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レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


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30/61

現実世界の侵入者――物語を超えた直人

 ――静寂。


 世界の外側。


 無数の物語が浮かぶ空間で、


 直人たちは巨大な影を見上げていた。


 その影には、


 顔がない。


 形もない。


 ただ――


 「現実」という概念だけが存在していた。


『佐伯直人』


『ここから先は』


『お前たちの世界ではない』


 直人は首をかしげる。


「じゃあ、どこです?」


『現実だ』


「……」


 直人は少し考える。


「現実って、殴れます?」


 少女が呆れた顔をする。


「お兄ちゃん……」


 零も苦笑する。


「またそれ?」


「だって」


 直人は拳を見る。


「今まで全部、殴れましたから」


⸻


■現実の法則


 巨大な影が、


 手を広げる。


『この世界では』


『能力は存在しない』


『魔法も存在しない』


『概念干渉も』


『世界改変も』


『無限適応も』


 直人の身体から、


 次々と光が消えていく。


【能力停止】


【魔力停止】


【概念干渉停止】


【存在権限停止】


 そして――


 最後の文字。


【佐伯直人】


 だけが残った。


 零が叫ぶ。


「お兄ちゃん!」


「大丈夫です」


 直人は笑う。


「また普通に戻りました」


⸻


■普通の人間


 美月が不安そうに聞く。


「本当に大丈夫なんですか?」


「はい」


「でも……」


「力がなくても」


 直人は拳を握る。


「俺は俺です」


 恒一が笑う。


「相変わらずだな」


 蓮も頷く。


「能力に頼らないのは悪くない」


 天音は静かに直人を見る。


「でも」


「何です?」


「この世界では」


 天音が言う。


「私たちも普通の人間になる」


 直人が笑う。


「じゃあ」


「みんなで普通に頑張りましょう」


⸻


■現実世界


 ――瞬間。


 すべてが白くなる。


 次に直人が目を開けたとき。


 そこは――


 見慣れない街だった。


 高層ビル。


 車。


 信号。


 人々。


 スマートフォン。


 そして。


 空に浮かぶ巨大なスクリーン。


 零が周囲を見る。


「……ここは?」


 少女が答える。


「現実世界」


「これが……?」


「そう」


 直人は歩道を見る。


 そこには、


 一枚の新聞が落ちていた。


 直人が拾う。


「……」


 新聞の一面。


 そこには――


【異世界転移事件】


という見出しがあった。


⸻


■存在しないはずの事件


 美月が新聞を覗き込む。


「これ……」


 記事には、


 奇妙な文章が書かれていた。


【先月、全国で謎の“空間消失現象”が発生】


【複数の住民が一時的に姿を消した】


【原因は不明】


 恒一が呟く。


「俺たちのことじゃないか?」


 蓮が首を振る。


「いや」


「時系列がおかしい」


 天音が新聞の日付を見る。


「……私たちが世界を超える前の日付」


 直人が眉をひそめる。


「じゃあ」


「俺たちが来る前から」


 少女が答える。


「この世界では」


「あなたたちの物語が始まっていた」


⸻


■直人の名前


 突然。


 街頭スクリーンが切り替わる。


【緊急ニュース】


 アナウンサーが話している。


『本日、新たな人物が確認されました』


 画面に、


 一枚の写真が映る。


 直人。


「……俺?」


 美月が驚く。


「どうして写真が?」


 アナウンサーが続ける。


『名前は――』


 画面に文字が出る。


【佐伯直人】


 直人は固まる。


「……」


 少女の顔が青ざめる。


「ありえない」


⸻


■未来ではない


 零が聞く。


「何が?」


 少女が答える。


「この世界では」


「まだ直人は存在していないはず」


「じゃあ、あれは?」


「分からない」


 蓮が画面を見る。


「いや」


 蓮が指差す。


「写真の背景」


 全員が見る。


 直人の後ろ。


 そこには――


 巨大な黒い塔。


 零が息を呑む。


「……あれ」


 直人も気づく。


「私たちがいた塔?」


「そう」


 少女が震える。


「でも」


「ここには存在しないはず」


⸻


■もう一人の世界


 街の向こう。


 巨大なビルの屋上。


 一人の男が、


 こちらを見ている。


 黒いスーツ。


 白いシャツ。


 そして――


 直人と同じ顔。


 男は電話を持っている。


「確認しました」


『対象は?』


「佐伯直人」


『本物か?』


「分かりません」


『ならば』


 電話の向こうの声が答える。


『処理しろ』


 男は笑う。


「了解」


⸻


■追跡者


 直人たちの前に、


 一台の黒い車が止まる。


 ドアが開く。


 数人の男たちが降りてくる。


 全員、


 黒い服。


「佐伯直人」


 一人が言う。


「同行してもらう」


 直人が聞く。


「どこへ?」


「質問は必要ない」


 恒一が前に出る。


「嫌だと言ったら?」


 男が銃を取り出す。


 ――しかし。


 直人が手を上げる。


「待ってください」


「直人?」


「ここ、現実世界なんですよね?」


 少女が頷く。


「そう」


「じゃあ」


 直人は銃を見る。


「これ、本物ですよね?」


「……?」


 直人は少し考える。


「殴ったら駄目ですよね」


 零がため息をつく。


「お兄ちゃん……」


⸻


■初めての「弱さ」


 銃声。


 ――パンッ!


 直人の肩を弾丸がかすめる。


「直人!」


 天音が叫ぶ。


 血が流れる。


 直人は驚いた顔をする。


「……痛い」


 美月が駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「はい」


 直人は傷を見る。


「本当に痛いですね」


 少女が叫ぶ。


「だから言ったでしょう!」


「ここでは」


「あなたは普通の人間なの!」


 直人は少し黙る。


 そして。


「……なるほど」


 拳を握る。


「普通の人間って」


「結構大変なんですね」


⸻


■仲間が守る


 恒一が直人の前に立つ。


「なら、今度は俺たちが守る」


 美月も。


「そうです」


 蓮も構える。


「力がなくても」


 天音が微笑む。


「仲間は仲間」


 零は直人の手を握る。


「兄妹だから」


 直人は、


 少しだけ笑う。


「……ありがとうございます」


⸻


■少女の秘密


 少女が突然、


 空を見上げる。


「……来る」


 直人が聞く。


「何が?」


「この世界の管理者」


「また管理者?」


「違う」


 少女の顔が青ざめる。


「この世界の管理者は――」


 その瞬間。


 街全体のスクリーンが、


 一斉に同じ映像へ切り替わる。


 そこに映ったのは、


 一人の男。


 白い髪。


 黒い服。


 そして――


 直人と同じ顔。


『佐伯直人』


『君には、会ってもらいたい人物がいる』


 直人が聞く。


「誰です?」


 男は答える。


『君自身だ』


⸻


■本物の直人


 少女が震える。


「……そんな」


 零が聞く。


「どういうこと?」


 少女は答えない。


 画面の男が続ける。


『君が知っている佐伯直人は』


『物語の中の存在だ』


 直人を見る。


『しかし』


『この世界には――』


 一瞬、画面が乱れる。


 そして。


 一人の少年が映る。


 直人と同じ顔。


 だが。


 服も。


 髪型も。


 表情も違う。


『現実世界で生まれた』


『もう一人の佐伯直人がいる』


 直人は言葉を失う。


「……俺が?」


⸻


■現実の直人


 画面の少年が、


 ゆっくり顔を上げる。


 そして。


 直人と目が合った。


 少年が呟く。


『……やっと来た』


 直人が聞く。


「俺を知ってるんですか?」


 少年は微笑む。


『知ってる』


『ずっと待ってた』


 そして。


『だって――』


 少年の目が赤く光る。


『僕が、君をこの世界へ呼んだから』


⸻


■最後の一文


 直人の背後で、


 少女が震える。


「直人……」


「はい」


「この世界に来たんじゃない」


「……?」


 少女が言う。


「あなたは――」


 街全体が、


 巨大な音を立てて揺れる。


「この世界に呼び出されたんだよ」


 そして。


 現実世界の直人が、


 画面の向こうで笑った。


『ようこそ』


『――僕の世界へ』


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