
管理者の目が、
冷たく光る。
「それが私の役割だ」
直人は拳を握る。
「じゃあ」
「その役割」
「俺が終わらせます」
⸻
■第一撃
――消えた。
管理者の直人が、
一瞬で目の前に現れる。
拳。
直人は腕で受ける。
――ドン!!
身体が吹き飛ぶ。
「直人!」
天音が叫ぶ。
直人は空中で体勢を立て直し、
床に着地する。
「……速い」
管理者が言う。
「これが現実世界の力だ」
直人は笑う。
「なるほど」
「じゃあ」
拳を握る。
「覚えます」
⸻
■現実への適応
【敵:佐伯直人】
【能力:現実法則完全適応】
【解析開始】
直人の目に、
無数の情報が流れる。
【速度】
【筋力】
【反応速度】
【空間認識】
【戦闘予測】
管理者が驚く。
「……」
【適応率:18%】
【31%】
【52%】
「またか……」
管理者が距離を取る。
「その能力」
「本当に厄介だな」
直人が笑う。
「ありがとうございます」
⸻
■同じ力
直人が踏み込む。
――ドン!
拳と拳がぶつかる。
衝撃で、
中枢の壁が震える。
もう一度。
――ドン!!
さらに。
――ドォン!!
互いに一歩も引かない。
零が叫ぶ。
「同じ……!」
美月が答える。
「動きが完全に同じです!」
恒一が目を細める。
「いや」
「違う」
蓮が聞く。
「何が?」
「直人は――」
恒一が言う。
「戦いながら変わってる」
⸻
■違い
管理者の直人が、
拳を振るう。
直人は避ける。
次の攻撃。
さらに避ける。
そして。
直人の拳が、
管理者の頬を捉える。
――ドン!!
「……!」
管理者が後退する。
「なぜだ」
直人が答える。
「同じ力でも」
「経験が違います」
「経験?」
「はい」
直人は笑う。
「俺、ずっと負けそうになってきたので」
「そのたびに」
「どうすれば勝てるか考えてきました」
⸻
■管理者の過去
管理者の直人が、
一瞬だけ目を伏せる。
「私もだ」
空間に映像が浮かぶ。
現実世界。
崩壊する都市。
消えていく人々。
無数の世界。
そのすべてを、
一人で管理する少年。
「私は」
「誰も失いたくなかった」
直人が黙る。
「だから」
「世界を選別した」
「一番安定する世界だけを残した」
「それが最善だと思った」
⸻
■間違い
直人が聞く。
「でも」
「その結果」
「あなたは一人になったんですよね?」
管理者は答えない。
「世界を守るために」
「世界を捨てた」
管理者の拳が震える。
「……」
「それなら」
直人が一歩進む。
「俺は別の方法を探します」
⸻
■管理者の本気
「理想論だ」
管理者の身体から、
巨大な光が溢れる。
【現実管理権限】
【最大出力】
【世界選別権限】
【完全解放】
中枢全体が、
管理者の身体と同化していく。
少女が叫ぶ。
「直人!」
「はい」
「今の彼は」
「現実世界そのものと繋がってる!」
直人は笑う。
「じゃあ」
「ちょうどいいです」
⸻
■直人の選択
直人も、
拳を握る。
しかし。
今度は力を使わない。
天音が驚く。
「直人?」
「大丈夫です」
直人は、
ゆっくり目を閉じる。
そして。
仲間たちを見る。
零。
天音。
美月。
恒一。
蓮。
最後に――
画面の向こうの少年。
「俺は」
「一人で世界を変えるんじゃない」
直人が言う。
「みんなで変えます」
⸻
■五人の力
零が手を伸ばす。
【完全安定】
天音が続く。
【時間接続】
美月。
【魔力構築】
恒一。
【因果固定】
蓮。
【生命意志】
五つの力が、
直人へ集まる。
少女が驚く。
「これは……」
「世界を支配する力じゃない」
直人が言う。
「世界を――」
「繋ぐ力です」
⸻
■第三の世界
直人の前に、
一つの新しい文字が浮かぶ。
【第三領域】
管理者が叫ぶ。
「そんな世界は存在しない!」
直人は答える。
「だから」
拳を握る。
「今から作るんです」
――ドン!!
拳が、
空間そのものを打ち抜く。
⸻
■世界の壁が砕ける
現実世界。
物語世界。
二つの世界の間に、
巨大な亀裂が生まれる。
しかし。
崩壊しない。
むしろ――
新しい空間が生まれる。
【第三領域】
【現実世界:接続】
【物語世界:接続】
【独立維持】
【相互干渉:選択可能】
少女が呆然とする。
「……できた」
零が笑う。
「お兄ちゃん……」
直人は、
少し疲れた顔で笑う。
「なんとかなりましたね」
⸻
■しかし
管理者は、
まだ立っていた。
「……」
直人を見る。
「それで終わりだと思うな」
「え?」
「世界を三つにしただけだ」
管理者の身体から、
黒い亀裂が走る。
「世界を増やせば」
「管理するものも増える」
「ならば」
管理者の背後に、
無数の影が現れる。
【第4世界】
【第5世界】
【第6世界】
【第7世界】
無数の世界が、
一斉に開いていく。
直人が目を見開く。
「……」
少女が震える。
「世界が……」
「増えてる」
⸻
■本当の問題
管理者が笑う。
「世界は一つではない」
「二つでもない」
「無限に存在する」
そして。
「お前が一つ救えば」
「その先にまた世界がある」
直人は、
無数の世界を見る。
そこには――
それぞれの直人。
それぞれの零。
それぞれの仲間たち。
無数の可能性。
「……」
直人は拳を下ろす。
そして。
「だったら」
静かに言う。
「全部、救えばいい」
管理者が、
初めて笑った。
「そう言うと思っていた」
⸻
■管理者の正体
管理者の身体が、
光へ変わっていく。
「私の役割は」
「世界を選別することだった」
「だが」
直人を見る。
「お前の役割は違う」
「……?」
「世界を選ぶことではない」
「世界が共存できる可能性を――」
管理者は微笑む。
「作ることだ」
そして。
管理者の身体が、
完全に光になる。
⸻
■最後の敵
光が消えたあと。
中枢の奥に、
一つの黒い扉が現れる。
少女が青ざめる。
「……まだいる」
直人が聞く。
「誰が?」
「今までの管理者たちは」
「全部――」
少女が扉を見る。
「この存在に作られていた」
扉の向こうから、
低い声が響く。
『――ようやくここまで来たか』
直人が拳を握る。
『佐伯直人』
『お前が作った第三領域は』
『実に興味深い』
扉が、
ゆっくり開く。
『だから――』
その向こうに立っていたのは、
人間でも。
神でも。
管理者でもない。
巨大な「目」だった。
『次は』
『世界ではなく――』
無数の世界を見つめる巨大な目が、
直人を捉える。
『“可能性”そのものと戦ってもらおう』
直人は笑う。
「可能性ですか」
一歩前へ出る。
「それなら」
拳を構える。
「まだまだ、増やせそうですね」




