美月と初ダンジョン同行――異常確定
――人は、違和感を“確信”に変える瞬間がある。
神崎美月は、その瞬間を迎えていた。
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■朝・直人の部屋前
「本当に来たんですね」
直人は少し眠そうな顔でドアを開けた。
「約束しましたから」
美月は淡々と答える。
その目は昨日よりも鋭い。
「今日は何するんです?」
「確認です」
「何の?」
「あなたが“普通の人間かどうか”です」
「普通ですけどね」
「普通の人は、ゴブリンを転ばせて壁にめり込ませません」
「……転んだだけなんですけど」
美月は無言でスマホを操作した。
昨日の映像。
再生。
スロー。
停止。
「……やっぱりおかしい」
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■ダンジョン入口
初心者ダンジョン。
昨日と同じ場所。
しかし今日は空気が違う。
美月の周囲には、すでに数万人の視聴者が集まっていた。
『美月ちゃんソロじゃないの!?』
『あのおっさんまた出るの?』
『検証回きた』
『絶対バズるやつ』
直人はスマホを見ている。
「すごい人ですね」
「あなたのせいです」
「俺?」
「はい」
美月は即答した。
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■第一階層
ダンジョンに入ると、空気が変わる。
湿度。
温度。
音。
すべてが現実と違う。
「ここからは私が先行します」
「はい」
美月は剣を抜いた。
次の瞬間。
影が動く。
ゴブリン3体。
「来ます」
美月が踏み込む。
一閃。
――ズバッ。
一体目。
二体目。
流れるように処理。
『さすがAランク』
『速すぎ』
『これがプロか』
そして三体目。
美月が踏み込もうとした瞬間――
「……あ」
直人が前に出た。
「危ないですよ」
軽く手を伸ばす。
ゴブリンの頭に触れる。
――ドン。
音は小さい。
しかし結果は異常だった。
ゴブリンが後方へ吹き飛ぶ。
壁に激突。
沈黙。
『……は?』
『今の何?』
『触っただけだよな?』
美月の動きが止まる。
「……今、何をしました?」
「止めただけですけど」
「止めただけで吹き飛びません」
「そうなんですか?」
美月は一歩下がった。
「あなた、本当に何者ですか?」
「ただの元会社員です」
「……」
沈黙。
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■第二階層
さらに深く進む。
ここからは中級者領域。
空気が重い。
視聴者数はすでに10万人を超えていた。
『これガチ検証回だろ』
『美月が困惑してるの珍しい』
『おっさんの正体はよ』
そのとき。
地面が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……
「来ます」
美月が構える。
現れたのは――
オーガ。
初心者ダンジョンには本来出ない個体。
推定レベル20。
「……おかしいですね」
美月が呟く。
「ここに出るはずがない」
オーガが咆哮する。
棍棒を振り上げる。
美月が走る。
――ガキィン!
受け止める。
しかし重い。
「っ……!」
押される。
その瞬間。
「美月さん」
直人が後ろから歩いてきた。
「下がってください」
「危険です!」
「大丈夫です」
オーガが直人を見る。
次の瞬間――
直人が軽く拳を握った。
「……えい」
――ドン。
一撃。
空気が割れた。
オーガの巨体が浮く。
そして――
壁に激突。
完全沈黙。
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■沈黙のダンジョン
『…………』
『え?』
『今の見た?』
『オーガが消えたんだけど』
『一撃?』
『レベル20だぞ?』
美月は動けなかった。
剣を握ったまま。
直人を見る。
「……今の、本当に何ですか?」
「殴りました」
「それは見れば分かります」
「じゃあ問題ないですね」
「あります」
美月は一歩近づく。
「あなた、絶対にレベル1じゃない」
「そうなんですかね」
「普通はオーガを一撃で倒せません」
「でも倒れましたよ?」
「……」
美月は言葉を失った。
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■第三階層・異常発生
さらに奥へ。
そして――
ダンジョンが“反応”した。
壁が脈動する。
空気が歪む。
「……これは」
美月の顔が変わる。
「ダンジョンが“警戒”してる?」
直人は首をかしげる。
「何かまずいんですか?」
「普通はこんな反応しません」
その瞬間。
空間が裂けた。
黒い影。
人型。
しかし人ではない。
“観測者”のような存在。
【対象確認】
【佐伯直人】
【適応率:異常】
機械音声。
美月が息を呑む。
「……何これ」
直人は見上げる。
「こんにちは?」
沈黙。
そして――
【危険度判定:測定不能】
【隔離対象】
空間が揺れる。
美月が叫ぶ。
「佐伯さん、離れて!」
しかし直人は動かない。
「これ、敵ですか?」
「そうです!」
「じゃあ倒しますね」
直人は一歩踏み出した。
その瞬間。
世界が止まった。
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■異常確定
拳。
ただの一撃。
しかし――
空間ごと“歪んだ”。
黒い存在が消える。
ダンジョンが静止する。
そして。
【警告】
【観測対象:危険】
【優先度:最高】
世界のどこかで。
誰かが呟いた。
「……見つけた」
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■地上
ダンジョンから出る。
美月は震えていた。
「あなた……今の見えました?」
「何かいました?」
「いました」
「そうなんですね」
「普通じゃないです」
「よく言われます」
美月は直人を見た。
確信していた。
この男は――
“人間の枠にいない”
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■ラスト
スマホが鳴る。
通知。
『同時視聴者:12万人突破』
コメントが流れる。
『何今の』
『ダンジョン壊れた?』
『おっさん何者だよ』
『美月ちゃん固まってるの初めて見た』
直人は画面を見る。
「……今日もよく分からなかったな」
美月は小さく呟いた。
「……もう検査じゃ足りないですね」
そして――
「次は、上層ダンジョンに行きましょう」
直人は首をかしげる。
「まだあるんですか?」
「あります」
「大変ですね」
「あなたのせいです」
その言葉に。
直人は少し笑った。
そして誰も知らない。
この瞬間すでに――
世界は“彼”を観測対象として認識していた。
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