二つの世界――直人が選ぶ「第三の答え」
――警告音が鳴り響く。
【世界統合プロジェクト】
【開始】
街中のスクリーンが、
一斉に赤く染まった。
人々が空を見上げる。
「何だ……?」
「空がおかしい!」
「建物が……透けてる!」
直人も空を見る。
そこには――
もう一つの世界が重なっていた。
⸻
■重なり始める世界
現実世界のビルの向こうに、
ダンジョンが見える。
道路の上に、
魔法陣が浮かぶ。
空を、
巨大なモンスターが横切る。
しかし次の瞬間。
それらはまた消える。
現実と物語。
二つの世界が、
交互に入れ替わっている。
少女が叫ぶ。
「直人!」
「はい」
「これは統合じゃない!」
「え?」
「衝突してる!」
⸻
■世界同士の拒絶
空間に、
無数の文字が浮かぶ。
【現実世界】
【物語世界】
【互換性:0%】
【統合不能】
【衝突開始】
美月が青ざめる。
「統合できないなら……」
天音が続ける。
「二つの世界が、お互いを消し始める」
直人が空を見る。
「じゃあ」
「早く止めないと」
少年が画面の向こうで言う。
『もう始まってる』
⸻
■最初の消失
遠くで、
一人の男性が突然消えた。
「……え?」
その隣にいた女性が叫ぶ。
「あなた!?」
男性の身体が、
光の粒になっていく。
そして――
完全に消えた。
直人の顔から笑みが消える。
「……」
零が呟く。
「今の人……」
「はい」
直人は拳を握る。
「助けます」
⸻
■世界の中枢へ
少年が指示する。
『この先に地下施設がある』
『そこが現実管理機構の中枢』
直人たちは走り出す。
街を抜ける。
しかし。
途中で、
巨大な壁が立ちはだかった。
【侵入禁止】
【異常存在:佐伯直人】
恒一が剣を抜く。
「俺が壊す」
「待ってください」
直人が前へ出る。
「これは俺の問題です」
壁に手を触れる。
【現実構造】
【解析開始】
直人の指先が、
淡く光る。
【適応率:12%】
「……」
数字が上がる。
【36%】
【61%】
【89%】
そして。
【100%】
直人が壁を軽く押す。
――パリン。
壁が、
砂のように崩れた。
恒一が呆れる。
「もう現実の壁まで壊せるのか……」
直人は苦笑する。
「まだ殴ってないですよ」
⸻
■現実管理機構・中枢
地下深く。
巨大な空間が広がっていた。
無数のモニター。
無数の機械。
そして。
中央に浮かぶ巨大な球体。
少女が息を呑む。
「……あれが」
「現実管理機構」
少年が答える。
『そう』
直人が見る。
「これを壊せばいいんですね?」
『違う』
「え?」
『壊したら』
『現実世界そのものが崩れる』
直人が止まる。
「……じゃあ、どうするんです?」
少年が答える。
『管理機構を止める』
『でも――』
少年の声が震える。
『それには、誰か一人が中枢になる必要がある』
⸻
■一人だけの器
零が顔を上げる。
「それって……」
少女が答える。
「世界を支える“器”」
「誰か一人が」
「永遠に中枢として存在する」
美月が叫ぶ。
「そんなの……!」
恒一が拳を握る。
「ふざけるな!」
蓮も言う。
「誰かを犠牲にして世界を救うなんて」
直人は、
静かに球体を見る。
「……」
⸻
■少年の告白
画面の少年が言う。
『だから僕は』
『ずっと待ってた』
直人が見る。
『君なら』
『僕の代わりになってくれると思った』
「……」
『僕にはもう』
『時間がない』
少年の身体が、
少しずつ透明になる。
零が叫ぶ。
「あなた……!」
『僕は』
少年は笑う。
『この世界を維持するための存在だから』
⸻
■もう一人の直人の正体
直人が聞く。
「あなたは」
「普通の人間じゃないんですね」
『うん』
少年は頷く。
『僕は、この世界が作った“器”』
『君と同じ顔なのは』
『君を基準に作られたから』
直人が目を伏せる。
「……俺のコピー?」
『違う』
少年は首を振る。
『僕は』
『君が選ばなかった可能性』
⸻
■もしも
少年の背後に、
無数の映像が浮かぶ。
力を持たなかった直人。
仲間を作らなかった直人。
戦わなかった直人。
普通の生活を送った直人。
そして。
誰にも出会わず、
一人で世界を支え続ける直人。
『僕は』
『君がもし』
『何も選ばなかったら』
『存在していたかもしれない』
直人は、
少年を見つめる。
「……」
⸻
■直人の答え
直人が歩く。
少年へ近づく。
「じゃあ」
「一つだけ聞いていいですか?」
『何?』
「あなたは」
「本当に死にたいんですか?」
『……』
「それとも」
「誰かに代わってほしいだけですか?」
少年は、
初めて泣いた。
『……分からない』
直人は笑う。
「じゃあ」
「決めるのはまだ早いですね」
⸻
■第三の答え
直人が中枢へ向かう。
球体に手を伸ばす。
【接続開始】
【警告】
【現実世界との同化が発生します】
【続行しますか?】
直人は答える。
「はい」
少女が叫ぶ。
「直人!」
天音が駆け寄る。
「何をするの?」
「調べます」
「何を?」
「二つの世界を」
直人の目が光る。
「一つにするんじゃなくて」
「二つとも独立して存在できる方法を探します」
⸻
■直人、世界の構造を見る
直人の意識が、
中枢の内部へ入っていく。
そこには――
無数の世界。
無数の時間。
無数の可能性。
そのすべてを、
一つの構造が支えていた。
直人は呟く。
「……なるほど」
世界は、
二つしかないわけではなかった。
無数にある。
ただ。
それぞれが、
互いに干渉できないようになっている。
「だったら」
直人が笑う。
「壁を作ればいい」
⸻
■世界の境界
直人の周囲に、
新しい文字が浮かぶ。
【世界境界】
【設計開始】
【現実世界】
【物語世界】
【独立維持】
そして。
【相互干渉:任意】
少女が目を見開く。
「直人……」
「はい」
「あなた」
「世界の間に――」
「新しい境界を作ってる」
直人は笑う。
「壁がなければ」
「作ればいいんですよね?」
⸻
■しかし
その瞬間。
中枢が激しく揺れる。
【警告】
【外部干渉を検知】
【現実管理機構】
【上位管理者を呼び出します】
全員が振り返る。
巨大な扉が開く。
そこから、
一人の男が歩いてくる。
黒いコート。
白い髪。
そして――
直人と同じ顔。
しかし。
その男は、
これまでの誰とも違った。
⸻
■第三の佐伯直人
男が言う。
「やはり来たか」
直人が聞く。
「あなたも佐伯直人?」
「ああ」
零が驚く。
「また……?」
男は笑う。
「私は」
「この世界の“管理者”だ」
直人が首をかしげる。
「管理者なら」
「世界を守ってくれるんですよね?」
「違う」
男は答える。
「私は――」
ゆっくり手を上げる。
『世界を選別するために存在する』
⸻
■選別開始
中枢全体に、
巨大な文字が浮かぶ。
【世界選別】
【候補】
【現実世界】
【物語世界】
【生存可能数:1】
天音が息を呑む。
「一つしか残せない……」
男が言う。
「そうだ」
直人を見る。
「だから選べ」
「どちらを残す?」
直人は、
しばらく黙っていた。
そして。
「……嫌です」
男が眉をひそめる。
「何?」
直人は拳を握る。
「さっきも言いましたよね」
「俺は――」
笑う。
「第三の答えを作ります」
⸻
■最後の一文
男の表情が、
初めて変わった。
「……そうか」
男の身体から、
巨大な力が溢れ出す。
「ならば」
中枢全体が震える。
「お前が作った第三の答えが」
「本当に世界を救えるのか――」
男の目が、
赤く光る。
「私が直接、確かめてやろう」
直人は静かに拳を構える。
「お願いします」
そして。
現実世界で初めて――
佐伯直人同士の戦いが始まった。




