おっさん、バズる
――人は、自分がバズっていることに最初は気づかない。
佐伯直人(40)は、普通に寝ていた。
普通に起きた。
普通に歯を磨いた。
そしてスマホを見た瞬間――
「……は?」
固まった。
画面に表示されていたのは、見慣れない数字だった。
**再生数:86万回**
「……え?」
もう一度見た。
**86万回。**
「……バグか?」
直人はアプリを閉じた。
もう一度開いた。
**86万回。**
「……」
無言でスマホを置いた。
そして、ゆっくり座る。
「俺、昨日……何したっけ」
思い出す。
ダンジョン。
ゴブリン。
転んだ。
以上。
「……それだけだよな?」
そのとき、通知が一気に鳴り始めた。
ピコン、ピコン、ピコン、ピコン――
「うわっ」
画面を見る。
『チャンネル登録者数:12万人突破』
「……は?」
『あなたの動画が急上昇ランキング1位になりました』
「……え?」
『おすすめに掲載されました』
「……え?」
直人はスマホを置いた。
そして天井を見た。
「……俺、何かやらかした?」
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## ■同時刻・ネット
『レベル1のおっさんやばい』
『ゴブリンワンパンの謎おじさん』
『転んだだけで敵吹き飛ぶの草』
『これガチなら世界変わる』
『いやバグだろ』
『でも再生数えぐい』
切り抜き動画が量産されていた。
タイトルは全部同じだった。
**【レベル1のおっさん、物理法則を無視する】**
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## ■探索者協会
「……これ、本物か?」
モニターを見ながら、職員が呟く。
映像には、転倒した瞬間にゴブリンが吹き飛ぶシーン。
「衝撃波?」
「いや、そんなレベルじゃない」
「レベル1だぞ?」
「……レベル1で説明できる動きじゃない」
沈黙。
そして一人が言った。
「……解析班に回せ」
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## ■直人の部屋
「……どうしよう」
直人はコーヒーを飲みながら考えていた。
会社はもうない。
金は減る一方。
でも昨日の配信はバズっている。
「……これ、続けたら金になるのか?」
スマホを見る。
コメント欄はまだ伸び続けている。
『次の配信まだ?』
『あのおっさん見たい』
『定期的に転んでほしい』
「転ぶの期待されてるのか俺……」
そのとき。
インターホンが鳴った。
「……?」
ドアを開ける。
そこに立っていたのは――
一人の女性だった。
黒髪。
長身。
冷たい目。
そして、明らかに“普通じゃない雰囲気”。
「佐伯直人さんですね」
「はい」
「昨日の配信、見ました」
「……ありがとうございます?」
女性は一歩踏み出した。
「私は神崎美月。探索者ランクAです」
「……A?」
「あなたに確認したいことがあります」
直人は少し身構えた。
「何でしょう」
美月は真っ直ぐ見た。
「――あなた、本当に“レベル1”ですか?」
直人は少し考えてから答えた。
「そうですけど」
「……」
沈黙。
そして美月は小さく息を吐いた。
「……やっぱり、変ですね」
「よく言われます」
「普通は死んでます」
「え?」
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## ■ダンジョン深部
その頃。
誰も知らない場所。
巨大な空間。
無数の光るモニター。
その中心で――
「観測対象、再確認」
機械の声。
映像には直人が映っている。
転んでいる映像。
ゴブリンが吹き飛ぶ映像。
そして――
「適応率、異常上昇」
「対象:佐伯直人」
「評価更新」
沈黙。
そして最後に一言。
「――“観測優先対象”に指定」
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## ■直人
「……で、何なんですか?」
美月は少し黙ってから言った。
「あなた、明日もう一度ダンジョンに来てください」
「え?」
「確認します」
「何を?」
美月は一瞬だけ目を細めた。
「――あなたが“人間かどうか”を」
直人は固まった。
「……え?」
その瞬間。
スマホが鳴る。
通知。
**『あなたの配信がトレンド1位になりました』**
直人は画面を見た。
「……俺、ただ転んだだけなんだけどな」
その言葉の裏で。
世界はすでに気づき始めていた。
――このおっさんは、何かがおかしい。




