現実の直人――二人の「佐伯直人」
――街が静まり返っていた。
巨大スクリーンに映る少年。
その顔は――
直人と同じだった。
しかし。
直人は、すぐに違いに気づいた。
「……目が違いますね」
零が聞く。
「目?」
「はい」
画面の少年の目には、
戦いの跡がない。
怒りもない。
悲しみもない。
ただ――
寂しさだけがあった。
⸻
■現実世界の直人
少年が話す。
『初めまして』
「……」
『僕も佐伯直人』
「俺も佐伯直人です」
『知ってる』
少年は笑う。
『だから、ずっと待ってた』
直人は聞く。
「何を?」
少年の表情が、
少しだけ曇る。
『君に会うこと』
⸻
■二人の違い
少年は続ける。
『君は』
『物語の中で強くなった』
『仲間を作った』
『世界を救った』
『原初体を超えた』
直人は黙っている。
『でも僕は違う』
画面が切り替わる。
少年の人生。
学校。
家族。
友達。
普通の日常。
しかし。
ある日。
世界が突然、
黒い塔に覆われた。
『僕の世界では』
『物語なんて存在しなかった』
『ダンジョンも』
『魔法も』
『管理者も』
『全部なかった』
少年は言う。
『ただ――』
『君だけが存在した』
⸻
■夢に現れる直人
映像の中。
少年が眠っている。
夢の中に、
直人が現れる。
戦っている。
笑っている。
仲間と歩いている。
少年は、
それを毎晩見ていた。
『最初は夢だと思った』
『でも』
『毎日、少しずつ違っていた』
『君は成長していた』
直人が呟く。
「……」
『そして僕は気づいた』
少年が画面越しに直人を見る。
『君は僕の中から生まれたんじゃない』
『僕の世界の“外側”から来ていた』
⸻
■呼び出した理由
直人が聞く。
「じゃあ、俺を呼んだ理由は?」
少年は答える。
『助けてほしかった』
「誰を?」
少年が、
自分の胸を指す。
『僕を』
沈黙。
『僕の世界は』
『もうすぐ終わる』
⸻
■終わりかけた世界
画面が切り替わる。
街が崩れている。
空が黒い。
人々が逃げている。
建物が消えていく。
零が息を呑む。
「これ……」
少女が答える。
「世界の崩壊」
「でも」
天音が言う。
「ここには管理者がいないんじゃ?」
少女は首を振る。
「いる」
「ただ――」
少女の顔が青ざめる。
「この世界の管理者は」
「世界を守るために存在しているんじゃない」
⸻
■現実の管理者
画面に、
一つの文字が浮かぶ。
【現実管理機構】
その下に、
さらに文字。
【目的:物語世界の排除】
直人が眉をひそめる。
「物語世界?」
少女が答える。
「私たちの世界」
「あなたたちが生きてきた世界」
「全部――」
少女が画面を見る。
「この世界から見れば」
「異常なデータなんだよ」
⸻
■世界の掃除
少年が言う。
『僕の世界は』
『今、物語世界を消している』
『だから』
直人を見る。
『君たちを呼んだ』
恒一が剣を握る。
「俺たちを消すためじゃないのか?」
『違う』
少年は首を振る。
『逆』
『君たちなら』
『この世界を救える』
⸻
■直人の疑問
直人は考える。
「でも」
「俺は普通の人間ですよ?」
少女が笑う。
「今はね」
「今は?」
「あなたの力は」
少女が直人の胸を見る。
「現実世界では眠っている」
「でも」
「適応は止まっていない」
直人が自分の手を見る。
何も起きない。
「……」
その瞬間。
指先に、
小さな光が灯る。
【環境変化】
【適応開始】
直人が笑う。
「やっぱり」
⸻
■現実への適応
光が少しずつ強くなる。
【現実世界】
【物理法則】
【時間】
【重力】
【生命】
直人の身体が、
現実の法則を理解していく。
少女が驚く。
「速すぎる……」
零が笑う。
「お兄ちゃんだから」
直人は拳を握る。
「これで」
「少しは戦えますね」
⸻
■現実管理機構の刺客
――その瞬間。
空から、
無数の光が落ちてくる。
人型。
白い装甲。
顔はない。
【現実執行体】
【対象:異常存在】
【排除開始】
恒一が前に出る。
「来たぞ!」
美月が魔法を構える。
「魔法が使えない!」
蓮が拳を構える。
「なら、肉弾戦だ」
天音が直人を見る。
「行ける?」
「はい」
直人は笑う。
「普通の人間として」
⸻
■初めての現実戦
執行体が襲いかかる。
――ドン!
直人が拳を入れる。
しかし。
敵は吹き飛ばない。
「……硬い」
反撃。
直人が避ける。
拳。
蹴り。
防御。
それでも、
相手のほうが強い。
美月が叫ぶ。
「直人さん!」
直人は笑う。
「大丈夫です」
そして。
もう一度、
拳を握る。
【適応率:23%】
⸻
■少しずつ強くなる
敵の攻撃を受ける。
【適応率:41%】
避ける。
【適応率:58%】
攻撃する。
【適応率:73%】
そして。
直人の拳が、
執行体の胸を捉える。
【適応率:100%】
――ドォン!
初めて。
執行体が吹き飛んだ。
恒一が笑う。
「やっぱりお前はお前だな!」
直人も笑う。
「そうみたいです」
⸻
■現実のルールを書き換える
倒れた執行体が、
再び立ち上がる。
【再構築】
直人が見る。
「何度でも復活するんですか?」
少年が答える。
『現実管理機構は』
『倒すだけでは止まらない』
「じゃあ?」
『管理機構そのものを壊す必要がある』
直人は少し考える。
「場所は?」
少年が答える。
『僕の世界の地下』
『“現実管理機構・中枢”』
⸻
■二人の直人
少年が画面越しに言う。
『そこに来て』
「俺が?」
『君と僕』
少年は笑う。
『二人で』
直人が眉をひそめる。
「何をするんです?」
『決めるんだ』
「何を?」
少年の表情が変わる。
『どちらの世界を残すか』
全員が凍る。
⸻
■二つの世界
少女が叫ぶ。
「待って!」
『どうしたの?』
「そんな選択をする必要はない!」
少年は悲しそうに笑う。
『あるよ』
『現実世界と物語世界』
『両方を維持するだけの容量はない』
天音が聞く。
「つまり……」
少年が答える。
『どちらか一つしか残せない』
⸻
■直人の答え
直人は黙っている。
零が不安そうに見る。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫です」
直人は、
ゆっくり拳を握る。
「また三択ですね」
少年が聞く。
『三択?』
「世界を選ぶか」
「世界を捨てるか」
「どちらかを犠牲にするか」
直人は笑う。
「でも」
拳を前に出す。
「俺は④を作るのが得意なんですよ」
少年の目が、
初めて大きく見開かれる。
⸻
■最後の一文
直人は、
現実世界の少年を見る。
「二つとも残します」
少年が呟く。
『……できるの?』
「分かりません」
「でも」
直人は笑う。
「やってみないと分からないですよね」
その瞬間。
世界中のスクリーンに、
一斉に警告が表示される。
【重大異常】
【現実世界と物語世界の融合を検知】
【原因――】
【佐伯直人】
そして。
そのさらに下に、
新しい文字が浮かぶ。
【世界統合プロジェクト】
【開始】




